第6話 切り忘れの後始末
「あああああああ!!!!! どうして先に言ってくれなかったんですかあ!!!」
「我との伝説的な問答を世界に放送したいのかな、と思ってな。我なりに配慮をしていたつもりだったんだ。ほれ、VTuberは初配信が大切じゃろ?」
どっかの誰かさんと同じことを宣っている。
ひとまずそれはいいとして、今は緊急事態すぎる。早急にいろんな対処をしなければ、明日の私が大変なことになる。
とにかく、配信を止めることが最優先だ。
あわわ、驚きと焦りでマウスが言うことを聞かない。ぷるぷると震える手を抑えながら、配信停止ボタンの上に移動した。
「初配信はとっても大事ですけど、これは完全な放送事故です!」
「そ、そうなのか!?」
「私の方は大丈夫でしたけど、ベルゼブブさんは本名言っちゃっているじゃないですか!」
「いや、我有名人じゃし。わりとノープロブレムだぞ」
「た、確かに……。それはそうかもしれませんね……」
違う違う、今はそんな風に納得している場合じゃない。
とにかく配信を終わらせて、ベルゼブブさんと今後についてお話をして……。やらなければならないことが多すぎて、どれを先にやればいいのかが分からなくなってきた。
ひとまずは——
「配信終了します! 明日の夜に改めて配信するので!」
「二人でたくさん話し合いして、色々発表するので楽しみにしておれ~!」
<コメント>
コメント:明日楽しみにしてる~
コメント:話し合い(意味深)
コメント:おつかれ~
コメント:発表楽しみだ~!!!
コメント:おつセナ? おつベル?
コメント:おつセルはどう?
コメント:おつセル~
コメント:おつセル!
配信、閉じられた……。
おつかれさまのあいさつ、決められちゃったみたいだけど。まあ、それは明日の排臨で色々お話すればいいだろう。
改めて、にっこりと笑みを浮かべたベルゼブブさんに向き合った。
「色々聞きたいことがあるので座ってください。お茶を持ってきます」
「かたじけないな」
ベルゼブブさんを部屋に置いたまま、キッチンへ向かった。
そういえば、悪魔って人間界のものを食べられるのだろうか。とはいっても、悪魔向けの食べ物は家にないのだけれど。
とりあえず、紅茶を入れよう。
♢♢♢
「それで我に聞きたいことって、なんじゃ?」
ベルゼブブさんは紅茶を上品に飲みながら、ゆっくり目を細めた。
悪魔的な表情に圧倒されつつも、今ここで聞いておかなければならないことがたくさんある。機嫌がいいうちに質問すれば、きっと答えてくれるはず。
私は緊張しながら、口を開いた。
「悪魔って、配信とか人間界の娯楽を見るんですか? どうして私が配信していることを知っていたんですか? それと——」
「そんなに一気に言われても、答えられないぞ。一個ずつ言ってくれ」
聞きたいことがありすぎて、つい沢山言ってしまった。
「わ、分かりました。まずは……悪魔って、配信とか見るんですか?」
「もちろん、見るに決まっておろう。悪魔は人間を誑かしてなんぼじゃし、参考のためにこちらの文化はある程度触れておくようにしておる。今はやりの芸術作品について、話術巧みに楽しませる配信者について。あとそうだな……どんな性的嗜好をしているのかとか」
「せ、性的とか今はいいですから!」
とはいえ、確かに一理ある。
現代社会において、配信やVTuberは最新の文化と言えるだろう。せ、性的嗜好……とかも文化として更新していくのは大切だろう。多分。
「それにあれじゃろ? 配信者の中には悪魔のまねごとをしている者もいると聞くぞ」
「悪魔系VTuberとか結構いますもんね。本物の悪魔側からしたら、迷惑してたりとかしないんですか?」
「その逆だ。昔は悪魔だなんだと嫌われておったからな、愛される存在になったのはこちらとしてもありがたい限りじゃよ」
悪魔など人間の範疇を超えた神秘的な存在は、崇められたり忌避の対象になったりしてきた。けれど現代に生きる私たちは、そんな存在を娯楽の一部として見る機会が増えている。時には可愛らしいキャラクターとして、格好いいキャラクターとして、悪役ではない色んな側面で私たちを魅了してくれている。
時代の変化と共に、色んな人から愛される、受け入れられる存在になれたこと。それを嬉しいと感じるのは、分からなくもない。
満足そうに頷くベルゼブブさんは、ひときわ目を輝かせて言った。
「配信者の中でも特に人気なのは、ぶいすたあじゃな! 我もあんな風な面白いコンテンツを発信してみたいものじゃ」
「鬼灯あめとかが所属している、あのぶいすたあですか?」
「そうじゃよ。魔界でも大人気配信者だな!」
確かVTuber事務所『ぶいすたあ』は鬼や人魚、吸血鬼、インキュバス、アルラウネが所属していたはずだ。人外をモチーフにしたキャラクターが多いからこそ、魔界でも人気を博しているのかもしれない。
もちろん人間界でもその人気は高く、ゲーム配信や様々な企画配信だけではなく、歌番組への出演やラジオなど活動の幅がどんどん広がっている。
そんな彼女らに憧れを抱くのは、当たり前と言えば当たり前だろう。
そして、一番の疑問を投げかけた。
「次の質問です。私が配信をしているのを知っていたのは、《鬼灯あめ》さん経由ですか?」
「それもあるな。だが、それだけで魔界の注目を集めるのは難しい」
「それならなぜ?」
「オカルト大好き——つまり、我らのことを大好きと言ってくれたからじゃよ。ストレートに大好きだと伝えられてしまったら、我らも気になってしまうだろう? それにあの《鬼灯あめ》も注目している。これで無視しろ、はちと厳しいものがある。だからこそ、『でびちゅーぶ』運営もお主を注目の配信として取り上げていた」
「でび、ちゅーぶ?」
聞きなれない単語に、私は首を傾げた。
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