第4話 オトノテガミ
「ふぉーるで!ふぉーるで!はがねのきし!でぃーるべ!でぃーるべ!つるぎをもちて!ふろーあ!ふろーあ!ごうおんをたてよ!」
「なにそれ」
「しらなーい」
グーニは暇なときや上機嫌なときに何かしら歌を歌う。
その歌何?と聞いても分からないとか知らないしか言ってくれない。
グーニは恐ろしく嘘をつくのが下手だから多分本当に知らないんだろうけど、知らない歌を歌えるのはおかしな話だ。
でも僕も同じことが言える。
どこで知ったかもわからないのに「この世界にはもう僕とグーニしかいない」ってことを確信できる。
「あぶないからあんまり振り回すなよ」
「私のグーニカリバーは無敵なのだー!」
「ただの鉄の棒でも当たったら痛いんだよ」
グーニカリバー、まだ持っていたのか…
突然どこかから拾ってきて相当気に入ったらしく、名前を付けてとせがんできたので、どこかで読んだ騎士が王様になるまでの物語に登場する「エクスカリバー」という剣の名前を提案したが、「分かった!グーニカリバー!」と言い出してからずっと持っている。
ただの鉄の棒に見えるが形はいびつで、どんなに頑張ってもおれないし、街に落ちてる金属の棒のように茶色くなったりしない。
そんなもの本でも見たことがなかったし、今はただの鉄の棒だと思うようにしている。
「あっ」
ガッシャァーン!!
グーニの手から滑ったグーニカリバーは近くの建物のガラスを激しく割った。
そこは「レコード」というお店らしく、なんだか申し訳ない気持ちになった。
「だから言ったろ…」
「ごめん」
「まあ僕とグーニ以外に人はいないし、誰も怪我してないと思うけど…」
グーニカリバーを拾ってやるために
図書館で過ごしていた頃にグーニが一度ガラスで手を切ったことがある。その時切り傷から菌が入ったらしく大熱を出して大変だったから、その時からできるだけグーニをガラスから遠ざけようと頑張っている。
グーニはそのことを覚えていないらしく、熱が下がったときに言った言葉が「おなかすいた」だったことからも簡単に予想がつくけど。
「ありがとピーノ!」
「拾ったら早く行くよ」
「はーい!」
「…ごめんやっぱなし。もうちょっとここ見ていきたい」
「んー?」
中には大きな棚の中にズラッと薄いナニかが収められていた。
「これ…」
図鑑5章「記憶媒体」
1877年に発明されたレコードという音声を保存できる画期的な道具。
棚から落ちて中身が出ていたそれはまさしく「レコード」だった。
「今から大体600年ぐらい前に発明された物だ…」
「600年?長いの?」
「僕たちが6回死んで6回生き返らなきゃいけない」
「長いの…?」
「長いよ…」
レコードは思ったよりずっと軽く、不思議な色をしていた。
ただ単に黒い円盤だと思っていたけど、光を反射させると溝が渦を巻いているように見える。
その渦の反射がただの黒を何か別の美しい色に変えているようで面白かった。
「Forle de! Forle de! Nihte ob Steale!」
「うわ!?」
「グーニ?」
レコードを眺めていると奥の方から重々しく勇ましい音楽が聞こえてきた。
「フォールデ、フォールデ…グーニの歌?」
「うーん…?」
グーニのいる方へ行ってみると、金色の花みたいな機械が置いてあった。
図鑑にも載っている「蓄音機」だろう。
「どうやって動かしたの?」
「なんか三角のボタン押したら」
「電気なのか…?」
図鑑には電気は使わず動くと書いてあったはず…
「ねー!このまーるいので音をだすんだよね?」
「図鑑だったらそう書いてるけど」
「ヘ・ン・リ・ー・じ・い・さ・ん・忘・れ・ん・ぼ!ぴ・く・る・す・は・さ・ん・だ・ば・ー・が・ー・ど・ー・れ・だ!」
子供の遊びの本に載っていた、決まらない時に使うおまじないのようなもの。
本なんて読まないグーニがなぜ知っているのだろうか?
「グーニ、どこでそれを知ったんだ?」
「わたしだってたまには本を読むのだ!えっへん!」
グーニがとったレコードの入れ物には「私を導く田舎道」と書かれていた。
「えい!」
「無理やり入るわけないだろ・・・・多分ここの針を上げて」
蓄音機なんて扱ったことはなかった。でも見る限り仕組みは単純だから、なんとなくで色々いじってみた。
ジジ...ジー
「ならないね」
「うーん…」
図鑑で再確認してみると、針を外側に落とすことが分かった。
やっぱり機械は難しい。
ザ…♪
「流れた!」
「おーもすとへーべん…知らない言語だ」
「ぶーりっじまーてん、しぇんどーりぃばー」
「…これ」
「おんでざんざつりーす」
「グーニの鼻歌の曲…!」
まさか元々の曲があったとは思わなかった。
でもグーニの鼻歌とは何か違う。グーニがいつも楽しそうだからだろうか?
この曲は言葉がわからなくても寂しげで悲しげ、でも不安とかそういうのではない感じがした。
音楽というものの凄さを知った。
思えばこれは手紙なのかもしれない。
作った人が聞く人に思いを込めて、聞く人はそれを受け取る。
構造自体は手紙と同じ。
その日は日が暮れるまで繰り返しその曲を聴いた。
たまにグーニと一緒に歌ったりして。
哀しげな曲だけど、楽しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます