第8話 並んで就寝、そして襲来

「今日はとりあえず夜も遅いですし、もう寝ますか」

「そうじゃな!」

「ベルはもうお風呂入っていらっしゃいましたもんね。私はまだなので、入ってきますね」


 とても密度の濃い夜だった。

 本物の悪魔を召喚して、事故とはいえ配信を一緒にしたり。あと薬指には契約の証をつけられて……。昨日の私に言ったら、きっと目を丸くするだろうなという出来事ばかりが起こった。

 明日からも、たくさんの面白いことが起こりそうだな。

 そう思いながら、湯船に沈んだ。


 ♢♢♢


「おかえり、セナ」

「ただいま戻りました、ベル」


 ベルを下から上へ、じっくりと見る。


「寝るのにその格好は……ちょっと難しいですよね」


 クローゼットから予備のパジャマを取り出し、ベルへと差し出す。


「とりあえず、私のを着てください」

「かたじけない」


 ベルが手をすっと振ると、瞬く間に着替えが完了していた。

 これが魔法なのか、とまじまじ見ていると、ベルは目を細めて言った。


「我のナイスバディな生着替えが見れると期待していたのか?」

「いや、ナイスバディ……。人の感性はそれぞれですからね、ナイスバディだと思います」


 私は『ナイスバディ 一般的な例』と脳内検索をした。お胸がいい感じに出ていて、おなかがきゅっとしまっていて、お尻が良い重さの体が一般的に思い浮かべるそれだろう。

 どう頑張ってみても、ベルの体はナイスバディとは言い難い。

 つるぺたとまでは言わないが、凹凸が少ない。

 私の方がある、これは断言できる。

 けれど悪魔だから、真の意味でのナイスバディになれるのかもしれない。


「納得していないような顔をしているな」

「多様性の時代ですから。思想も発言も自由だと思いますよ!」

「多様性はいいことじゃ!」

「その通りだと思います!」


 はっはっは、とご機嫌そうに笑っていた。


「12時も回りそうですし、明日も配信がありますからそろそろ寝ますね」

「悪魔である我も睡眠は必要じゃから、共に寝ることにしようかの」

「寝る場所どうします? 一応両親の部屋が空いているので、どこでも大丈夫ですが」

「セナと寝床を共にする予定だったが?」

「出来なくも、ないですけど……」


 我が家のベッドは全部ダブルサイズだ。2人で寝ることも可能な大きさではあるものの、基本的には1人で寝る想定だった。とは言え今回は特例だろう。せっかく仲良くなった悪魔の気持ちを無碍にすることなんて、できるわけがない。


「良いですよ、一緒に寝ましょうか!」 


 いつも抱き枕と寝ているせいか、自然とベルを抱きしめていた。


「つい癖で」

「構わぬぞ? 我の抱き心地、どうじゃ?」

「すごく抱きやすいです」

「誤解を招く表現しとるな」


 すごく夜遊びをたくさんしている人ような言葉を言ってしまった。

 誤解なんです、まだ高校生なので。そんな経験はないんです。

 ベルはあまり気にしていなかったようで、私ばかりが頭ピンク色になってしまっていた。

 そんな私をあやす様に、ゆっくりと頭を撫でられた。


「いい夜を。聖菜」

「はい、いい夜を。おやすみなさい、ベル」


 その優しい手つきに、ゆっくりと意識を手放した。


 ♢♢♢


 ピンポーン


 家のインターフォンが鳴っている。

 朝7時、休日の朝くらいゆっくり寝かせてほしいのに……。隣で熟睡中のベルを起こさないように立ち上がり、よたよたとベットを抜け出した。


「こんな朝早くに……」


 インターフォンを確認すると、そこにいたのは芽生だった。

 どうしたんだろうか、と思いながら玄関を開けるとにっこり笑顔で浮かべた。


「おはよう、セナ。早速だけど部屋を見せてもらうわね」

「こんな朝早くにどうしたの?」

「おじゃましま~す!!!」


 ぐい、と前のめりの芽生を止める。

 今は部屋でベルが寝ているし、色々事情の説明とかしないといけないし、都合が悪すぎる。

 取り敢えず、穏便に一度お帰りいただくほかない。


「ちょっと待って!」

「親友のあたしに見せられないもの、隠しているの?」

「えっと、少し部屋が散らかっていて……」

「それくらい、気にしないから!」


 ずかずかと一目散に私の部屋へ向かう。

 いつもはリビングへ行くのに。これは絶対にベルの真実を確かめる動きをしている。

 そして私の部屋の前に辿り着き、勢いよくドアを開けた。



「せながあたし以外の女、連れ込んでる!」



「誤解を招く表現!」

「修羅場か?」

「確かに修羅場といえば、修羅場。かもしれないです」

「そうか」


 ベルは目を覚ましていたようで、来客に驚いている様子はなかった。

 けれどその対応とは反対に、芽生はキラキラと目を輝かせていた。


「聖菜ちゃんどいて、超絶可愛い美少女悪魔(仮)と話せない!!!」


 どこかで聞いたことがあるようなセリフを大声で叫んでいた。


「とっても和解できそうな感じになってるけど!」

「おはようなのじゃ、美少女悪魔じゃよ~!!!」


 調子に乗っている悪魔がいた!!!!!

 ベルは調子よく芽生の近くに寄ってきて、にっこりとアイドルポーズ。

 芽生は厄介ファンが如く、ベルに向かって手を伸ばす。

 そして私は、そんな厄介ファン(仮)をボディーガードマンとして守っている。

 なんとカオスな部屋。


「インスピレーションが、湧いてくる!!!!!! 今すぐペンを、紙を!!!!!」

「お家で描いてください!!!」


 ♢♢♢


 ひとしきり暴れまわって落ち着いたのか、冷静になった芽生が言った。


「悪魔的美少女はとりあえず気になるけど置いといて。聖菜、昨日の夜にあったことをすべて話しなさい!!!」

「どうして私が浮気したみたいな感じになってるの!?」


 やっぱり芽生、冷静になってなかった!!!



 —――――

 作者です。


 面白い、今後に期待できる、続きが気になると思われた方は、作品フォローや★での評価をして頂けると嬉しいです。感想もお待ちしております。


 やきうの配信、リアタイしてました……。

 強運すぎる、おもちしゅごい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る