第15話 コトバノデグチ

もと来た道を戻るにも道がわからない所まで来て、そこでやっとマズい状況なのに気付いた。

ナイフやグーニカリバーをロープにくくり付けて4ぐらいの高さにある天窓を割って脱出しようともしたけど、不思議なことにガラスが全く割れずに断念せざるを得なかった。

ナイフはまだわかるけどグーニカリバーがものを壊せないのは稀だ。


バッグパックに頑張って詰めて、入らない分を歩きながら食べるぐらいには余裕があったころを思い出せば、下ろした荷物がずいぶんみすぼらしく見える。


「ランタンみててもおなかはふくれないよ〜」

「ここを出ればどうせたくさん落ちてるから、気にしなくてもいいよ。」

グーニは相当心配してくれているのかよくれーしょんの中身を分けてくれるようになった。

「今日は『ぐーれふるーつ』か。」

「粉とかすやつであんまり甘くないのそれしかないからねー…」

基本的に僕のご飯は粉と水で作れるおいしい飲み物と、れーしょんの薄いクラッカー。あと凄くたまにみんかんようひじょうしょくしかない。

グーニは食べることが一番好きだから、どうにか残してあげたい。


「ここに入ってから29日目…毎日歩いてるのに出口が見えない…どれだけ大きい施設なんだろう……」

「なんかおなじところぐるぐるしてるのに、ずっと違うけしきー…ぐるぐるー…」

僕はちょうど真上に来そうな太陽を仰ぎながら、そのグーニの発言を危うく逃がしかけた。

同じところをぐるぐる?

なのに違う景色?


「グーニ、本を見る限り言葉はずーっっと変化しているんだ。そうなると言葉は増え続けるし、一旦美術館なんてものでまとめたらすぐに時間においていかれる。」

「……?????」

「ここを進み続けても、言葉は無限に増えるから永遠に出れない。」

「なにをすればいいの?」

「グーニ、どこからどこまでが一つの『部屋』だと思う?」

「ことばのろーかのでぐちで同じところにもどってる」

原理はわからないけど、この美術館はおそらく言葉が増えるたび勝手にのびている。

最初のほうにはあった給水所ももう見られなくなっていた。

人がここを歩くなら、給水所がなければ死んでしまうだろう。

人が来るかどうかもわからないから給水所を作っていないんだと思う。


「とりあえず言葉の廊下の出口あたりをグーニカリバーで壊してみよう」

「なんで!?」

「それぐらいしかできることがないからだよ。」


言葉の廊下の出口には区切りのようなものがあって、壁には数字が書かれている。進むたびにその数字は大きくなるので、おそらく階層とかを指しているんだろう。

今は1249だ。ずいぶん進んだ。

「端の方を壊してみて」

「よいしょっ!」

グーニカリバーが壁に衝突した瞬間、振りかざした速度よりもっと速い速度で破片が爆発したように飛び散る。

何度も見た光景だけど、久しぶりに見るとやっぱり面白い棒だ。


静かに響き渡った破片が落ちる音の後に残ったのは、抉り取られた区切りの壁と、夕日だけだった。

「なにもおきないね…」

「ダメかぁ…」

とりあえずできることをしたまでだから成功しないのもなんとなく分かっていたけど、これだと壊し損だな。

「どうにかならないかな…。」

僕は次の手を考えようと、力無く壁にもたれかった。

予想できるわけもないけど、それが良い結果に繋がった。


「うわっ!?」


突然もたれかかった壁が脆く崩れた。

グーニカリバーからの衝撃が伝って脆くなっていたんだと思う。

崩れた壁の向こうには、『デグチ』と書かれた赤色灯の看板が煌々とつり下がっていた。

「でぐち!?!?」

「出口だ!」

グーニは案外平気そうにしていたのに、その看板を見ると僕より喜んだ。

僕を必死に心配してくれていたのかもしれない。


出口の先にはたくさんのヘイキが落ちていて、さっきの出口を塞いでいた壁は、何かからここを守るために作ったものなんだろうと僕は思った。

奇麗な夕日が優しく降り注ぐ中、最後のコトバビジュツカンでのご飯を食べた。

グーニのくれた『とっておき』のレーションを分けてもらい、久しぶりにお腹いっぱいに食べた。

ランタンのあかりがいつもより暖かく見えた。

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