第10話 センユウトグランティ

悪魔が生んだのか、悪魔が生まれたのか。

どちらにせよ人間の作った人工知能というものは、しょせん人間でしかなかった。

最初は絵や画像を生成するかわいらしいものだった。

しかし人工知能というのは切っても切り離せないほど、兵器とかかわりがあった。

そもそもコンピューターとは、兵器から派生したものだ。

最初は弾道を計算して、確実に砲弾を敵に命中させるために作られた。

人間は、やはりというべきか、人工知能に武器を持たせた。―「世界人口より人殺し道具が多い理由」


「グランティってなにたべるのー?」

「殺されかけた相手によくそんな仲良くできるな」

「しょうがないもん!せんじょーとか私たちにわからないし」

グーニは寛大すぎる。

「私は機械です。強いて言えば、燃料と弾薬を食べる、と言えましょうか?」

「あれがおいしいの?」

「グーニ、機械なりのジョークだよ」


戦場とは生きているか分からなくなる、そんなめちゃくちゃな場所だったらしい。

僕たちの体など簡単に粉々にできるへいきがあちこちに飛び交い、絶え間ない爆音と『なにかが』燃える臭いで、最初は吐き気を催したらしい。

「…機械に消化器官が存在するのか?」

「これはあくまでも『戦友』から聞いた話です。」


無人で良かった戦場を、人間は欲を出しすぎたのか、文明のをするかのようにどんどん壊していくうち、再び戦場には人間が立ったらしい。

「…人間がほとんど関与せずに誰も死なない戦争って、それは意味があるのか?」

「恐らく他の競いごとでも代用できました。」

「…」


「戦争の歴史と政治や経済の歴史を合わせて読むと、誰もがように感じました。」

「けい…ざい…?」

「貨幣による物流システムに関するものを指す言葉です。」

「…良くわからないけど続けて。」


「誰もが戦争などしたくなかった。誰もがそれをわかっていた。そして一時期は戦争をするだけ不利に損になっていく、そんな均衡が生まれた時代もありました。しかしその中でも、一つの大国が元領土の国の奪還を目指し、特別軍事作戦とは名ばかりの戦争を起こしていました。」


「人間様は道具と価値観が変化するのみで、やっている事自体は500万年前から変わっていません。欲のまま起こされる殺戮と略奪と簒奪さんだつ。」

「どーいうことー?」

「そうだな…人間は生まれ持って喧嘩をする生物ってことかな」


グランティは真ん中についている長い棒に捕まったグーニを上下させながら更に話を続けた。

「私には元々名前などありませんでした。グランティとは、私の自動生成音声『女性1』を聞いた時、『戦友』が名付けてくれた名前です。」

「戦友?」

「私の数少ない██で※」


グランティの声はそこだけ乱れた高い音に変わった。

「すみません、記憶装置を破棄デタッチした際に、この言葉のデータも一緒に破棄してしまったようです。」

「いえーい!!」

棒に振り回されているグーニはもう話などお構いなしに遊んでいた。

室内なので壁にぶつからないか心配だ。

「もっとも、私の記憶領域は1MBなので覚えていられるか怪しいですね」

「1めが…単位のことか?僕たちはそういうのを調べずに来たからあんまりわからないんだ」

「MBとは、データの大きさを指す単位です。大体673年前のコンピューターであれば、まともに動かすことができないぐらいです。」


679年と言われても僕たちの日々からすれば途方もない数字なわけで、想像が全くつかなかった。

ただ、それだけ進化と発展をしてきたのに最後に生まれた僕たちは当然の技術だったはずのものに驚きと感銘を受けている。そのことに違和感を覚えた。

これじゃまるで僕たちは最初の人間だ。


「さっきのやつとか撃てるのか?」

「120mm電磁加速砲レールガンは砲弾、電力不足で40mm機関砲も弾切れです。対戦車ミサイルは残弾ありますが、ブースターが破損している上誘導装置が破損しています。」

「戦えない戦う道具か…」

「グランティはどうぐじゃないよ!」

「しかし、用途という面で見ればとても『愛玩的な存在』とは言い難いでしょう」

「もうたたかわないんでしょ?」

「…そうですね。グーニさんの柔軟な感性は羨ましい限りです」

「僕も時々そう思うよ」


褒めすぎて照れたのか、グーニはまじか!と言っただけだった。

道路に差し込む日はもう色を変えて、地平線に沈もうとしていた。

「█佐、世界平和は実現可能だったのですね」

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