第7話 タルタロストニンゲン
「ふけーよ!ふけよ!風ーよきたに!あのほしいってんふきあらせ!」
「なんの歌?」
「しらなーい!」
「そう言うと思ったよ・・・」
3日かけて登りきった瓦礫のあとは意外と楽な道で、穴にさえ落ちないようにすればどうってことなかった。
それにしても今日は何やらグーニの機嫌がとてつもなく良く、穴に大きく歌声を響かせている。
「なみーをわりて、すすめよわれら!そーれがのーるどれーぶれーむー!」
「前聞いた曲みたいだな」
「かっこいいうた!」
穴はグーニの歌声に静かに耳を傾けるように、ほとんどの反響を吸い込んでいた。
3日ずっと見ていて、底なしという現実的じゃないそのイメージから僕は「ケンカばかりしている人間への神からの罰なんじゃないか」と思い始めていた。
もし本当にそうだとしたら、この大穴が空いた時人々はどうしただろうか。
もし本当だったら、僕たちはどうなっているのか。
「あっどはんせんちょーしっまながしー!みらいのえいゆうながされてー!だまってみっているおれらっじゃなーい」
「そら今度は助けに行っくっぞ」
「グーニこのうたしってるの!?」
「優しき海賊アドハン船長。なにかの本で読んだことがある」
グーニの元気な歌声を聞いていると、例え何であろうが勝てそうな気がしてきた。
ガン…ォオン…
「なんの音?」
何かが落ちて何処かにぶつかった音がしたかと思うと、目の前の大きな建物が崩壊し始めていた。
「グーニ!!!」
僕の前を歩いていたグーニが危ないと思って叫んだのだが、僕が叫んだ瞬間グーニは僕を抱えて崩れる瓦礫が届かないところまでとてつもない速さで走った。
崩れた瓦礫はほとんどが大穴に飲み込まれ、数十秒後に大穴からカミナリのような音がした。
「ありがと …」
「こわい!!!!」
グーニはあっという間にその場に丸まってしまった。
走っていたときはあんなに強そうだったのに、なんだか差があり過ぎてどう反応するかしばらく迷ってしまった。
「…立てる?」
「むり!!!!」
「ちょっと休もう」
「…うん」
こうも怖がっているグーニを見るのは初めてだった。いつもはちょっとしたらすぐ元気になって走り回ってる。
「吹けーよ吹けよ。風ーよ北に。あの星一点吹き荒らせ…」
「…なみーをわりて、すすめよ、われら…そーれがのーるど、れーぶれむー…」
「2番はないの?」
「…かじーよきたに、かほーをてきに、ここいらいったいかきみだせ」
「歌いながら歩いてみよう」
歩かせるのも酷だけど、重い荷物を持った上にグーニを背負えるほど僕には力も体力もなかった。
繋いだ手からもわかるグーニが感じている恐怖は、僕にも少し感染ったみたいで寒気がした。
「がんばれ!あとちょっとだ!」
「あうー…!」
結局向こう側につく頃には夕日が落ちかけていた。
崩れた建物の瓦礫からみつけたみんかんようひじょうしょくをグーニにあげて僕はグーニの残したレーションを食べた。
ランタンが照らしたグーニの目はとろんとしていて、いまにも眠りそうなほどだった。
寝る前に「頑張ったな」と褒めてあげたけど、聞こえていない様子だった。
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