第3話 紅茶入れましょう

【一週間後】



「こんばんは。」



「本当に来よった、この女。」


「そんな嫌そうな顔しなくても。」


「正気とは思えない!なんなんだ本当に貴様は!?なにが目的だ!」


「良いものを持ってくるって約束したじゃないですか。

 それに呪い殺すとかおっしゃってたのに待てどもその気配すらないのですから、てっきり歓迎してくださるのかと。」


「余は無駄な殺しはせん。それにここ一週間使い魔に貴様を四六時中見張らせていたが誰かに漏らしたりしておらんかったのでな。

 無論喋れば呪ってやったがな!」


「なんか視線を感じるなと思ったらそんなことしてたのですね……。お風呂とか覗いてたんですね、えっち。」


「そんなことしとらんわ!」


「ではお邪魔しまーす!」


「そして勝手に入るな!」


「あ、キッチンちょっとお借りしますね。」


「いったい何をする気だ。その荷物はなんだ?毒でも盛るつもりか?」



「…しませんよ、そんなこと。なんなら見張ってても良いですよ。」


「無論だ。」


「力ずくで追い出さないですね。吸血鬼さんなら出来そうなのに。」


「そうだな。お前を小指で持ち上げてそのまま窓から投げ捨てる事も出来るな。だが余は女、子供には極力手を出さない主義でな。」


「老若男女の血を吸ってたのに?」


「それは余に害をなそうとする者達だ。殺され喰われても文句はいえまいよ。ああ、勿論お前も余に仇なすというのなら例外ではないぞ。くく…。」

 吸血鬼はニタリと笑い長く尖った牙を覗かせる


「吸えないのに牙見せられてもあまり怖くないですね。」


「ぐっ!」


「ほら繊細に傷付いてないで手伝ってください。」


「…ところでさっきから何をしている?」


「お湯を沸かしています。」


「なんのために。」


「紅茶を飲む為です。」


「お前が良いものといっていたのは茶か?」


「ええ、しかもただの紅茶じゃありません。今日飲むのはロイヤルミルクティーです。」


「ミルクティー、あの紅茶に牛乳入れたやつであろう。あれはあまり好きではないのだが。」


「その様子だと紅茶にそのまま牛乳入れてるパターンですね。」


「違うのか?」


「勿論!とびっきりの美味しいのをご用意しましょう。」


「ほう。そこまでいうなら期待しておこう。で、何故鍋で湯を沸かしている?ポットぐらいならあるぞ。」


「ロイヤルミルクティーはこう作るのです。」


「いつも思うが、人間は食事をするのにやたら工程を挟むな、【我々】からしたら理解できぬ事だ。」


「ちなみに料理をしたことは?」


「無論、ない!ガブッと直飲みが基本だからな。」


「でもいまは吸えないんですよね?」


「ぬ、ぬぅぐ…。」


「どうりで調理器具が殆どないなとは思ってたんですが、成る程。あ、鞄から茶葉の袋を取ってもらっていいですか?」


「ん?これは茶葉なのか?粒状だが。」


「ああ、それはCTC製法で作られた茶葉ですね。味と香りが濃く出るのでミルクティーに向いているのです。」


「…なるほど?」


「さて茶葉を入れたら火を止めて蓋をして三分蒸らします。その間にカップにお湯を入れて温めておくと良いですよ。温度の低下を防げます。」


「なるほど。」


「さて茶葉を入れたら火を止めて蓋をして三分蒸らします。その間にカップにお湯を入れて温めておくと良いですよ。温度の低下を防げます。」


「なるほど。」


「三分たったら今度は常温の牛乳を入れます。量はお好みですが今回は水と同量にしましょう。」


「最初から牛乳で煮れば良かったのではないのか?」


「そのまま直接煮ると牛乳の成分が邪魔をして茶葉の味が出にくくなってしまうんです。ここポイントですよ。」


「なるほどぉ。」


「あとはこのまま煮て…沸騰する直前に火を止めるっと!

 軽くかき混ぜて、温めておいたカップに移せば…ロイヤルミルクティーの出来上がり、です。」


「ほお。これがロイヤルミルクティーなるものか。確かに色味や香りからして違うな。」


「ささっ、冷めないうちに頂きましょう。スコーンも用意しました。蜂蜜や砂糖を入れてもいいですがまずはそのまま。飲んでみてください。」


「ふむ、では頂こう。(紅茶を飲む)……ほうこれは。」


「…どうですか?」


「確かに余が飲んできたものとはまるで別物だ。口に入れた瞬間の茶葉の豊かな香り。濃い味わいはミルクと混ざることでさらに旨味を増している。柔らかな渋みがあることでくどく感じず飲みやすい。」



「……。」



「なんだ?」



「ああ、いえ。想像した以上の的確な感想が来たのでちょっと驚きました。もっと語彙力ない系かと。」


「失礼な奴だな。」


「でも気に入って頂けたようで良かったです。」


「ああ、これは美味だ。何杯でも飲めるな。」


「ふふふ。」



「しかし何故これを余に飲ませようと思ったのだ。」



「………実は下心があるのです」




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