第14話 コトバグラシ
『世界を変えた発明家が天国にいるのであれば、電信機と電信塔ぐらい天国にあってもいいだろう』—電波天文学研究員アルフ・グスマン
「『ネルエトロ』イギリス近くの北海の中心に位置する島国。冬は寒く厳しく、静かだが大きな火山(グランド・レブレム山)を持つ美しい国。首都は…」
「ろすとろんと!!」
「僕たちが居るのはネルエトロって国らしいね。」
「くにがよくわからない!」
「まあ…あんまり知ってても意味ないかな。」
僕たちはまだコトバビジュツカンから出ていなかった。というか、出れない。
言葉が書かれた長い展示コーナーは複雑な形をしており、まるで迷路だった。
なんとなく気分次第で歩いていた僕たちはすぐに迷子になり、自由奔放なグーニがどこかに行ってしまった時はグーニ探しに時間を割いたり。
一応途中出口が設けられているけど、なぜか完全に塞がれていて使えない。
「あんなところに面白そうなものがっ!!」
遠くに見えた謎のオブジェに向かってグーニが走り出す。
そこで僕は物干しに使ったり高いところを登るのに使ったりする
「グーニ、ちょっと待って!」
「ぬ??」
僕はバックパックに取り付けたパラコードを素早く引き抜き、輪っかを作ってグーニの方に投げた。
輪っかは綺麗にグーニを通し、背負ったバックパックに引っかかった。
「…ゆっくり行こうか?」
「ひどいよ〜」
「また迷子になって夜ごはん無しになってもいいの?」
「…いや!」
謎のオブジェは、近づいて全貌が見えてくると僕たちが使っているランタンだということがわかった。
ただし、とても大きい。僕たちが持っているランタンの何十倍も大きい。
手すりに取り付けられたボタンを押すと、鈍くあたたかい光を放ち始め、光る部分とカバーの間に言葉が書かれたたくさんの紙をふわふわと宙に舞わせた。
「ありがとう、ごめん、たのしい!」
「よく使う…当たり障りのない言葉だね。」
「あったかいことばだよ!言われたらぽかぽかする!」
ランタンを指差しながらグーニは舞っている紙を数える。
「そういうものなのか…」
しばらく見ていると、紙は光る部分に当たって燃えて消えた。
抽象的でわかりにくいけど、とてもきれいな展示だとは思った。
「僕でもわかりやすい展示はないのかな」
「このかべのやつしかなさそーだよ…」
「言葉は難しいな…」
さっきの展示から進むと、もはや見慣れた言葉の廊下に戻った。
歩きながら片目に流れる言葉に知らないものはほとんどなく、正直見飽きてきていた。
最初こそは見たことがない新鮮な光景だったが、今では崩れかかった建物同然、どうってことない当たり前のものだった。
「おっ!?このことばはっ!!」
「『グランティ』ネルエトロ国において一般的な女性の苗字。古代ルグナード語において、『光栄』と『大地』を指す言葉。」
「おんなのこだったんだ!」
「機械だからあんまりそういうのなさそうだけど、まあ僕たちの名前みたいなものなんだろうね」
「だいじなものには名前をつけなきゃね!」
グーニカリバーを拾ってきて名前をつけてとせがまれた時も、同じようなことを言っていた気がする。
どうやら『グランティ』あたりから名前の展示だったらしく、『
「ピーノはあるかな!?」
「あるわけないよ…本でも出てこない名前なんだし。」
「じゃあつけたそうよ!」
「また今度来る機会があればにしよう。」
「じゃーたのしみ!」
「今はここを出る方法を探さないと…」
相変わらず言葉の廊下は先が見えない程長かった。
日が傾き、紫色の空が天窓から見える。まだ太陽は沈んでいないのに星の小さな光がぽつりぽつりと漏れ始める。
「おなかすいた」
「…残り少な目だし、僕は食べないよ。グーニだけ食べて」
「えー!」
「グーニ、ご飯が食べられなくなるのは嫌だよね?」
「ピーノが死ぬほうがもっといや!」
「大丈夫、死なないから」
グーニは何も言わずにれーしょんを渋々と受け取った。
おなかはすくけど、しょうがない。
僕はだんだんと明瞭になっていく星空を見上げながら、いつになったら出られるだろうかと考えていた。
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