【21】村を出る
「忘れ物はない?」
「うん。大丈夫だよ母さん」
「怪我はするんじゃないぞ?」
「分かってるよ父さん」
次に会えるのはいつになるのか分からないため、強く強く2人と抱擁を交わす。自分は普通とは違った子供であったが、2人の子供として大切にここまで育ててくれた2人には感謝しかない。
満足するまで抱擁を交わした後、俺が村を出るということで集まってくれた村の皆の方を向くと、村長が近づいてきているのが見えた。
「フェリガンよ。今まで村のために働いてくれてありがとう」
「村長!! 頭を上げてください!! 別に大したことはしていませんから」
「そんなことはない。わしだけではなく、村の者達はお主に感謝してもしきれぬ。お主がいてくれたから、わしらは今もこうして暮らしていけてるのだ」
そうだそうだと村人達から声が上がるのを恥ずかしく感じながらも、村長の肩に手を置いて頭を上げてもらう。
「村長。でしたら、その感謝を恩返しとしてアリネのことをよろしくお願いしますね」
「うむ。分かっておるよ」
「アリネも元気でな」
「うん!! 皆に会うことがあったらよろしく言っといてよ!!」
アリネは元気そうに笑っている。
何とか村の皆に受け入れてもらえたようで良かった……。
ふと盗賊団を村に連れてきたときのことを思い出す。
――――――
――――
――
村に戻り、村の外にアリネ以外の盗賊達を待機させて、俺とアリネは村長の家に向かった。村長の家にたどり着くとアリネに近くに身を隠しておくように伝えて家の中に入る。俺の存在に気が付いた村長は安堵して抱き着いてきたが、引きはがしながら話があるため人を集めて欲しいと伝える。
そして、村長だけではなく両親やすぐに集まれる人達が集まったところで事情を説明することにした。
「それでフェリガンよ。盗賊達はどうなったんだ?」
村長の質問に対する答えをその場に集まった者達は待っている。その表情には不安や安堵といったものが感じ取れるが、そのことを説明する前に話さなくてはならないことがあった。
「村長。もちろん盗賊達が気になるのは分かっているけど、その前に俺の話を聞いてほしい」
「? どうしたんじゃ?」
「実は……、皆に隠していたことがあるんだ。まずは、それから話そうと思う」
そうして、不思議そうにしている村人達をよそに自分のことを説明する。以前話した時よりも詳しい話、生まれ変わる前の自分がどんな人物だったのか、どんな暮らしをしていたのかということを話していく。
「――――それで……」
「いやいや、ちょっと待つんだフェリガン」
村長が話を遮って両親の方を向いた。
「オリエとロンデルよ。お主たちは知っていたのか?」
「いえ……、ですが、昔から普通の子供と違うなとは感じていました」
「ふむ……。いささか現実味の無い話だが、魔法の知識もあることだしな……」
魔法の知識と断片的な記憶しか覚えていないと嘘をついていたこともあり、まさか俺が1人の人生を丸々覚えていたとは考えもしていなかったようで、村人達はもちろんのこと両親も困惑しているのが分かる。
そりゃそうなるよなぁ……。
以前の人生については誰にも話したくはなかった。それは、俺がクレザスなのか、それともフェリガンなのか分からなくなってしまうためだ。前世の記憶を持っている自分は果たして大人なのか子供なのか、それにオリエとロンデルの子供なのか、他の人はもちろんのこと俺自身も自分が何者なのかが曖昧になってしまう。フェリガンとして生きていくにはこのことは知られたくなかった。
でも、アリネのためにもこのことを皆に知ってもらわないといけないんだ。
落ち着きを取り戻していない村人達であったが、話を進めることにした。
「話を戻すけど、盗賊達は捕まえて今村の外に待機してもらっている」
「た、待機!? いや待て待て!! フェリガン、お前の記憶の話も気になるところだが、外に待機しておるだと!?」
「はい。ですが危険ではないので落ち着いてください」
「落ち着けるか!! もし盗賊がこの瞬間村を……」
机を囲んでいる村人達を横切るかのように
「静かにしてください。重要なのはここからですから」
席を立ちあがるとあっけにとられている村人達の後ろを通って、燃えている壁の元まで歩いて行く。そして水魔法で消火しつつ、アリネと一緒に待機しておいてもらっていたヨウに合図を送る。
「盗賊の頭領ですが、実は俺の弟子です」
「で、弟子……?」
「はい。先程話していた、俺がクレザスだった時に魔法やスキルについて教えていた弟子の1人です」
その言葉と共に部屋の中にアリネが入ってきた。
「紹介します。弟子であり、元盗賊頭領のアリネです」
――
――――
――――――
紹介してから色々あったものの、俺の知り合いだということやアリネの話を聞くうちに納得してくれたようで、しばらくの間村にいることを認められた。
アリネの罪滅ぼしの旅も知り合いに頼んでおいたから、少し不安は残るけど大丈夫だとは思う……。多分……。
その後も色々村人達から話しかけられて別れるタイミングを掴みかねていたが、ふと誰も言葉を発さない時間が訪れた。
「……それじゃあ、行ってきます!!」
両親や村人達の声を背に受けながら村を出て、弟子に会うための旅に出た。
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