【7】召喚魔法

 今日は村で祭の準備があって村の人達は忙しくしていたが、日頃授業をしていることもあって俺は休みを貰っていた。村の子供達も祭の準備を手伝っており遊ぶ相手もおらず、どうしようかと悩んでいたところ、最近新しい魔法が使えるかどうか確認していなかったなと思い立って、1人で森の中に来ていた。

 

「えーと……、まぁ、ここら辺でいいか」


 村から少し外れたところに存在する森の奥の開けた場所にある泉の前で足を止める。辺りは木々に太陽が遮られていることもあり少し薄暗く、鳥のさえずり、木々が揺れる音、鳥のさえずりしか耳に入ってこない。これだけ静かな環境はいつぶりだろうなと思いつつ、軽くストレッチをする。


「ま、ず、は……」


 ウォーミングアップがてら前までは魔力が足りなくて使えなかった魔法やスキルを使っていく。赤ん坊の頃からずっと魔力循環を行っていたこともあり、前世の全盛期ほどではないが魔力量は順調に増えており、だいぶ使える魔法は増えていた。この魔力量であれば、村を出たとしても困ることは無いだろう。


「うーん。体が変わっているし、使えない属性とかあるかなって思ってたんだけど……」


 この体は元々の魔力量が少なかったものの、前世同様ほとんどの属性に適性があったらしく、魔法について困ることは無かった。


 もしかして……。いや、そんな訳ないか……。


 属性の適性についてある考えが浮かんだが、証明できることでもないためすぐに考えるのを止めた。


「よし、次は……、召喚魔法だな」


 召喚魔法。俺達が住んでいる世界とはまた別の次元に存在する精霊、天使、悪魔などを召喚する魔法。召喚されたものは、精霊であれば召喚獣、天使であれば召喚使、悪魔であれば召喚魔と呼ばれている。前世でも使っていた魔法であったが、この魔法を使うのは少し不安が残る。


「大丈夫かなぁ。前世での契約がこの体でも継続されているといいけど……」


 召喚魔法で召喚したモノとは契約を交わす必要がり、契約さえ交わすことがことができれば自由に召喚できるようになる。ただ、契約が失敗すると下手したら召喚したモノに殺されかねない。そのため、前世での契約が続いていれば、安心して召喚することができるという訳だ。


「契約が解除されているかもしれないことを考えると、あんまり危ない奴は召喚できないよなぁ……。となると……、あいつにしとくか」


 少々気が乗らないが、数いる知っているモノの中でも比較的安全なモノを召喚することにした。魔力を込めて召喚魔法を発動させると、魔法陣が出現してそこから徐々にその姿を現してくる。


 現れたのは白みが強い白と黄色が混ざり合ったような毛の色をした狐。尻尾の数は5本で妖狐と呼ばれる種族であり、一応精霊に属しているのだという。妖狐だからヨウと名付けたわけだが、果たして前世の契約は継続されているのか。


「ん……、おや? お主は……」


「ヨ、ヨウ。久しぶりだな……」


 自分にとっては久しぶりにその姿を見たのだが、ヨウにしたら初めて見る顔。いぶかし気に俺の顔を見てくるヨウは俺に近づいてくると、鼻をスンスンと動かして俺の匂いを嗅いでくる。


「この感じ……。お主とは初めましてのはずなのだが、何処か懐かしい気がするのじゃ……」


「俺だよ。クレザスだよ。覚えていないか?」


「クレザス? 確かにクレザスと同じ魂の形をしておるが、本当にクレザスなのかえ? だとしたら、その体はどうしたのじゃ。随分小さくなっておるし、それにかなり弱くなっておる」


「あー、実は色々あってな。そのー……、転生? ってものをしたらしんだ」


「転生……? いったいどういうことじゃ?」


「ちょっと信じられないかもしれないけど、まぁ、詳しく説明すると――――」


 俺はヨウにクレザスという肉体は既に死んでおり、新たなにフェリガンとして生を与えられたこと。クレザスだった頃の記憶を持っていることを詳しく説明した。色々質問もされたが、それにも1つ1つ答えていく。すると、最初は怪しんでいたヨウも徐々に納得してくれたようであった。


「なるほどのぉ……。わらわも長いこと生きているが、前世の記憶を持って生まれ変わるなんて初めて聞いたのじゃ」


「ヨウは俺がクレザスだと分かってくれるのか?」


「うーむ。そうとしか言えぬ記憶を持っておるようじゃし、何より魂の形がクレザスのモノと全く同じであるからそうとしか考えられん」


「魂の形……。さっきもそう言っていたが、それって何なんだ?」


「む、前にも話したことがあると思うのじゃが……。まぁよい、もう一度説明してやろう。よいか? 人間ひいては生物にはそれぞれ魂を持っており、その形は人それぞれ違っておるのだ。わらわのような存在はその魂の形を見ることができるのじゃ。だから、お主がクレザスと同じ魂の持ち主だということが分かったといったわけじゃ」


 魂の形……。そんなものがあるとするならクレザスの時と同じ魔法属性の適性があるということが説明できるな。


 人それぞれに魂の形があるとするなら、それによって適性の有無があると納得することができる。クレザスと同じ魂の形である俺だからこそ、フェリガンの身となった今でも同じ適性があるのだろう。


「それじゃあ、契約は継続されているのか? されていないんだったら、新しく契約し直したいんだけど」


「契約……。ふむ、どうやら切れているようじゃ。恐らく1度死んだときに切れたのであろう。ほれ、手を出せ」


 ヨウの前に右手を出すと、その上にヨウの左手が乗せられた。次の瞬間、燃えるような痛みが手のひらを襲い、一瞬顔が歪む。そして、ヨウが手をどかすと狐の足裏の形がクッキリと手のひらについていたが、その跡も徐々に消えていって見えなくなった。


「これで契約は完了じゃ」


 前世にもあったのだろうが、すっかり忘れていたヨウとの繋がりのようなモノを感じる。この繋がりのようなものが魂を介しているのかは分からないが、ヨウと契約を交わしたことによってこの感覚があるのだろう。となると、恐らく今まで契約してきたモノ達との契約は切れていることが分かる。


 はぁ、また契約のし直しか……。そうなると、面倒くさそうなのがいくつかいるな……。


 面倒くさそうなモノ達のことを考えていると、前世での契約時のことを思い出して憂鬱になってくる。


「……それじゃあ、ヨウ。さっそくだけど、力を見せて欲しい。ヨウの今の実力を見ておきたいんだ」


「まったく……。久しぶりの再会と契約だというのに、いきなりそれかえ? どうりで結婚できぬわけだ」


「うるせぇ。ほら、早く見せてくれよ」


 ヨウはやれやれといった感じで俺のそばから離れて、覚えているスキルや魔法を使っていく。その様子を眺めていたわけなのだが……。


 これは……、うん。まぁ、分かっていたことだけど……。


 一通り終えた後に俺の元に戻ってくるヨウであったがその足取りは何処か力なく、俺の前で足を止めると、ゆっくりと顔を上げて悲し気に俺の顔を見つめてくる。


「……お主、弱くなったのぉ」


「……おっしゃる通りです。かなり弱くなりました……」


 召喚したモノの強さは召喚主の強さに比例する。ただ、際限なく強くなるわけではなく、また数字で表せるものではないが、召喚したモノの強さの上限が50であれば、俺の強さが80になろうと100になろうと召喚したモノの強さは50のままである。ただ、俺の魔力量が20だとすると、召喚したモノの強さは20ぐらいになってしまう。


 つまりだ、前世に比べると俺が弱すぎてヨウも実力を全然発揮できていないという訳なんだよなぁ……。


 申し訳なさと虚しさが合わさったような何とも言えない感情の中で、俺達の間には沈黙が流れる。


「……帰る」


 見たいものも見れたことだし、このままここに留まっているのも気まずいため、ヨウを元の世界に戻して村に戻ることにした。

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