【23】イリカに会うための作戦会議
翌朝、朝食を取るとすぐに王城へと向かったのはいいのだが……。
「どうしても駄目ですかねぇ? ちょっとだけ、ほんのちょっとだけでもいいんですけど」
「駄目に決まってるだろう」
「いったいどこの誰かもわからんガキを入れるわけがない。ほら、さっさと帰るんだな」
まぁ、予想通り門前払いを食らっている。ただの子供が王城の騎士として働いているイリカとすんなりと会えるとは思ってはいなかったのだが、万が一許可されるかもしれないと訪れてみた訳だ。
「あはは……。ですよねー」
このままここにいれば騒ぎを聞きつけたイリカが来るかもしれないが、そのような危険を冒す必要はないし、王国と敵対する意思はもっとない。そのため、ひとまず王城を離れて宿に戻ることにした。
宿に戻るとヨウを召喚してさっそく作戦を練ることにする。
「なぁ、王城に侵入できると思うか?」
「侵入自体は容易であろうが、侵入に気が付かれた時が厄介じゃぞ? 急に王城に現れた侵入者の話なんぞ誰も聞かないに決まっておろうしな」
「だよなぁ……。となると、やっぱり待つしかないか」
「であろうな」
実際の問題、王城に侵入することはできたとしてもすぐにばれてしまうだろうし、何より俺は別に潜入の専門家ではないため隠密行動は苦手だ。アリネ達の盗賊団であれば気づかれないかもしれないが、流石に王国の騎士ともなると話が変わってくる。
待つ、待つかぁ……。こりゃあ、時間がかかるかもしれないなぁ……。
あまり待つということは好きではないため、他にいい作戦は無いかと考えてみるも特に思い浮かばなかった。自分の姿がクレザスであればもう少し簡単にことが進んだかもしれないが、今の自分はフェリガンである。
「そうじゃ、お主姿を変えることができたであろう。それでクレザスの姿に変われば良いのではないか?」
「あー、確かに姿を変えることはできるけど、この世に存在する人物にしか変わることができないんだよね。だから、前の姿にはなれないんだよ」
弟子達に変わることもできるが、その能力は自分の記憶に依存するため、変身できるのは13年前の姿という訳だ。唯一出会ったことのあるアリネは盗賊団の頭領であったため、そんな姿で王城に行ったりしたら余計にややこしいことになってしまう。
「ふむ、それは残念じゃの。では、イリカが王城から出てくるのを待つしかないという訳じゃな」
「そうなるね……。はぁ……、退屈な日々になりそうだ」
そうして話がまとまったわけだが、流石に一日中王城の出入り口を見張っている訳にもいかない。何日、何か月になるかも分からないイリカの外出をただ待っているだけでは金が一向に減ってしまうため、金を稼がねばならないのだ。
「それじゃあ、頼むねヨウ」
「任しておくがよい。イリカの魂であればすぐに見分けられるであろう」
そのため、ヨウに王城の出入り口の見張りを頼んで自分は金を稼ぐために冒険者ギルドに向かうことにした。
十何年、いや二十何年ぶりかの冒険者ギルドにたどり着いたのだが、相変わらずガラの悪そうな者が多い。ただ、物静かな者、騒がしい者、態度が横暴な者、物腰が柔らかい者、様々な性格の奴がごった返す冒険者の実力は様々だ。見た目では一概に実力は図れない。
「どうなされましたか?」
ボーっとギルド内を眺めていると不意に声を掛けられたためそちらを見ると、青色と緑色が基調となっている服を着た女性が立っていた。どうやら突っ立てた俺を心配して受付嬢が話しかけてきたようだ。
「あ、実は……!?」
振り返って事情を説明しようと思ったのが、思考が止まり大きく開かれた胸元から視線を動かすことができない。
えっろ……。前からこんなに胸元が空いていたか……?
転生すると思考などは前世からある程度引き継ぐようなのだが、子供として過ごしていたこと原因なのだろう、精神年齢がどうも13歳の方に引っ張られるようだ。だから、ついつい見てしまうのも仕方ない。決して俺が悪いわけではないのだ。
「えっと……、大丈夫でしょうか?」
ハッとして慌てて視線を上げる。
「あ、あぁ、すみません。実は冒険者登録をしたいのですが」
「冒険者登録ですね。でしたら、こちらへどうぞ」
恐らく慣れているのだろう、受付嬢は何事も無いかのようにカウンターに案内される。受付嬢の後を付いていき、指定された席に座る。
「冒険者登録とのことでしたので、まずはこちらに記入いただけますか?」
受け取った書類の内容を確認する。クエスト中に何かしら問題が起きてもギルドは責任を負わない、クエスト中に死亡した場合、残っていれば遺品は家族の元に届けられるなどよくある内容がズラッと並んでいた。
ふーん。ここは昔とそれほど変わってないんだな。
そんなことを考えながらざっと流し見をした後、書類に自身の生年月日や氏名、死亡した際の遺品の届け先を書いて受付嬢に渡す。
「確認させていただきますね……」
受付嬢は書類を確認すると、入れ替えるように小さな針と小さな小瓶のような魔道具を渡してきた。そして、言われるとおりに指先に針を刺して小瓶の中に血を一滴垂らす。詳しいことは知らないのだが、血を介して個人情報を登録するのだという。
受付嬢が書類と魔道具を持ってギルドの奥に行ってしまったためしばらく待っていると、一枚のカードのような物を持って受付嬢が戻ってきた。
「はい、こちらがギルドカードになります。フェリガン様の情報が登録されていますので、無くさない様に気を付けてくださいね」
「ありがとうございます」
「フェリガン様はまだ見習いランクですので、一般的な冒険者とは異なり――――」
見習いランクは普通の冒険者とはまた違うものであり、一定以上のクエストをこなして試験を受けることで正式に冒険者として認められるという説明を長々とされる。
欠伸を噛み殺しながら聞き終えると、ギルドカードを渡された。それは、長方形の髪に名前と冒険者ランクが記されているだけの簡素なものであった。一つ上のランクに上がるとちゃんとしたギルドカードを貰えるとのことだ。
「冒険者ギルドについて説明をしようと思いますがお時間はありますか?」
「えーと、そうですね……」
一応ある程度のことは知っている。説明を今更聞いてもしょうがないし、また退屈な話を聞かないといけないのかと思いつつも、特に急ぐ理由も無い上に、もしかしたら俺の知らない内容があるかもしれないと思って聞く事にした。
「あー、お願いします」
「では、まず――――」
受付嬢の説明は自分の知っている内容と大差ないことだった。長々と説明を聞いているのも退屈なため、ボーっと眺めているといつの間にか説明が終わったようだ。
「以上となります。何かご質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「かしこまりました。良き冒険者ライフを!!」
受付を離れてクエストボードに向かう。討伐クエスト、採取クエスト、護衛クエストなど様々なクエストがボードに貼られている。適当なクエストを選んで登録すると冒険者ギルドを後にした。
そんなクエストをこなす日々を繰り返すこと7日。思っていたよりも早くイリカと対面する機会が訪れた。
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