第9話 伝説的バズり

「あの配信、本当に本当だったのね」


 かくかくしかじか、芽生にすべてをお話しした。

 彼女であれば、きっと理解してくれると思っていたからだ。案の定、驚きながらもこの出来事に対して、なんとか飲み込んでくれた。


「まーさか、本当に召喚してしまうなんてね。配信見ながら、とってもびっくりした」

「私もびっくりしたけど、これが現実なんだよね」

「流石に本物を目の前にしちゃあね、あたしも信じないなんて言えないよ」


 ベッドに腰掛けるベルはこちらを見上げながら、こてんと首を傾げた。


「それで、このお方は誰じゃ? 友人か?」

「友達の——」

「上野芽生です♡ 鹿角めえって言った方が分かりますか?」

「鹿角めえと言えば、《鬼灯あめ》のママか!!!」


 VTuberは立ち絵を描いてくださったイラストレーターさんを《ママ》と呼び、親しくしているケースが多い。《鹿角めえ》も例にもれず、新作イラストを発表するたびにコメントしてくれる《鬼灯あめ》と仲良しだ。

 芽生とベルは熱い握手を交わし、早くも意気投合していた。


「そうです、その通~りです! 《鬼灯あめ》ちゃんのママ天魔セナちゃんのママです!!!」

「お会いできて光栄じゃ!!! 我は悪魔のベルゼブブ、よろしく頼むぞ!!!」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします~!」


 一通り自己紹介をが終わって満足した芽生はふとスマートフォンを取り出し、画面を私たちに見せてくる。どうしたのだろうか、と思いながらのぞき込むとSNSサービス『しゃべったー』の画面を開いていた。


「『しゃべったー』がどうかしたの?」

「もしかして、配信が終わってから確認してなかった!?」

「ベルのこともあって、それどころじゃなかった。配信終わってから一回も確認してないかも。確認しておいた方がよかった?」

「やけに冷静だったの、それが理由だったのね……」


 ベルと一緒に、『しゃべったー』のトレンドを確認する。

 えっと、トレンドのランキング1位……『天魔セナ』!?!?!?

 声にもならず、ベルと芽生の顔を交互に見る。


「これ、現実?」

「現実だよ」

「現実じゃよ」



「な、なにこれえええええええええええええ!!!!!!!」



 大声で声をあげる以外に、私は思考停止してしまっていた。

 さらにSNSを確認すると、『天魔セナ』『ベルゼブブ』『召喚』『ぶいすたあ』『鬼灯あめ』『鹿角めえ』などの私に関係するワードが大量にトレンド入りしている。

 フォロワーも1万弱だったものが10万を超えている。配信サイトであるミーチューブの登録者数は25万人に膨れ上がっており、本当に自分のアカウントなのか疑ってしまうくらいだった。

 

「は、初配信の視聴回数、ひゃ、100万……!?!?」

「ほう、一夜にして有名人になってしまったな」

「どうしてベルはそんなに冷静なんですか!?」

「そりゃ我、有名な七つの大罪のベルゼブブじゃし」

「あ……確かに」


 ある意味、この場で『バズり』耐性がないのは私だけだ。

 芽生は有名イラストレーターとして活動しているから、万バズは当たり前の世界で生きている。ベルゼブブも魔界の偉い人(どのくらいなのかはまだ分からないけれど、七つの大罪というポジションを誇りに思っていることから地位が高いと思う)だからこそ、大勢の前に立つことには慣れているだろう。

 私はごく普通の高校生として生きていたからこそ、こんなに多くの人に注目される機会なんてなかった。けれど自分の発信したコンテンツが多くの人に見てもらえるということ、それを通じてオカルトの友達が増える可能性があること、この2点を考えると今の状況は良いのかもしれない。


「私、頑張ろうと思う」

「良い心がけじゃな!」

「土台は十分だからこそ、伸びしろ十分って感じだし」

「大勢の前に立つのは緊張しちゃうけど、少しずつ慣れていって。有名VTuber目指す!」

「もう十分、有名VTuberだと思うんだけど」

「じゃあ、トップ?」

「夢は大きく、が大切じゃからな!」

「二人でトップVTuber目指しましょう!!!」

「おー!!!」


 ベルと一緒に天高くこぶしをあげた時だった。

 芽生が人差し指を顔の前で立てながら、神妙そうに言った。


「お二人さん、盛り上がるのは良いんだけど。一つ忘れていることがあるんじゃない?」

「機材とか? 流石に二人で配信するのに、マイク一つはつらいもんね。二人用ゲームもしたいし、収益化したらベル用のパソコンも買いたいかもしれない」

「それくらい、我がちょちょいのちょいで用意できるぞ?」

「稼いだお金の使い道を決めかねていたので、こういう使い方の方が見てくださるファンの方も嬉しいんじゃないかって思うんです」

「確かにな! セナの言うとおりにしようかの!」


 ベルがわははと笑うと、芽生はちっちっちと指を振った。


「立ち絵がないと、VTuberって呼べないですよね?」

「「あ……」」


 私とベルは声をそろえて、愕然とした。

 確かに、VTuberといえば立ち絵というのが一般常識的にある。もし立ち絵がなかったら、VTuberではなく実況者ということになる。(そのあたりの境界線はあいまいではあるけれど)

 現状、ベルには立ち絵がない。

 初配信の時も、私の立ち絵しかない状態での乱入者のようなポジションで全世界に発信されていた。今必要なものと言えば、ベルの立ち絵そのものなのだ。けれど立ち絵を作るにしても、モデリングをするにしてもある程度の時間を要する。つまり、今夜の配信に間に合わせるのは神業がなければ難しい話ということになる。

 全くそのことを考えていなかった(考える脳みそが残っていなかったともいう)。


「我、立ち絵がないのじゃ……」


 今にも消え入りそうな声でベルはうなだれていた。

 あんなに楽しみにしていたのに、一気に希望を打ち砕かれたかのようだった。

 けれどそんなベルの肩をたたいて、元気づける人物が一人。芽生だ。


「今お二人の目の前にいる人物、誰だかお忘れではなくて?」

「芽生、だけど」

「あたしの職業は?」

「学生兼イラスト、レーター……!」


 そっか!

 芽生はイラストレーター、そして私の『ママ』でもある。

 けれど多忙な人物だからこそ、スケジュールを組むのも難しいんじゃないだろうかという心配も脳裏に浮かぶ。


「もしかして、スケジュールとかの問題を考えてくれている?」

「うん。芽生、忙しいからね」

「まあ、そこはなんとかするから大丈夫!!!」


 というわけで、と前置きしながら芽生はにっこりと笑みを浮かべた。


「ベルちゃんの立ち絵、描いちゃいますよ~!」

「本当にいいのか!?」

「もっちろん! 大事な親友の相方になる存在だからね、もちろん腕によりをかけてデザインさせていただきますよ」

「あ、ありがとうございますなのじゃ!!!」


 ベルは芽生の手をぶんぶん振って、感謝を表していた。


「モデリングは難しいから立ち絵だけになるけど、許してね。そのあたりは後日、色々調整するから」

「それだけでも十分だよ!」

「今日の夜までに、立ち絵だけは完成させるから待っていて!」


 そう言い残して、爽快に我が家を去っていった。



 —――――

 作者です。


 面白い、今後に期待できる、続きが気になると思われた方は、作品フォローや★での評価をして頂けると嬉しいです。感想もお待ちしております。


 初配信リトライの回になります、お楽しみに。

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