第11話 RE:初配信②
「はあ、はあ、はあ……。お、お知らせはこの辺にして、私たちの活動を改めて話していきましょうか。ね、ベル……ってまた触ろうとしている!」
「魔法でセナの体を動けないようにして、好き勝手してしまうぞ?」
「そ、それだけは……。せめて配信外なら許します……」
「その言葉、忘れるでないぞ?」
「今日のベル、Sだ。ドSだ……。体がもたないです……」
「これくらいで勘弁してやろう。ほれ、続けるぞ?」
いたずらしてきたのはそっちのくせに……と悪態をついても始まらない。
私のお小言はすぐに流して、またにやにやとこちらを見てくるに決まっているのだから。その悪魔的(悪魔なのだから的もなにもないけども)仕草に魅了され始めているのかもしれない、と思うほどベルのすべてを許容し始めている自分がいた。
その件に関しては後から考えることにして、次に話すメモを確認した。
「活動の内容ですね! 私はオカルト大好きを公言しているので、ホラーゲームはたくさんやりたいと思っています。あとはオカルト大好きな友達をたくさん作ること。ベルは何をしたいですか?」
「我は世界を作りたい!」
「世界を作る……。物理的にですか、ゲームの中ですか?」
力のある悪魔なのだから、もしかすると超人的パワーで地球をもう一つくらい簡単に作ってしまうかもしれない。それはVTuber活動の域を超えているので、私の活動方針的にもご遠慮願いたい。国家も絡んでくるようなことはしたくない。
ベルはポンポンと私の肩を叩くと、目を細めた。
「安心せい。ゲームの中でじゃよ。支配者として、民たちを見守ったり快適にしてあげるようなものがいいな」
「街づくり系とかですかね? 皆さん、私たちの好みに合ったおすすめありますか?」
〈コメント〉
コメント:ベルちゃん、グラクラにハマりそう
コメント:スタートゾーンやってほしい!
コメント:夜間事件待ってます……
コメント:ナチュラルなベル呼び、助かる
コメント オンリークライム耐久
コメント よぶつきシリーズ頼む!
「知っているゲームと知らないゲーム、たくさんある……。迷っちゃいますね。とは言っても、一番最初にするゲームは決まっているんですけどね!」
「明日は何をするか、言ってやれセナ」
「な。なんと……夜間事件します!!!」
〈コメント〉
コメント:夜間事件きちゃ!!!
コメント:ホラーよりホラーな人が一緒にいるんですけど
コメント:絶対ホラゲーに出てくる幽霊よりもベルちゃん様つおい
コメント:悪魔と一緒にホラーゲーム←パワーワードすぎる
「夜勤をしているときに、お化けに出会ったりするゲームらしいんですけど。詳しくは見てないです、配信の時に楽しみたいので」
「まあ、ベルゼブブたる我がついておるからの。セナが泣き叫ぶようなことにはならないと思うのじゃが」
「逆にベルが怖がっていたりするかもしれませんよ?」
「ほう、よほど我に虐められたいそうじゃな」
「ご、誤解ですよお!」
ベルの魔の手から必死に逃げながら(とは言っても椅子に座ったまま)、ほぼ無意味な攻防を繰り返す。
ベルの嗜虐心を抑えたところで、最後のコーナーに進んだ。
「最後に少し質問コーナーでもしようと思います。コメント欄に書いてください」
「目に留まったものを読むからの〜」
流れが速くて、読もうと思った質問がすぐに流れて行ってしまう。
ありがたいとは思いつつも、かなり大変な作業だ。どれどれ、どの質問を読もうかな……。
パッと目に入ってくるものは、やはりベルとの関係性だ。
「お二人は同棲していますか?」
「同棲しておるぞ♡ 二人暮らしラブラブじゃ」
「言い方に悪意を感じます!」
「悪意はないぞ? 愛情たっぷりじゃ!」
指ハートを両手で作りながら。私に向かってウインクを投げる。
圧倒的視聴者には見えない、一個人に対してのファンサービスだ。一体どこでこの悪魔はこんなファンサービス(というか明らかに現代の限られた場所での文化である指ハート)を学んだのだろう。悪魔、恐るべし。
「他の悪魔を召喚する予定はありますか、ですか。今のところは考えてなかったですね。新しい2人での生活だったり、それこそ配信活動だったり。慣れないことばかりなので、そこが落ち着いたら考えるかもしれません」
「我は……しばらくこのままがいいのじゃ……!」
きゅっと私の袖をつかみ、上目遣いでこちらを見る。
先ほどいたずらをしてきた悪魔と同じ存在か、疑ってしまうほど庇護欲が増幅するような視線だった。
思わず息をのんでしまう。
これが悪魔に魅了される、ということなのかもしれない。
「それはずるいですよ、ベル」
「我、セナとたくさん遊びたいし……。一緒に配信するためなら、何でもするのじゃ! 」
「私たち、1年以上は契約で一緒にいられますよ」
「確かに、そうじゃな! セナ、そこで冷静に戻るんでないのじゃ〜」
すり寄ってくるベルの肩を抱き寄せ、ぎゅっと急接近してみる。してやられっぱなしだったから、仕返しもしなくては!
ベルの顔を見ると、いきなりのことでびっくりして照れているのか顔が赤くなっていた。
「可愛いお顔になってますよ、ベルゼブブ様?」
マイクに入らないように、耳元で囁いてあげれば更に顔が紅潮する。
〈コメント〉
コメント:機材トラブル?
コメント:マイクオフにしてる?
コメント:がさごそって音がなっているから、切れてはないと思うぞ
「すみません、ベルにお灸を据えていました」
「す、据えられておらんし……」
〈コメント〉
コメント:お灸(意味深)
コメント:え……ちだ………(気絶)
コメント:見えないところでいちゃいちゃするのも良い……!
コメント:建前もっとやれ 本音もっとやれ
コメント:一部始終、言い値で買います
ベルに公開仕返しも出来たし、メモの内容も全部終わったので大満足だ。
いい時間になってきたし、そろそろ締めに入らなくては。明日は学校もあるし、しっかり寝ないといけない。
「こんな感じで初配信リトライ、終わります! ご視聴いただき、ありがとうございました〜!!!」
「あ、明日の配信も来るんじゃよ〜」
〈コメント〉
コメント:おつセナベル〜
コメント:気になることがありすぎる……!
コメント:明日も楽しみだ!
コメント:おつせなべる
コメント:おつセナベル!
—――――
作者です。
ゲームタイトル、どれが元ネタか分かりましたか……?
次のお話は……セナとベルの話題で持ちきりになっている学校のお話です。身バレの危機に陥るのか、どうなのかお待ちください。
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