【29】ノーキャスル王国に訪れた変化
情報を集め始めてから3日が経ち、大分国の現状が分かってきた気がする。新しく借りた宿の一室で情報をまとめる。
「うーん……。これは……、どうなんだろうなぁ」
どうやら、騎士団が武器や兵器を買い集めているようであった。それも、対魔物用ではなく対人間用のものを集めているとのことで、それらの流通に詳しい街の住民は戦争でもあるのではないかと不安を語っていた。ただ、購入した兵器にどうも違和感がある。
「買ったといってもそのほとんどが防衛用だし、攻め込む戦争ではなさそうなんだよなぁ」
魔砲車などの攻城兵器は購入しておらず、魔力の壁を生み出す魔道具など、どちらかというと防衛に使うような装備や兵器を購入していた。そのため、戦争を起こすというよりかは戦争を起こされるための準備をしているようであった。
「ただなぁ……。果たして、この国もそうだけど、他の国が戦争なんて起こすか……?」
ノーキャスル王国の国王は宥和政策をとっており、他国と争うようなことは無いとのことであった。また、周辺国との関係も決して悪いものではなく、王国の国力を考えても戦争を仕掛けるだけ無駄な気がする。それに、周辺国が戦争の準備をしているという情報も入ってきていない。
なにより、ジョーダルの言っていた重要な任務とどうしても繋がらない。戦争の準備を重要な任務と言っていたのかもしれないが、どうも腑に落ちない部分がる。騎士団自体は王国内の色々なところに派遣されているようではあるが、王国各地を治めている貴族軍に動きはない。どう考えても騎士団だけで何かをしているとしか考えられなかった。
「やっぱり……、謀反か……」
謀反。騎士団がこれを起こすのであれば、今までの行動も合点がいく。対人の防衛兵器を買っている理由は、謀反を起こした際に貴族達から王都を守るためだろう。それに、もしかしたら何人かの貴族や軍の重役とも繋がっているのかもしれない。そうであれば、騎士たちがせわしなく王国各地に派遣されているのも納得できる。
「うーん……。でもなぁ……、謀反なんか起こしてどうなるんだ? 話を聞く限り、別に民衆の不満が高まっているって訳でもなさそうだし……」
騎士団が謀反を起こすというのはぶっ飛んだ考えであったため、果たしてこのまま決めつけていいものかと頭を悩ませる。ただ、今の情報ではこれ以上のことは分からないため、引き続き街で情報を集めることにした。
そして、2日日後、予想していた通り騎士団による謀反が起きてしまった。
「ちょ、ちょっと、通してくれ!!」
騎士団からの発表があるとのことで、集まった民衆をかき分けて群衆の最前列に出た。そして、少し開けた場所に広がる光景に目を疑う。
「おいおい……。どういうことだよ……」
そこには数人の騎士団員に囲まれたイリカとジョーダルが立っていた。そして、イリカの手には何者かの頭が握られている。その頭は後ろを向いており、顔が見えない。
その状況に茫然としていると、ジョーダルが話し始めた。
「本日より、ノーキャスル王国は私、ジョーダル・ラディアタが治める!!」
その言葉に動揺が隠せない様子の民衆を鎮めるためにジョーダルが何やら経緯を話し始めた。簡単にまとめると、この国の王様が宥和政策の一環として、かなりの金額を他国に流していており、国民の血税でそのようなことをしているのが許せなくて謀反を起こしたのだという。
「いやいや、そんな理由じゃ国民も納得しないだろ……」
その理由とも言えないような説明を聞いて呆れながら周囲を見渡してみると、国民もその説明には納得していないようで、周りの者達とひそひそ何かを話している。
だが、イリカが出てきたことで状況が一変した。
「さぁ、イリカ。売国奴の顔を皆に見せてやってくれ」
ジョーダルがそう言うと、イリカは握っている頭を天高く掲げる。ゆっくりとこちらに振り向くその顔は、予想通り国王のものであった。
「この国に巣食っていた……、元凶は私イリカ・タナがうち滅ぼした……。皆、私たちと共に……、新たな世界を築こうではないか」
イリカの声色には抑揚が無く、その顔も無表情で何を考えているのか分からない。そんな様子のイリカを前に国民も何も言えずにいる。
そりゃそうだ。こんなことで民衆が納得なんて……。
そんなことを考えていたのも束の間、地を揺るがすほどの歓声が上がる。
「……え? え? どういう……」
その様子に戸惑っていると、隣にいた者達の会話が聞こえてきた。
「いやー、最初はどうなることかと思ったが、イリカ様がいるなら大丈夫か」
「そうだな。それに、イリカ様が自らの手でやったってんなら、よっぽど王様が腐ってたってことだろうさ」
どうやら、イリカの存在はこの国者達にとって大きいようで、この者達だけではなく周りの者達も似たようなことを言っていた。
自分以外洗脳でもされているのかと錯覚するほど、イリカに
「この国の方針に関しては後日発表するため、本日はここで解散とさせていただく」
そう言って城へと戻っていく騎士団であったが、ただただその後ろ姿を眺めることしかできなかった。
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