第10話 RE:初配信①

「マイクよし、モニターよし」

「緊張しているのか?」

「少しだけ……」


 待機人数20万人。『でびちゅーぶ』の状態は分からないけれど、きっとこの倍は見てくれている人がいるんだろうなと察することが出来る。

 これで緊張するなは流石に無理がある。震える手を押さえながら、マウスへと手を伸ばす。すると左手があたたかな感触に包まれた。ベルの手だった。


「セナは右利きじゃろ? 左手は配信中そんなに使わんじゃろうから、手を繋いでやろう」

「ありがとう、ベル」


 安心させるように、ベルは優しい笑みを浮かべていた。


「パソコン操作も任せきりじゃからな、今我にできるのはこれくらいしかない。1人ではないのじゃから、安心するのじゃ」

「私、精一杯頑張ります!」


 ベルと目を合わせて、ゆっくりとカーソルを移動させる。


「それでは配信開始ボタン、押しますね」


 軽快な待機BGMが流れ始める。

 マイクの音量を上げて、ゆっくり息を吸う。

 そして明るく、挨拶の言葉を言った。


「皆さん、こんばんは! 天魔セナと」

「ベルゼブブこと、ベルじゃよ〜」


 続けてベルも挨拶をした。するとコメントの流れが加速する。


〈コメント〉

 コメント:おはセナベル〜

 コメント:おはせなべる!

 コメント:待ってました!

 コメント:今日もイチャイチャ見せてくれ~~~


 思わずくすりと笑ってしまいたくなるようなコメントもあるが、ひとまずは配信を完遂しなければならない。コメントを見て笑い合うのは、配信が終わった後にベルと楽しく行おう。


「たくさんの方に見ていただけて、本当に感謝しています! 緊張していますが、面白い配信を皆様に届けられるように頑張ります! まずはお知らせ関連ですね」


 あらかじめ用意しておいたメモを取り出す。

 ベルのこと、これからの配信内容などある程度まとめておいたのだ。

 えっと、まずは……。


「今後の配信方針について、お話ししようかなと思います」

「お察しの通り二人で配信することが主になるのじゃが、それぞれ個人で配信もしようと思っておるぞ。それこそ誰かと対決コラボする時は、こっちは二人になってずるいじゃろ?」


〈コメント〉

 コメント:確かに

 コメント:二人で一緒にプレイしているのもみたいし、それぞれでプレイしているのも見たいね

 コメント:個人の配信も楽しみだ~


「というわけで、私だけモデルがあるのもバランスが良くないので……ベルのモデル作成が決定しました!!!」


〈コメント〉

 コメント:きちゃ~~~!!!

 コメント:絶対可愛い

 コメント:嬉しすぎる

 コメント:ママは誰になる感じ?

 コメント:↑そりゃ一人しかいない……

 コメント:めえまま、三人目で子だくさんか!?


「誰に作ってもらうか、察しているコメントがちらほら見られますね〜」

「そうじゃな〜」

「もったいぶっても仕方ないので、ベル。発表しちゃってください!」

「我のVTuberとしての姿、鹿角めえ殿に作成していただけることになったぞ!」

「そしてこちら、出来立てほやほやのラフイラストのベルです!」


 ベルは得意げな顔をしながら、声高らかにその名前を言った。

 そしてすかさず、イラストを投下するとコメントの流れが速くなった。みんな喜んでくれているみたいで良かった、芽生には感謝してもしきれない。


「もでりんぐ含めてのお披露目はもう少し先になるんじゃが、みな待っていてくれるよなあ!?」


〈コメント〉

 コメント:うおおおおおおおお!!!

 コメント:ベルちゃん様最高

 コメント:もちろん、ベルちゃん様!!!

 コメント:動けるようになる代が払えない!!! 早く収益化してくれえええ

 コメント:動けるベルちゃん見られるようになるの、楽しみ


 流石は魔界のお偉いさん。

 リスナーを盛り上げるのもお手の物だ。見習っていきたいところだし、私だって負けじと声をあげる。


「お、おまえらあ! ぜ、ぜ、ぜったあい、ついてえこいよおおお!」

「大変申し訳にくいんじゃが、無理はするなよ……」

「む、無理してないですよ!」

「繋いでいる手、とっても汗かいとるぞ?」

「そ、それは言っちゃダメなやつですよ!」


〈コメント〉

 コメント:ベルセナてえてえ

 コメント:てえてえがすぎる

 コメント:手をつなぎながら配信していたなんて……けしからん!

 コメント:もっとやれ!!!


「と、とにかく! ベルのモデルとか機材の準備ができるまでは、基本的に二人で配信をしていくつもりです。このチャンネルの収益で購入していこうかなと思っているので、もうしばらく待っていてください!」


 完全にペースが乱れてしまった。

 これは失態……。雰囲気に乗せられちゃって、ついつい大きく出てしまった。日常生活ではこんなに前に出ることがなかったから、上手くできなかったなあ。でもこれから出来るようになっていけばいいんだし、何よりベルがいるんだから大丈夫なはず、そうそう大丈夫!

 隣のベルを確認すると、にやりと笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 ……これはとんでもなく嫌な予感がするやつだ。

 そして手を見せつけるように、さわさわとくすぐったい触り方をしてきた。


「べ、ベル。くすぐった、いですよ。んん……っ」


 つい、変な声が出てしまった。

 お察しの通り、私はくすぐりが苦手だ。

 脇、膝……ありとあらゆる場所に耐性がない。もちろん手も例外ではない。


〈コメント〉

 コメント:可愛い声、出ちゃったねえ

 コメント:これはえどい

 コメント:これは……これ以上は何も言うまい

 鹿角めえ:幼馴染のあられのない声を聴いてしまったんだが、これからどんな風に顔を合わせるべきなのか分からない件について(発売日未定、先生の次回作にご期待ください)

 コメント:(建前)おいたわしや、セナ殿(本音)もっとやれ


も、もしかして……。とんでもない声を配信で乗せちゃった!?

そんな失言していただろうか。ベルがくすぐってきたこと以外、何もなかったはずだけど。ベルの方を見てみるが、答えが返ってくるはずもなく。


「もしかして、魔法か何かかけた?」

「いや、してないぞ? しいて言うならば、我なりのリラックスを提供しておるだけだぞ」

「鬼だ……」

「悪魔じゃが?」


 追い打ちをかけるように足裏をつついてきて、私が(自覚なしのあられのない)声を再びあげたのは言うまでもない。




 —――――

 作者です。

 色々忙しかったので、投稿が出来てませんでした。

 少しずつ再開していきますので、読んでいただけると嬉しいです。

 面白い、今後に期待できる、続きが気になると思われた方は、作品フォローや★での評価をして頂けると嬉しいです。感想もお待ちしております。


次回は土曜日の18時ごろ更新予定です。

RE初配信の続きになります。





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