【28】街を出るフェリガンの姿を見る者を見る者
翌日、準備を整えた俺は街を出ることにした。街の門をくぐり王都を後にする。その姿を物陰から見ていた人物が1人。俺が街から出ていく姿を確認すると、城の方へと走っていった。
〇――――ジョーダル視点――――〇
「それで? フェリガンとか言うガキは街を出ていったのか?」
「はい。先程見張らせていた者から報告がありました。街を出た後も担当の者が監視しているので、もし街に戻ってくるようなことがあれば追加の報告があるでしょう」
「そうか、それなら良かったよ」
「それでは失礼します」
「あぁ、ご苦労だった」
部下が部屋を出ていくのを見送って椅子に座って、背もたれに体を預ける。
「まったく……、イリカも困ったもんだ。あんな訳の分からないガキを連れてくるなんて……」
イリカが誰かを連れてくるのは予想外であった。イリカの過去の話を色々聞いたことはあるが、知り合いはそれほど多く無さそうであったため、気にしてはいなかった。それがまさかこんなタイミングで来るとはとまったく考えてはおらず、作戦に支障が出るかもしれないと思ったがそれも杞憂に終わってホッとしている。
今進めている作戦を成功させるためにはイリカの存在が重要であった。わずか16歳でノーキャスル王国の副団長になった天才。正義感も強く、民に対しても優しい、まるで物語から出てきたようなイリカの騎士としての姿は、その容姿も相まってすぐに民衆の人気を集めていた。
「本当にすごい奴だよ……、お前は……」
イリカに対しての憎しみは日を追うごとに膨れ上がっていた。最年少で団長になった俺を敬っていた民衆も、イリカが副団長になってからはというものの、いつイリカが団長になるのかといった話でもちきりになっており、その流れは騎士団内部にも広がりつつあった。俺の手が届いていない者達は何か質問があるときは、俺ではなくイリカに聞くようになっている。
「……くそったれが!!」
パリンッとグラスが割れる音が部屋に響いてハッと我に返る。
「おっと……、しまったな」
集めたグラスの破片をゴミ箱の中に放り投げ、汚れてしまった右手をハンカチで拭きながら、机の上の書類を眺める。
「後は……、タイミング次第だな。騎士団を動かすのは特に問題ないとして、残りの奴らをどうやって説得するか……。まぁ、イリカがいれば何とかなるか」
作戦もいよいよ大詰めを迎えようとしていた。
〇―――――――――――――――〇
街を出ていく俺の姿を見て王城に戻っていく者を瘦せこけた頬、目の下のクマ、いかにも不健康そうな人物が、反対側の路地裏からその様子を眺めていた。何を隠そう、この人物こそ俺なのだ。
「行ったみたいだ」
「うむ。そのようじゃな。やはり、お主の考えていた通り、何やらきな臭いのぉあやつら」
「あぁ、街を出ていくのを確認するまで後を付けるなんて、余程俺をこの街にいさせたくなかったみたいだね」
作戦が上手くいったことにホッと胸を撫でおろす。
「しかし、意外にもバレなかったのぉ」
「まぁ、姿自体は俺と全く同じだからね。流石にヨウみたいに魂の形を見ることが出来る人はあの騎士団にはいなかったみたいだね」
街を出ていったのは姿は俺ではあるが俺ではない、名前をウェーグという赤の他人の姿を変えたのだ。俺の姿に変わっているのには理由がある。
「お役に立てましたでしょうか?」
そう、今話しかけてきたこの召喚魔の能力で、俺とウェーグの姿が変わっているのだ。
「あぁ、ありがとうな。ヒョオゼ」
「それならば、良かったです」
そう言って頭を下げるヒョオゼは、豹の頭を持ち、王冠に執事服という変わった姿の召喚魔である。こいつの能力は生物の姿を変えるといったものであり、その再現度はほくろの位置から髪の毛の本数まで
何故姿を変えたのかというと、前日ヨウが話してくれた作戦が大きく関係してくる。その作戦はというと、俺が街を離れたと思わせるのはどうだろうかといったものであった。その意見に賛同した俺は、恐らく騎士団は俺が街を離れるのを最後まで確認するだろうという予測の元、全くの別人の姿を変えて俺だと思わせるためにヒョオゼを呼んだのだ。
「それにしても、あの者もよく姿を変えることに同意してくれたのぉ。わらわであれば、絶対に嫌じゃがな」
「まぁ、少なくない報酬を渡したしね。それに、別に一生あの姿って訳じゃないってのを説明したら、怪しんではいたけど了承してくれたよ」
姿が変わると言っても、その効果はせいぜい48時間ほどしかもたないうえに、街を出たからもう安心だとは到底思えなかった。そのため、あの者にはこの2日間でなるべく遠くに移動して、48時間が経とうとする頃には何処かで身を隠しておいて欲しいということを伝えていた。
まぁ、赤の他人をどこまで信用していいか分からないけど、上手くやってくれることを祈ろう……。
俺は路地裏から出ると、果たして騎士団が何を企んでいるのか、ジョーダルが言う重要な任務とは何なのかということを調べるためにさっそく情報収集を開始することにした。
杞憂に終わればいいんだけど……。
そんなことを考えながら街で情報を集めていた。ただ、悪い予感というのは当たるもので、国を揺るがすような事件が起きてしまったのであった。
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