第4話 白石にて

 白石に入ったところで、関所の武士の対応が違うので、畿内は伊兵衛に尋ねた。

「お主、何者だ? 仙台領に入ったとたん、がらっと変わった気がするが?」

「横山殿、申しわけない。拙者、実は仙台藩士でござる。江戸屋敷から片倉家に転任する予定でしたが、初めての吉原で路銀を使い過ぎ、奥州街道をふらふらと歩いていたところを近藤殿に声をかけられた次第です。とても仙台藩士とは名乗れず、浪人のふりをいたしました。あらためて申しわけない」

「そういうことか。道理で若いのに学があると思った」

「横山殿、白石の殿をご紹介いたしますので、ぜひ、ご一緒に」

「かたじけない」

城に入り、本丸館で、城主片倉小十郎を待った。すると、小十郎だけでなく、奥方の阿梅の方と嫡男の三郎丸(後の景長)もやってきた。お守り役がきたとなれば、当然のことである。

「伊兵衛、よくぞまいった。世間を見ることはできたのかな?」

「ははっ! おかげさまで、世間を垣間見ることができました。とても有意義なひと月でございました。その旅の途中、とてもお世話になったご仁がおります。その方を殿にご紹介したいのですが、よろしいでしょうか」

「うむ、そなたが世話になったというならば、片倉家にとっても恩人だ。そのご仁をこれへ」

控えの武士が、別間で待機していた横山畿内を招きいれた。畿内は、伊兵衛の一歩後ろへ腰を下ろすと、

「横山畿内と申します。旧信州上田藩真田の藩士でした」

「上田藩ですと!」

阿梅の方が声をあげた。小十郎も目をむいている。阿梅は上田藩真田氏の血筋である。生まれは高野山九度山なので、横山畿内とは面識はないが、真田の旧家臣となれば無下にはできない。

「これ、大八を呼べ」

小十郎が控えの武士に指示した。大八は、城内にいたのですぐにやってきた。

「大八、ここに」

大八は、阿梅の近くの一段低いところに腰を下ろした。

「横山殿、奥の阿梅は亡き真田信繁殿の娘、大八は、信繁殿の二男じゃ。今は片倉大八と名乗っておる。幕府には内密だからの」

「なんと、お二人は昌幸公のお孫さまでござるか」

畿内は涙を流して喜んだ。その姿を見て、小十郎は

「横山畿内殿、そなたは我妻佐渡のところへまいられよ」

「なんと、我妻佐渡がいるのですか。私は佐渡が生きていると風のたよりで聞いて、ここまでやってきたのです。今まで生きていた甲斐があるというものです」

「横山殿、これからも仙台藩、片倉家のためによろしくお願い申します」

「伊兵衛殿、こちらこそ」

その夜、大八を主にして、我妻佐渡・横山畿内・そして伊兵衛が酒を酌み交わした。仙台真田氏の結束の会であった。


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