第17話 ハツメイノサンブツ

『生み出したものの使い道を決めるのに、科学者は適さない』—ジョン・フォン・ノイマン


 久しぶりに僕のわがままを聞いてもらった。

 いくら図書館よりも小さいとはいえ、本の数は1日じゃ読みきれないぐらい多い。

 こういう本屋には地図が置いてあることがあるらしいから、そっちも見つけたい。

 グーニは僕が本好きなのを鑑みてなのか、快くいいよと言ってくれた


 天文学Astronomie単位Eihet物理学Physie…図書館よりも分かりやすいものがたくさんあった。

「これが1cm。これが1m…これの1000倍が1kmか…走れば4分ぐらいかな」

「おそとたんけんしてくる!」

「んー。気をつけてよ」

「ここーはふめつのうつくしきー」

 グーニはまた知らない歌を歌いながら出ていった。

 ガラス戸が開いた時、外の風が流れ込んで本のページを思いっきりめくった。

「寒い…ランタンつけよ…」


 風が僕を探しているかのように窓をガタガタと揺らす。

 やがてその音がしなくなったと思うと、もうランタンの光だけが僕の周りを照らしていた。

「ただいま!」

「外はどうだった?」

「へんなとびらみつけた!」

 グーニの笑顔はワクワクでいっぱいに見えた。よほど面白いものを見つけたのだろう。

「ちょっと『世界連邦Werltverband』について調べ終わったら一緒に見に行こうか」

 世界連邦。グランティの音声記録サウンドログ?から出てきた言葉だ。

 辞書でWの欄をなぞって行くと、綴りに関係なく一番最初に出てきた。

『世界大戦の勃発を防げなかった国際連合解体後、2529年10月25日にアメリカ、イギリス、ドイツ、日本、フランス、イタリアなどの国を主軸とした同盟的な意味合いで設立された連邦。共有目的は《ネルエトロ軍事主義国とその周辺国を滅し、世界大戦を食い止めること》』

 本を読むと意外な事実を知れる。

 どうやらこの国は悪者だったようだ。


「おわった!?」

「よくわかったよ。…じゃあ行こうか。」

 ガタガタと窓を揺らしていた風が僕を見つけて、飛びつくように建物を縫いながら吹き付けてきた。

 フードの紐を揺らして、僕は身震いした。

 本屋の裏には建物に似つかわしくない堅牢に感じる金属製のドアが、小さいはずなのに異様な存在感を放っていた。

 金属は鈍く七色にランタンの暖色を反射し、規則的な繊維状の模様を見せた。

「この金属…何かと似ている…?」

「……ぐーにかりばー!!!」

「そうだそれ!」


 元は建材の骨組みとして作られた合金らしいから、この使い方が本来の使い方なのだろう。にしても頑丈すぎるし危険だと思うけど。

「石を投げて、さらに速い速度で跳ね返ってきたら他の入り口か周りの壁を壊そう。食料もいよいよ気にしなきゃいけなくなってきたから」

「うい!」

 僕は寸前で落ちそうなぐらいの速度で石をドアに投げつけた。

 すると明らかにおかしい甲高い衝突音が聞こえ、僕の頭に当たりかけた。全力でかわわしたけどヘルメットに当たってヘルメットの外殻が吹き飛んだ。

 避けた後で脈拍がすごい速さで上がり始めた。僕は呆気に取られてしばらく動けなかった。

 銃を撃った時と似た感覚だった。


「こわれた!!」

「え?」

 古くなっていたのだろうか?小さな小石一つ投げただけなのにドアには大きな穴が空いていた。周りの壁には軽く亀裂が入り、改めてなぜ建材に使ったのかと思わせた。

 中は相変わらず暗かったけどランタン一つあれば全体を照らせた。小さいと思っていた部屋は意外にもかなり大きく、いろいろなものが綺麗に整えられた状態で置かれていた。

 壁には大きな機械が置いてあり、その機械は無数の筒やつまみ、ケーブルのささった…直感的に言えば古めかしい奇妙なものだった。その機械には『亀とウサギの亀のほう(The smartest guy after me)』と書かれた小さな紙が貼り付けられていた。


「これ?」

「かなり古いものだね」

 銃には茶色の部分に『死を発展させた男”ジョー・ブラウニング(John-Browning)”』と掘られていた。まさかと思い他に置いてある物を見てみると同じように短い言葉と名前らしき言葉が書かれていた。

 その中には僕たちが持っているランタンもあり、『半永久エネルギーはある種の罪だ”エルヴァリヒ・レーヴェク(Elvarich Leveque)”』と、カバー部分に書かれていた。

 レーヴェク、というのは音声記録サウンドログに出てきた人と同一だろうか?

 そして色々なものの言葉を探っていると、鉄の箱の裏に掘られた文字を見つけた。


「『これらはすべて戦争の産物であり、戦争を生んだ産物だ。発明の次には先ず戦争が待っている。しかし作ったに罪はない。30秒以内に戦争に使えると思いついてしまう人間に責任はある。”ジョン・フォン・ドルーマン(John von Dolumann)”』」


 僕はしばらくその文章を2度、3度読み返した。

 全ての発明は戦争へと帰す、そうドルーマンさんは言っている。僕はそのあまりにも悲惨な言葉を必死に否定しようとしていた。

 しかし、いくら否定の事例を思い出そうとしても、世界に広まった発明たちは結局戦争利用に発展している。


「グーニ、僕たちって喧嘩すると思う?」

「しない!したくない!!」

「…そうだね」


 その日は、カクヘイキとコンピューターを作ったという男の人と茶会をする夢を見た。

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