第5話 天魔セナ誕生秘話
《天魔セナ》の中の人、赤坂聖菜はVTuberのアバターと同じく高校に通うれっきとした学生である。
そんな私がVTuberへの道を歩み始めたのは——高校の部活は入部必須ではなかったためにどこにも属さず、帰宅部を謳歌していた高校一年生の冬。暇人である私に目を付けたのは、わが愛しの幼馴染≪鹿角めえ≫こと上野芽生だった。
その日は私の誕生日も近い、雪の日だった。
「VTuberって知っている?」
「名前だけは聞いたことあるかも。一昨年くらいにVTuberのお仕事受けていたよね」
「そうそう。あたしの中でも結構思い出に残っている仕事だからね!」
芽生は高校生ながらも、イラストレーターとして多忙を極めている。
その仕事の一つにVTuberのデザインがあり、実際にそのイラストを見させてもらっていた。
この時に手掛けていたのが、『ぶいすたあ』所属の
黒髪に赤い角が良く映える、鬼のお姫様。鬼灯をモチーフにした、現代アレンジされた着物を身にまとっている。和風のアイドル、というのが第一印象だった。
「それで急にVTuberの話をしたの? もしかして……」
芽生が急に仕事の話をしだすのはあまりにもおかしい。
そして、この言い方。
幼馴染として、なんとなく察することが出来る。
芽生は身を乗り出して、ニッコリ笑顔で言ったのだ。
「聖菜もさ、VTuberやってみない?」
案の定だった。
部活にも入っていない、バイトもしていない。とてつもない暇人女子高生だからこそ、出来なくもない提案だった。
芽生の真意を探るため、質問を投げかける。
「忙しくないから別にいいけどさ、どうして私をVTuberにしようと思ったの?」
「一人で配信するのが寂しかったりするし。人手が欲しくなったらすぐお願いできるじゃん?」
「絶対後者が理由でしょ」
「ばれたか~」
芽生はあちゃー、と自分の頭を軽く小突いた。
けれどすぐに何かを思いついたように、にやりと笑う。
「オカルト友達ができるかもよ?」
「そ、それは……!」
その当時の私にとって、あまりにも魅力的すぎる言葉だった。
両親が民俗学者ということもあって、小さいころから日本・海外問わず様々な場所へ連れて行ってもらった。その影響もあって、オカルトマニアになってしまったのだ。けれど肝心のオカルト仲間ができることはなく、なんとなく寂しい日々を送っていた。
両親は現地調査や学会で家にいないし(学費や生活費はきちんと与えられている。むしろ多いのではないかと思うくらいだ)、親友の芽生も遊んではくれるものの、イラストの仕事が修羅場になってしまうと話す機会も減ってしまう。
それならば、VTuberという未知の活動に足を踏み入れてみるのもいいかもしれないと思ってしまった。活動を通して、オカルト友達が出来れば一石二鳥だ。
とはいえ、ある意味オカルトの頂点のような存在に出会ってしまったのだけれど。
「それじゃあ、決定かな?」
私の反応を見て、満足そうに笑みを浮かべた。
「うん。ぜひ挑戦してみたい、かも」
「準備とかはこの鹿角めえ様にどーんと任せておきなさい!」
まずはデザインだね~、と言いながら芽生はスマートフォンを取り出した。
「デザインとかに希望はある? 一応モチーフとしてオカルト要素は入れるつもりだけど」
「セーラー服がいいかな。あと白髪」
「あたしたちの学校、ブレザーだもんね。バーチャルの世界くらい、違う格好してみたいのもわかるわ~。それに白髪ね。スカートの長さとかはどうする?」
「ちょっと短めがいいな。膝上くらい」
「膝上ね、りょーかい」
「目の色は青がいいかな。お化けとか夜のイメージあるし」
「うんうん、目の色は青ね。これはぜーったい可愛くなる予感がする!」
私が答えたものに加えて、これはああしたほうが良いかも、とどんどんスマートフォンにメモをしていく。目が完全にクリエイターさんになっている。
「細かい装飾とかは、あたしが可愛くしておく。ラフの段階で最終確認はしてもらうから、一週間くらい待ってて」
「わかった」
芽生はスマホの画面を閉じながら、ふと思い出したように言った。
「そういえば、聖菜ってパソコン持っていたよね」
「うん、あるよ」
去年の誕生日に両親がくれたハイスペックパソコン。今までネットサーフィンでしか使っておらず、完全に宝の持ち腐れ状態だった。この機会にそのフルスペックをお見舞いしていただくので、きっとパソコンも大喜びだろう。
マイクなどの音回り機材は芽生が使わなくなったものを譲り受け、配信環境はすぐに整えることが出来た。
「肝心のデビュー時期なんだけど、いつ頃がいい?」
「夏一択」
「ホラーの夏的な?」
「その通り!」
「流石、オカルトマニア」
ミーハーかもしれないけれど、夏はホラーの印象がある。
それに夏は新生活の準備など特に忙しい行事もなく、たくさんの人に見てもらえるのではないかと思ったからだ。せっかくなら、オカルト友達をたくさん作りたい。
「それで活動名は?」
「天魔セナ。苗字は天使と悪魔で天魔。
「その気持ちわかる……! あたしも
天魔セナのVTuber人生が幕を開けた。
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