【26】騎士団長と話す
イリカに連れていかれたのは王城であった。と言っても、城の中に入ったわけではなく、城の庭のようなところを歩いて訓練場に向かっているとのことだ。だとしても、他の者達からしたら得体のしれない人物をこんな場所に連れてきていいのかと思ったが、イリカは特に気にしていないようでどんどん進んで行く。
「お、おい。本当に俺が入ってもいいのか?」
「大丈夫ですよ。私の先生なので」
答えにもなっていない返答に不安が増してくる。俺がどうなろうが別に構わないが、イリカにとって良くない影響が出てしまうことが気がかりだ。
「イリカ。もしかしてだけど……、他の騎士達に俺を紹介するつもりか?」
「はい。どうせなら皆にも先生のことを知ってほしいのですしね」
その言葉を聞いて慌ててイリカを止める。
「待て待て!! 俺が師匠なんて言ったら皆困惑するだろ!?」
「? どうしてですか?」
「どうしてって……、そりゃそうだろ。イリカよりも年下なのに師匠なんて、そんなに怪しい人物受け入れられるわないと思うぞ……? それに、俺が前世の記憶を持っているってのはあまり知られたくないんだ。それを説明しないと俺が師匠だって説明できないだろ?」
村の者達程度の範囲であればまだいいかもしれないが、流石に国の騎士達レベルにバレるとなると色々面倒くさいことが生じる。それに何より、俺が頭のおかしい者だと思われてイリカも変な奴だと思われるのは流石にまずい。
「ですが……」
余程俺のことを他の騎士達に紹介したかったのだろうか不満気にしている。ただ、俺の正体について話されるのは流石に認可できないのだが、イリカの仲間達に会ってみたいという気持ちも確かにあった。そのため、紹介する内容を少し変えてみることにする。
「それじゃあ、俺がイリカの師匠の子供だってことにしないか?」
「師匠の子供……?」
「あぁ、それなら特に前世の記憶について話すことないし、怪しまれずに紹介できるだろ?」
「怪しむ? 皆であれば怪しむことなどないと思いますが……」
「いやいや、流石に怪しまれるよ。もし、この案を受け入れられないなら、紹介するのはなしだよ」
「うーん、そうですか……。分かりました……」
イリカは相変わらず納得していない様子だけど、何か問題を起こす前に対処するほうが安全だ。……まぁ、悪事に手を染めてしまう弟子を育ててしまった俺が言えることではないんだけどね。
他の騎士達にどんな説明をするかの設定を話し合いつつ歩いていると、遠くの方に人達が見えて何やら声が聞こえてくる。どうやら、あの者達がイリカの仲間である騎士団なのだろう。すると、こちらの存在に気が付いた騎士の1人がこちらに向かって敬礼をする。
「タナ副団長!! お疲れ様です!!」
「あぁ、私に構わず続けてくれ」
その言葉を皮切りに他の騎士団員達も敬礼をしてイリカに挨拶をし始めた。チラッとイリカの方を見ると、先程までとは違って凛とした態度で団員達に挨拶を返している。
おぉ……!! 砕けた感じのイリカもいいけど、こういったかっこいいイリカも新鮮でいいなぁ。
そんなことを考えつつ、イリカの後に続いて団員達の横を通る。団員達が俺のことを見る視線にプレッシャーを感じながらも、急にこんな子供が副団長と現れたらそんな目をするよなと気にしないようにした。
騎士達の横を通り抜けて訓練場の近くにあったテントの中に入ると、いかにも上の位なんだろうなと分かる鎧を身につけた男がいた。金髪の長髪は見ただけでサラサラなのだろうなと分かるほど手入れがされており、女性のような容姿で何よりも若い。二十代前半ぐらいだろうか。イリカもイリカではあるが、この若さで団長の座についているということは中々の実力者なのかもしれない。
こちらに気が付いたその男は広げていた地図から視線を外してこちらを見た。
「む? イリカじゃないか。今日は休みだったと思うんだけど、どうしたんだい?」
「実は団長に紹介したい人と今日たまたま出会いまして」
「紹介したい人? それは、もしかしてそこにいる子供なのかな?」
「はい。覚えていらっしゃるか分かりませんが、以前お話しした師匠には子供がおりまして、それがここにいるフェリガンなのです。是非、団長にも挨拶をしておきたいとのことでしたので連れてきたんです」
俺は団長と呼ばれる男の前に立ち頭を下げた。
「お初にお目にかかります。フェリガンと申します。本日はこのような機会を頂き感謝します」
「あぁ、よろしく。団長のジョーダル・ラディアタだ」
そう言って手を差し出してきたため握り返す。容姿に反してしっかり鍛えられているその手は流石騎士だと言うべきだろうか。
「それにしても、まさか本当にイリカの言っていた師匠が存在したなんてね。話を聞く限り、そんな超人はいないと思っていたんだけど……」
「えっと……、それはどういったことでしょうか?」
「ん? あぁ、実はね――――」
ジョーダルの口から発せられた言葉の数々は何とも頭を抱えたくなるものであった。そのほとんどが俺、つまりクレザスを褒めたたえるような内容で、話も所々盛っており、普通の人が聞けばクレザスが超人だと思っても仕方ないような内容だった。
「あ、あはは……。そうだったんですね。イリカがそんなことを……」
イリカの方をチラッと見ると目を逸らされた。自分でも言い過ぎたなと思ったのであろう。言ってしまったものは仕方ないため、そのことについては追及しないことにしておく。
しばらくの間、イリカの騎士団の生活のことであったり、自分がどんな生活をしていたのかなどについて話していると、ジョーダルは思い出したかのように手を叩いた。
「そうだ。フェリガン君はしばらくこの街に滞在するのかな?」
「あ、そうですねぇ……。いえ、明日のうちに街から出る予定です」
「え!? そうなんですか!?」
「あぁ、イリカには伝えていなかったけど、ちょっと別の街で約束があってね。明日のうちに街を出ないと約束の時間に間に合わないんだ」
「それなら……、仕方ないですね……」
イリカの残念そうな顔を見ると少し心が痛む。
「そうか、それならよかった……、というのは違うか。非常に残念なのだが、実は近々大切な任務があってね。私もイリカもその準備があってしばらくの間会えないんだよ」
「大きな任務……」
「あぁ、しかもそれは極秘の任務だから、いくらフェリガン君と言えども詳細までは話せないんだ」
まるで、これ以上は詮索してくるなよとでも言いたそうな口調であった。確かに、騎士団ともなれば極秘の任務があるのだろう。ただ、ジョーダルの口調や態度からなのか、どうも先程から会話している間も感じていたのだが、何処か引っかかる部分がある。
そして、ジョーダルは時計をチラッと見た。
「そろそろ私も訓練に戻らないといけないから、今日はここまでにさせてもらおうかな」
そう言いながら、テントの入り口に手をかけたところで足を止めた。
「あーあと、イリカも休日だったところ申し訳ないけど、訓練に付き合ってくれるか? 次の任務までにやっておきたいことがあってね。代休はまた機会があったら与えるからさ」
「え? あ、はい。分かりました……」
見るからにテンションが下がっているイリカ。騎士団ともなると、こういった休日が急に無くなることもあるのかもしれないなと、国を守る職業の大変さを感じる。
「それじゃあ、フェリガン君。また会える日を楽しみにしているよ」
そう言ってテントを出ていくジョーダル。イリカにも予定ができてしまい、ここに留まっていても仕方ないため出ていこうとすると、イリカが見送りたいとのことだったので王城の門まで一緒に向かうことにした。そして、門の前でひどく落ち込んでいたイリカを訓練なら仕方ないと励ましてイリカと別れると、その場を後にして宿に向かった。
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