第20話 ゴーストステンドグラス
「ある心理学の話だ。多少不運ながらそれなりに生きてきた者と、事故によって妻子を失った者では神に対する解釈が違うらしい。」
「多少不運ながらそれなりに生きてきた者は、神に振り向かれなかっただけだと、神の正体を気まぐれな上位存在だと信じる。」
「だが、事故によって妻子を失った者は神の正体が偶像もしくは大した能力を持たない傍観者であると理解するのだ。」
――情報番組『Do you know?』より心理学者フランケン・R・ビルの発言抜粋
グーニの宝物が増えた。
金色のオルゴール。
図鑑で調べるとすぐに出てきた。レコードよりも数百年ほど前に発明された音楽再生機器だそうだ。
原始的ながら緻密に動くオルゴールは僕も眺めるのが好きだ。
僕がオルゴールは小さいから失くさないようにと注意すると、指差し確認を急にするようになった。
僕は失くならないなら「ピーノよし!」とか言わなくてもいいと思うけど。
それはそうとして、今日は初めて見るくらいの晴天だ。
いいことがありそうだな、と水を温めながらそう思った。
「こんな日にあの
久しぶりに聞く風の音も、なんだか透き通るように感じた。
昇ってきた朝日が、建物の隙間をくぐってコッヘルの中の水に当たり、ゆらりゆらりと揺れる水面を灰色の壁に写す。いつも虚な表情をした壁は昨日と違ってとても幻想的で美しかった。
「君は神と呼ばれる世界を創った上位存在と相対した時、一言目は何にする?」
突然知らない声が後ろからしたかと思うと、振り向いた時にはもう僕の立っている場所は一面植物だらけの……草原?に変わっていた。
「“……たくさんの質問がある、少し会話をして欲しい”」
僕の目の前には豪華な椅子に座り、偉そうに頬杖をつく男がいた。
『幻』と呼ぶのが一番相応しいと思える、そんな男だった。
「珍しい。」
「僕は世界の数十億分の一しか観測できない。知りたいことを知るには時間が足りないような気がする。ならば『作者』に聞けば早いと思って」
「ごもっとも。少し強欲なやつだな」
「心理学の本には、欲望こそ命の燃料だと書いてあった。欲しいものを手に入れようとするのは悪いことじゃないはずだよ」
「七つの大罪……いや、君が今知るべきことではないか。」
そう言うと机と椅子を持ってきて、少し豪華に見える方の椅子に座った。
「気に入った。
僕はまず、グランティについて聞いた。
「ああ、あいつか。ただの機械のくせに人間にもっとも近い性格を宿した不運なやつだ。
「最期……?」
「必要がなくなった神は死ぬ。それが決まり。人類や生命が尽きたこの地球に運命もクソも芋羊羹もないからな。」
「僕たちは?」
「死んだあとだからな……」
男は髭をさすりながら空を仰いだ。
少しばかり残念そうな表情だった。
「ちなみに俺は本に宿るからな。本が燃え尽くされない限り死なない。」
「『神』も一応不自由なんだね」
「俺だって俺を創ったやつを知りたいさ」
「神なんじゃない?」
「そいつも、『俺を創ったやつが誰か知りたい』なんて言ってるんだろうな。」
男はたからかに笑った。伸び始めであろうシワが目立つ。
「喉が渇いたな。」
そう言うと、テーブルの下から突然湯気のたつコッヘルを出し、マグカップに熱いお湯を注いだ。そのお湯は不思議と夕焼け色に変わっていった。
「少しはかわいそうだと思うぜ。こんなものすら知らないとは」
そう言いながらマグカップを寄せてきた。
今更気づいたけど、これは僕たちが使ってるマグカップだ。
「まさかこうちゃ?」
「冷める前に飲んでおけ。二つの意味でな。」
口に含むと酸味とわずかな苦味、あと強く美しい香りが口いっぱいに広がった。
グーニはあまり好きそうではないな……と思いながらマグカップを下ろすと、男は急に真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「詳しいことは言わないが、
「そんなの普通だと思うけど……」
「……聡明だな。鈍感だが。」
「?」
「『大丈夫、心配しないで』とか言ってくれよ。俺の数少ないお気に入り」
「誰かに心配されるほど、過酷には生きていないよ」
「そうか。」
「そういえば……この本は知ってる?」
僕は『偶像よ我を救いたまへ』を取り出した。
男は舐めるように眺めたり、睨んだりしたあと、こぼすように呟いた。
「俺の知らないものが存在していたのか……。」
きょうはなんだかよく寝れすぎたようなきがする。
となりを見ると、ピーノがいなかった。寝たまま上をむくと、ピーノがたてものにすがりかかって寝てる。
「ピーノのおねむさん」
……そういえばきのうは私のために割れたすてんどぐらすとかいうのをかたづけてくれていたんだった。
おきるまで、寝がおでも見ておこう。
シラナイコト つきみなも @nekodaruma0218
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