【30】イリカと話すために王城へ
民衆も散り散りになった頃、ごちゃごちゃしていた頭もだいぶ落ち着きを取り戻した。考えをまとめて今後の方針を決めるためにひとまず宿に戻ることにした。
「何なんだこの状況……」
イリカがノーキャスル王国の国民から慕われていることは情報を集めているときから分かっていたのだが、ここまでとは思ってもいなかった。……いや、ここまでだったのかもしれないが、弟子だったということもあって無意識に評価を上げ過ぎないようにしていたのかもしれない。
「……でも、謀反かぁ。どうしたらいいんだろうなぁ……」
謀反自体は別に俺自身には特に関係ないためどうでもいい。謀反が正しいのもだったのかは、その国の国民と後世の者達が決めればいいと考えているからだ。
ただ、今回の謀反は色々と面倒くさいことが多い。それも、イリカが民衆に慕われているのがさらに厄介だった。イリカが自分の意思で謀反に加担したのであれば問題ないのだが、イリカが騙されていたり、操られていたりした場合は話が違ってくる。
「流石にそうだったら、見過ごせないよな……」
大切な弟子がそんなことに利用されているのであれば、流石にこのままこの国を離れることなんてできない。
「うーん……。イリカってこんな謀反に加担するような性格だったか? それに、何よりもイリカの様子が変だったんだよなぁ」
王の首を掲げた時のイリカの様子はどうもおかしかった。言葉もたどたどしく、表情も特に変わることなく、まるで言わされているかのように言葉を発していた。そのため、どうしてもイリカの意思で謀反に加担したとは思えなかった。
「……やっぱり、直接会ってみるしかないよな」
善は急げということで、俺は宿を後にするとすぐに城へと向かった。
城へと向かう道中には多くの騎士が巡回しており、警戒度が高まっているのをひしひしと感じる。そして、問題の王城もいつも以上に見張りがいた。そのため、ひとまず引き返して街を巡回している騎士に狙いを定めることにした。
街を散策しているふりをしつつ観察していると、1人の騎士が路地裏に入っていったのを見かけたため気が付かれない様にコッソリ後を付ける。そして、周囲に誰もいないのを確認して襲い掛かった。
「な、何者……!?」
「こらこら、暴れるな暴れるな。別に殺しはしないからさ」
兜を剥ぎ取り首を締め上げると騎士は抵抗して暴れたが、徐々に抵抗も無くなくなっていきやがて気絶した。そして、鎧を脱がせてジョオゼの能力でその騎士とそっくりに変身して鎧を身に着けると、気絶している騎士を拘束して人目のつかない場所に閉じ込めておく。
「さてと……、早速向かいますか」
再び城に戻り中に入ろうとする。もしかしたら、バレるかもしれないと内心ドキドキだったが、門を守っていた騎士は特に気にする様子もなく中に入れてくれた。
城内は城外と違って騒がしかった。処理に追われているのか文官や騎士団員達はせわしなく城内を行ったり来たりしている。こんな中を優雅に歩いてたりでもしたら、呼び止められて仕事を与えられるかもしれないため、小走りで城内を探索する。
どこだ? どこにいるんだ?
イリカを探すこと十数分。荘厳な装飾が施された扉を見つける。
「ここは……、王座の間か……」
他の部屋の扉とは違って異様な雰囲気を放っているその扉に手をかけてゆっくりと開けると、王座にふんぞり返って座っているジョーダル。その隣に立っているイリカ。そして、十数名の騎士団員が2人の両脇で並んでいるのが見えた。
「誰だ? 何か問題でも起きたのか?」
騎士団の1人が話しかけてきたため、鎧を脱いで変身を解いた。俺の姿を見た騎士団員達に動揺が走ったものの、ジョーダルの表情は変わらない。流石最年少で騎士団長になっただけのことはあるのだなと感心する。
「おやおやこれはこれは、フェリガン君……だったかな? 確か……、数日前に街を出たはずだったと思うのだが……。どうして、ここにいるんですか? イリカに何か用事でもありましたか?」
「えぇ、少しイリカと話がしたくて戻ってきたんですよ」
「なるほどなるほど……、そうでしたか。でしたら、どうぞお話しください」
不敵な笑みを浮かべるジョーダル。何か隠していると思いつつも、イリカの方を向いて話しかけることにした。
「イリカ」
反応はない。イリカのうつろな視線は、少しも動くことなくただただ真っすぐ遠くを見つめているだけであった。
「イリカ、イリカ!! 聞こえないのか!?」
大声で呼びかけてみるも、先程と変わらず一切の反応を示さない。
これは……。
イリカに異変が起きている原因を思案していると、ジョーダルが唐突に笑い出した。
「……何が面白いんですか?」
「ククク……。あー、いえいえ、申し訳ない。どうやら、イリカはあなたと話したく無いようだ」
そう言うジョーダルの顔は、名誉ある王国の騎士団長とは思えないほど邪悪な顔をしており、初めて会ったときの爽やかな雰囲気はそこにはなかった。
「という訳で、お帰り頂こうか。フェリガン君」
そう言ってジョーダルが合図を出すと、周囲にいた騎士団員達がジョーダルと俺の間に立ち塞がる。出ていかなければ実力行使に出ると忠告しているのだろう。
「なぁ、ジョーダルよ。最後にいいか?」
「……なんでしょう」
「この謀反に加担したのはイリカの意思なのか?」
「えぇ、もちろん。彼女が自分の意思で元国王の腐敗を正すために行動したんですよ」
「そうか……」
イリカの様子からそんなことを信じる馬鹿がどこにいるんだと怒鳴ってやりたいが、グッとこらえてそろそろ答え合わせをすることにした。
「嘘をつくなよジョーダル。お前はイリカに催眠をかけたんだろ?」
そう尋ねてみると、先程まで余裕そうだったジョーダルの顔が少し歪む。
「俺とイリカの関係をあまり舐めるな。どんな状況にあろうと、イリカが俺の話を無視する何てことありえないんだよ」
イリカは昔から素直な子だった。よく他の子たちに騙されていた姿を何度も見ていた。俺がクレザスだと分かってくれた時もそうだ。アリネの手紙だからという理由で、俺がクレザスだとすぐに信じた。人を疑わない性格は、この年になっても変わらなかったのであろう。
「お前、イリカを騙して催眠をかけただろう」
「……何を馬鹿なことを」
「イリカは素直な子だからな。お前が何かしら理由を付けたらすぐに信じただろうさ。催眠をかけるには相手の油断が大切だからな」
道具を使うにしろ、魔法を使うにしろ、催眠をかける時には相手油断を誘うのが一番だ。直ぐに人を信じるイリカなんて、騎士団長という立場を使って催眠をかけるのは難しくなかったであろう。
「という訳だ。こんな胡散臭い奴らのいるところにイリカを置いておけない。イリカを返してもらうぞ」
イリカに近づこうとすると、騎士団員が剣を抜いて俺を囲んだ。どうやら、ここからは話し合いはできないようだ。
「今イリカを手放すと色々面倒くさいことが起きるからイリカは渡せない。それに、君は知り過ぎた。だから申し訳ないけど、君にはここで死んでもらうことにするよ」
そう言うジョーダルは相変わらず余裕そうな態度を崩さない。恐らく、俺が子供だからと油断しているのだろう。それか、余程自分と仲間達の実力に自信があるのか。
「いや、イリカは絶対に返してもらう」
「あ、そう。……やれ」
ジョーダルの合図とともに騎士団が襲い掛かってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます