第2話 出会い
【数ヶ月前】
『切っ掛けは些細なことだった。
道に迷い困り果てた女を気紛れで家にあげてしまったがばかりに。余が、吸血鬼であることが暴かれてしまった。何故バレたのかは聴かないで欲しい。
余の威厳に関わるのでな。うん。
ともかく、こうなってはこの女をただで帰す訳にはいかない。余の主義には反するが少し怖がらせてでもー』
「…血を吸ってくれますの?」
「ん?」
「吸血鬼に血を吸われるのは初めてです!」
「だろうな、あったら逆に凄いわ。」
女は頬を赤らめ、興奮した様子で吸血鬼に詰め寄る。
「あれですよね?物語とかでは血を吸われると、こう…催淫効果的なものがあるとかなんとか!
そのままあれやこれやあって花を散らされてしまうのでしょうか!?
あっ、今日下着は可愛いやつだったかしら?ちょっと確認してきても…」
「まてまてまてまて!!」
「?なんでしょうか?」
「色々とツッコミを入れたい所だが、まず余が恐ろしくないのか?そして下着を気にするな!あと本の読みすぎだ!」
「ないのですか?催淫効果。」
「いやあるが…」
「あるんですか。」
「そうではなく!余は!吸血鬼だぞ!普通は血を吸われ、殺されるのを恐れるものではないのか!?」
「だって!あの伝説の吸血鬼ですよ!これは是非とも一度は血を吸って貰いたいではないですか!
あと…吸血鬼さんイケメンなので、なし崩し的にそんな感じになっても良いかなと…。何事も人生経験で。」
「そんな人生経験しなくてよいわ!
いいか、よく知りもしない相手と関係を持つなんて危ないだろうが!もっと自分を大切にしなさい!」
「吸血鬼に正論で説教されるとは。」
「全く最近の若い人間は皆こうなのか…。」
吸血鬼、思わず頭を抱える。
「…で。」
「なんだ?」
「吸いますの?血。」
「………吸わん。」
「吸血鬼なのに?吸わないんですか?
どうして?私は貴方の正体を知ってしまった。処分するなり、眷属にするなりしないのですか?」
「なんでそんな積極的なんだ!?……お前のような赤子の血を吸うのは余の主義に反する。」
「赤子…これでも今年で二十歳なのですが。…いえ、貴方からしたらそうでしょうけど。ふむ、成る程吸血鬼さんは熟女好きと…。」
「誰が熟女好きだ!変な解釈をするな!」
「でしたら何故?自分でいうのもあれですが、私そこそこ顔はいい方ですし、病気、怪我なく健康優良ですよ?
今なら無抵抗!なんならあれやそれやのお楽しみ付き!」
「遂に自分をプレゼンしてきたぞこの女。あとあれやそれやは要らん。」
「強情ですね。そこまで拒否されると傷付きますよ?
ほら、ちょっとお試しでいいですから吸ってみませんか?ね?ちょっとだけでいいから…えいっ!」
女はカバンからソーイングセットを取り出すと躊躇いもなく針で指先を刺す。
すると指先には血ぷっくりと溢れてきた。
「待て待て何故そうなるのだ!?近寄るな!というか立場逆転してないか?なんだこの状況は!?」
「ほぅら、貴方は段々血が吸いたくなーる。吸いたくなーる。ほら先っちょだけですから…。」
「やめろ、それを近付けるな!じゃないと………ふぁっ」
「ふぁ?」
「ふぁ、ふぁ、ぶえっくしょい!!
「きゃ!」
「ズズッ…。くそ、そらみろ出てしまったではないか症状が。」
「しょ、症状とは?」
「………アレルギー。」
「アレルギーとは?え?なんの?」
「………………………血液アレルギー。」
「………は?」
「………。」
「え?待ってください。え?え?吸血鬼なのに、アレルギーなんですか?血の?」
「……そうだ。」
「ええ…。」
「なんだその顔は!」
「いやだって……。吸血鬼なのに血が吸えない、しかもアレルギーって……さすがにそれはどうかと思います。」
「くっ!余だってな!好きでなった訳ではないのだ!
昔は普通に飲めていた。それはもう浴びるように老若男女所構わず血を吸っていた!鮮血公と畏れられる程にな!
だがある日突然血を吸ったらくしゃみと蕁麻疹や呼吸困難等の症状が出てしまったのだ……。それ以来血をまともに吸えていない。」
「それ吸いすぎによるキャパオーバーして発症したのでは?」
「昔の余…。何故もう少し抑えめに出来なかったのか。」
「でもそうなると食事はどうなさってるのですか?血吸えないんですよね?人間と同じ食べ物でも?」
「多少は補給できるが微々たるものだ。要は血に含まれる鉄分やらビタミンが補給さえ出来れば最低限生きていけるので最近はサプリメントを主としている。いやぁ現代便利であるな、すぐ買えるし。」
「サプリで生きてる吸血鬼…いやもう吸えない鬼(き)ですね。」
「後は血の代用として牛乳もよく飲む。」
「…なるほど。」
「という訳で血が吸えない余は小娘にバレた所で問題はほぼないのだ。だって吸血できないのだから!」
「無論言いふらした所で妄言程度にしか思われんだろうがな!はっはっはっ!」
「自分で言ってて哀しくないですかそれ?」
「うるさい!」
「まぁ、でも確かにそうですね。吸血鬼なんて普通信じませんし…。」
「だが厄介事が起こるのは避けたい。血は吸えぬ為弱体化はしておるが、それでも小娘一人呪い殺すくらいなら造作もー」
「吸血鬼さん。」
「ふっ、なんだ?ようやく命乞いか?」
「紅茶はお好きですか?」
「ん?紅茶?嗜好品として飲むくらいだが……それがどうした。」
「わかりました。ありがとうございます。今日はもう帰らせて頂きます。」
「は?」
「あ、来週また夜に伺いますので予定空けといてくださいね。もちろん吸血鬼の事は誰にも言いませんのでご安心を。」
「いやまて、帰らせる訳がなかろう!というか来週もくる気なのか?」
「いいものを持ってきますからお楽しみに。それではまた来週。ごきげんよう。」
バタン。早々に扉を閉めて帰ってしまう。
「…………本当に帰りおったぞあの女!!」
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