ノーキャスル王国
【22】ノーキャスル王国に到着
「おぉ、ここがノーキャスル王国かぁ」
村を出て十日ほど、特に問題も無く住んでいた村の隣国であるノーキャスル王国にたどり着くことができた。
「よし、入るか。直ぐにイリカと会えるといいんだけど……」
門をくぐり街の中に入る。村とはまた違った雰囲気に覆われている街は新鮮……、いや、どこか懐かしさを感じる。王都ともなるとやはり人が多い。それに何よりも13年も経つと人々の服装であったり、建物の外観であったり様々なモノが変わっている。
いやー……、村が遅れているというか街が進んでいるというか、こうも違うもんなんだなぁ。
村と街の違いを実感しつつとりあえず宿を取ることにする。旅ではほとんどが野宿で、満足に休むことができない野宿を続けると体力精神ともに大して回復することができない。そのため、ゆっくりと休むことができる場所の確保が最優先事項であった。空きがないと言われてしまっては目も当てられない。
高すぎるわけでもなく、安すぎるわけでもないほどよい価格の宿を探して、数日泊まる予約を取った後に再び街に繰り出した。
「まずは、やっぱり本屋だよな」
いきなりイリカの元に向かうのも良いかもしれないが、ひとまずは情報の収集を行うことにする。ただ、情報集といってもイリカに関することではなく、世界についての情報収集だ。どんな魔道具が開発されたのか、魔法研究ではどんな発見があったのか、そういったことを調べるには本屋に向かうのが一番なのだ。
街の散策がてら本屋を探していると色々なモノが目に入ってくる。
おー、あの魔道具ついに完成したんだ……。あれ? この果物高くなったなぁ、前だったら今の3/4……、いや、2/3ぐらいの価格だったような……。
時の流れを感じながら歩いていると、目的の本屋についた。外観にこだわっているのか、それとも古くからあるものなのか、その建物は木で作られており他の建物がレンガでできている分異質な雰囲気を感じる。
店のドアを開けるとカランカランと来客を知らせる鐘の音が鳴る。店内は少し薄暗いものの、紙の匂いと相まって落ち着いた雰囲気だった。
「いらっしゃい」
カウンターに座っている初老の男性は本を読んでいるようで、こちらに顔を向けずにそう言った。特にそれ以上こちらに構ってくる様子はないため、目的の本を探すことにした。
「えーと……、おっ、これとか良さそうだな」
様々な魔法の習得方法が載っている魔導書、世界で起きた事件を数年分まとめているゴシップ本、魔法研究がまとめられている魔法論文集、古い外観とは異なり置かれている本自体は新しい物ばかりであった。そんな中、古本コーナーにあった一冊の本に目が止まったため手に取ってみる。
「これは……、『魔法研究まとめ』? なんじゃそりゃ?」
真っ黒な本にはそうとだけ書かれており、軽く中を見てみたのだが目次どころか作者名すら書かれていなかった。そしてなにより、書かれている文字が読めない……。
「て、に? まりょ……、く。あー、手に魔力を溜めてか。汚すぎて読めない……」
その字があまりにも汚いため少し読むだけでも時間がかかってしまう。
「……けど、この字どこかで見たことがあるような」
このような字を書く弟子がいたかもしれないと思い出していると、ゴホンと本屋の店主が大きな咳を1度だけした。店主の方を見ると、こちらをジロリと睨んでいる。これ以上立ち読みをするなら買えってことなのだろう。そのため、数冊の本と真っ黒で字の汚い本を買って店を後にした。
「誰だったかなぁ……。いやでも、弟子の本だって決まったわけじゃないしなぁ」
宿へと戻る道中に思い返してみるもやはり思い出せない。せめて作者名だけでも書いてあれば弟子かどうかはすぐに分かるのだが、それが書いていないのであればすべては憶測に過ぎない。
「まぁ、読んでみれば分かるか」
内容も満足に見ていないのにあれこれ考えてもしょうがないかと、宿に戻ってすぐに解読作業に当たることにした。
「こ……、いや、に……、それとも、てなのか?」
解読作業を開始して数時間、途中途中を読み飛ばしながらも全体の1/3ほど読み進めた。その字の汚さで1文解読するのにすら時間がかかってしまい、その上内容も整えられておらず、書物というよりかは誰かの走り書きと言った方がしっくりくる。
「それにしても、字は汚いのに内容はしっかりしてるんだよなぁ……」
その本は魔力を魔法に変換する際の効率化、魔法の属性と魔力との関係などについて書かれており、内容自体はしっかりとした研究であった。ただ、やはりタイトルにあるように研究内容をまとめているだけで、実用的な部分までは書かれていない。
「うーん……。こんなに魔法に興味のある子は何人かいたけど、あの子たちこんなに字が汚かったけか?」
流石の俺でも弟子全員の字を覚えてはおらず、何とか思い出そうとするも一向に思い出せない。
「……まぁ、旅を続けていればいつか会えるだろう」
集中力が途切れてしまったため、本を閉じて時計を見ると既に夜の12時を回ろうとしているところであった。明日はイリカに会いに行くつもりだったため、流石に寝ないといけないなとベッドに横になる。野宿の疲れがあったのか、横になると気づかないうちに眠りについていた。
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