第12話 ハクブツカンダイボウケン
「意思は固い。アドハン船長の
「ここにもあどはん!」
「地図じゃ『ろのぐらーどせんし博物館』って書いてあるけど」
「せんしって?」
「分からない。でも博物館って古いものを展示するような施設だったはずだから…歴史とかなのかな」
そこはとんでもなく大きな施設だった。
他の建物とは違ってでこぼこした大きな柱が6本立っていて、階段は長く広かった。
階段には二本の太い線…というか、何かが通ったような跡があった。
中は薄明るくて、時々風が通り抜けてコートのフードを揺らした。
「ぶきみ…だね」
「『恐れるな、武器を持て。勇気は武器に憑いている』…本に載ってた言葉だよ。僕はランタン持つから、グーニはグーニカリバー握ってなよ」
「こわいとワクワク…」
中に入るとすぐ、たくさんの武器が落ちている場所があった。
外と同じように何か意図があって置かれたような配置で、誰かがここを守っていたことがなんとなくわかった。
中は他の建物と比べてかなりきれいに保たれていて、ほとんどのガラスが割れていなかった。
中にあるへいきはところどころ無くなっていたりしたが、大抵はしっかり飾ってあって、外との差に違和感を覚えた。
「あった。『しょくいんきゅうけいしつ』」
「グランティなんていってたっけ??」
「ここにいた人が、色々貯め込んでた部屋だって」
「そーだった!」
その部屋は鍵がかかっていたが、グーニカリバーで殴るとすぐ開いた。
中には一丁のライフルと缶詰、あと僕の持っているものよりぼろぼろな『偶像よ我を救いたまへ』が落ちていた。
「れーしょん!!!」
「あと何ヶ月かは持ちそうだな…」
「これ、ピーノでもたべれるやつだ!」
「…ほんと?」
グーニがもっていたれーしょんの袋には『15型めきしこ風ちきんすーぷ』と書かれていた。意味がわからないけど。
「なんかねー、ちょっとからくて信じらんないぐらいおいしいの!!」
「夜ご飯に食べてみるかな。」
グランティからは、ここを抜けると迂回路を取らなくて住む上に、食料まで手に入ると言われた。
どうにもこの博物館は建てるときにミスで必要以上に頑丈な造りにしたらしく、この先数十年は崩れることもないらしい。
「面白そうだしもう少し見てみない?」
「つよいぶきほしい!!」
「重いし使えないからだめ」
「えー」
博物館の展示物はどれも綺麗で、まるっこいせんしゃからカクカクしたせんしゃまで色んな種類のへいきが置いてあった。
「『T-34』、『IVごう』、『8.8ふらっく』に『いんでぺんでんと』!つよそう!!!」
グーニは入る前と打って変わって大はしゃぎで見て回っていた。だけど僕はその展示を不思議な気持ちで見ていた。
へいきは人を殺すための道具。
だけどここには美しいものとして飾られている。
図書館にあったどの本にも人殺しは一番良くない行為と書かれていて、美しいものではなかった。
本来の用途と展示の表現の差に僕は動揺していた。
「ねえグーニ、なんで人を殺すためのへいきがこんな飾られ方してるんだろうね」
「うーん…えいゆうはどちらかいっぽうの『サツリクシャ』だからじゃない?」
「そうなのかな…」
しばらく進んでいくと、先の見えないほど長く、大きな通路に出た。
右側の壁には一面大きな文字でなにかの説明と、写真が載っていた。
『人が生まれて数百万年経てど絶対に手放さなかった物がある。凶器と戦争だ。憎しみから生まれる悪も善もそこにはない。ただひたすらに殺し合う。歴史とは戦史でもあるのだ。』
『せんし』は戦史、戦争の歴史だった。
「1914年6月、サラーヴォ事件を発端として第一次世界大戦勃発。連合国として参戦。死者75万人。1939年9月、第二次世界大戦勃発。
『456万人』
「こんなにしんで…」
「1000年以上前にあった大きな戦争でも、こんなに人が死んでるんだな…」
戦争がいかに凄まじいかを初めて知った。
そこから歩いていくと、『死者』の数はどんどん減っていった。
グランティが言っていた『機械の代理戦争』がだんだん顕著になり始めていったのだろう。
『2029年8月、ロシアウクライナ戦争終結。ロシア敗北によりロシア政権は瓦解。2068年、ネルストロが世界初のエイセイと地上部隊からなる『サンドウィッチ迎撃』の実用化に成功。これによりカクヘイキが廃れる…』
カクヘイキも本で読んだことがあった。
大昔にあったヘイキで、太陽のような凄まじい閃光を放ったあと、街が一瞬で消し去るほどの威力があるらしい。
「ピーノ、はやいよ!」
そうやって数え切れない歴史をなぞって行くうちに、また『死者』が増え始めた。
早歩きで見ていくと、『死者』の数はどんどん増えていく。
2589年の死者数は第二次世界大戦を超え、506万人となっていた。
2592年で記録は止まり、しばらく白紙が続いたあと、少し向こうに質素で小さな出口が見えた。
その質素で小さい出口は、物凄く悲しそうに佇んでいるように感じた。
悲惨さを伝えた口は、最後に口を閉じている。
これ以上は、そう思っても繰り返す。
星がうっすら夜空を漂う中、僕は少し泣いた。
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