第5話 アポカリプスマーメイド

「最近では1日に3回、恐ろしいファフロツキーズが降ってきている。銃声も近い。こんな時にああ神よと助けを求めれば、聖書通りであれば哀れみ涙ながらに救済を与えるであろう。しかし世界が一向に変わらないのは、やはりそういうことなのだろう」

 …「偶像よ我を救いたまへ」どういう意味なのだろうか?


「歩きながら本読むところぶよー」

「…あ、ごめn」

 ゴン!

 グーニの注意はいつも情報不足な気がする。

 道路灯に思いっきりぶつかった。

「ほら」

「もうちょっと分かりやすく言ってよ…」

「ごめーん」

 まったく、と言いたいけど悪いのは僕なので何も言えなかった。

 せいびじょうのところに比べて建物もボロボロになって来ていた。

 捨てられたへいきも無造作な感じじゃなくて綺麗に置かれるようになり、何か目的があるような感じがした。


「ねーこのでっかいつよそうなやつ、「せいそう」に使うんだよね」

「戦争な。本にはそう書いてあったはず」

「なんでそんなことしたんだろねー」

「そうだな…そうだ、あそこの瓦礫の山が全部れーしょんだったとしよう」

「おおお!いっぱい!」

「でもすでにその山には持ち主がいて、れーしょんを渡すまいとしている。」

「ひどい!けち!」

「グーニ、武器は持ってる?」

 グーニはバックパックをゴソゴソやってぐーにかりばーを出した

「持ってる!!」

「どうする?」

「…こ」

「こ?」

「…」

 グーニは渋い顔をしながら小さく「交換してもらう」と言った。

 それができれば苦労しなかったんだろうし、今みたいな世界にはなっていなかっただろう…。


「昔の人だったらね、その武器を持って山の持ち主を襲って奪おうとするんだ」

「ひどい!!」

「…それが戦争だよ」

 グーニは少し考えた後、レーションにたとえた瓦礫の山に登って偉そうに笑ってみたりした。

 全然分かってなさそうだけど、グーニらしくてそれもそれでいいかな、と思ってしまった。

 みんながみんなグーニみたいに優しかったら戦争も起きてなくて、僕たちも普通に姉妹とか兄弟とか友達だったのかもしれないと考えてみた。

「おー?…ピーノ!うみがあるよ!!」

「海?」

 瓦礫の山に登ったグーニが遠くの方を指さしていた。

 僕も瓦礫の山に登ってみると、少し離れたところに大きな水たまりが見えた。

「海じゃなくて湖とかじゃないかな」

「うみ…みずうみ…うみって水じゃないんだっけ…??」

「違うよ、海はものすっごく広い水溜まり。湖は陸の中にある中ぐらいの水たまり」

「よくわかんないけど行ってみようよ!泳いでみたい!」


 そこは湖でもなかった。

 底には街らしきものが沈んでおり、普通の車なども錆びつつそこに残っていた。

「アトランティス」大昔の都市で、栄えていたけど結局海に沈んだ都市。

 それに似ているなと思った。

「金属とかも落ちてるから気をつけなよ」

「はーい!」

 ザブーン!

 グーニは激しく水しぶきをあげて潜っていった。

 泳ぎを教えたこともないのに、すぐに泳ぎ方を覚え、グーニは普通に泳いでいた。

 多分グーニは感覚で覚えるのが得意なんだと思う。

 僕はグーニが溺れても助けられるようにと残ったけどあまり必要なさそう。

 でもグーニのように上手く泳げるか怪しいし、周りの景色も気になるのでしばらく瓦礫に座って泳ぐグーニをみていた。

 すこし視野を広げて見ていると、青い看板がこちらに流れ着いているのに気付いた。

「上水貯水槽1号・・・?」

 看板にはそれだけ書かれていて、詳しいことは分からなかった。

 ただ、この湖が作りたくて作ったわけじゃないということはなんとなく分かった。


「ぷはぁ」

「どう?『まーめいど』の気分は」

「まーめいど??」

「人と魚が合体した生物なんだって」

「よくわかんないけど泳ぐのたのしい」

「そろそろ進みたいし、体乾かしたら服着ていこう」

「もっと泳ぎたい…!」

「日が暮れて寒くてしぬよ」

「あう…」


 少し傾いた昼過ぎの太陽が水面に反射して眩しく映った。

 揺れる水面から映し出される光は周りの建物に不思議な模様をつけ、ゆらゆらと形を変えている。

「グーニ!服着ろ!全裸で走り回ると風邪ひくぞ!」

「うーい!」

 グーニならもしかしたらまーめいどとも仲良くやれるかもしれない。

 バカバカしいと感じながらも、想像すると面白くて少し笑ってしまった。

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