【6】村での新たな日常
「よーし、それじゃあ、次は……」
オークを倒してから2年が過ぎて俺は12歳になっており、村の子供から大人まで、魔法やスキルに興味のある者達に教えたり、自分を鍛えたりする日々を過ごしていた。そして、今後の身の振り方をそろそろ考えなければならない時期が迫っていた。
村では13歳になった者は大人の仲間入りとなり、村での仕事が割り振られる。そのため、村を出るのか、村に留まるのかを13歳になる年までに決めなければならないのだという。両親とも話してみたのだが、俺が好きなようにしてほしいとのことで、残るのか出ていくのかの判断は俺に一任されていた。
どうしたもんかなぁ。村の外を見て回りたいって気持ちもあるけど……。
「せんせい、まりょくのかたちがぐちゃぐちゃになっちゃう」
生徒の1人であるリーシェに話しかけられたため、ひとまず考えるのを中断することにした。
「ん? それじゃあ……」
リーシェの手に自分の手を支えるような形で重ねる。魔力の流れや形の維持などは、こうして実際に経験者の魔力を通して体験させるのが手っ取り早い。
「わぁ!! ありがとう、せんせい!!」
「1人でもできるように頑張るんだぞ?」
「うん!!」
リーシェの頭を撫でる。1年もあれば、魔法の適性があるのかは分かる。村で魔法が使える者は全体の1割程度であったが、どうせなら魔法が使えない者にも何か教えたいと考えて、魔法のクラスとスキルのクラスに分けていた。そんな中でも、火の魔法が得意な者もいれば、剣術系のスキルが得意な者もおり、皆の得意不得意を考えながら教えるのにもやりがいを感じている。
まだまだ、皆に教えられることはあるし、このままにしておくってのもなぁ……。
村を出たいという気持ちと村に残って知識を教えるべきなのではという気持ちの狭間で心が揺れ動いており、後数ヶ月で12歳も終わるというのに今後のことについて未だに決められないでいる。
生徒達の様子を見ながらそのようなことを考えていると、肩をチョンチョンと叩かれた。
「ねぇねぇ、先生。あの話知ってる?」
「あの話? あの話ってどの話?」
「盗賊の話だよ!! 村でもみーんなそのことについて話してるじゃん!!」
「あぁ、盗賊の話ね」
あの話とはここ最近村でも話題になっていた盗賊についてのことだったようだ。なんでも、ここ数年で急激に規模を増大させている盗賊団がいるらしく、国もその盗賊団を討伐することに苦戦しているようであった。そしてあくまで噂なのだが、その盗賊団が村の近くに来ているとのだという。
まぁ、人が話しているのを何となく聞いていただけだから、あまりよくは知らないんだけど……。
いつの時代も人は噂話が好きなようで、村の大人達だけではなく、子供達までもがその盗賊団に興味津々といった様子であった。
「その盗賊がどうかしたの?」
「何かね、大人が話していたんだけど、その盗賊達の名前が分かったんだって」
「へぇ、名前か……。どんな名前だったの?」
「えっと、確かね。ガ、ガ、ガン……、そうだ!! ガンボボ盗賊団って名前なんだって!!」
その名前を聞いたときに心の中で何かが引っかかるのを感じた。
ガンボボ……。どこかで聞いたことがあるような気が……。どこだったっけ……。
過去に出会った人達やお店の名前などを思い返してみるが、似たような名前はあってもガンボボという名前の人物や店名は特に思い当たらない。ただ、どこかで聞いたことがある名前なのか、何か引っかかる部分がある。
「おーい、フェリガン」
名前を呼ばれたため声のした方を向くと、村の男性がこちらに近づいてくるのが見えた。
「何の話をしてたんだ?」
「盗賊団の話をしていたんですよ。ほら、村の近くに来ているかもしれないって話のあった」
「あー、その話か……」
この男性も盗賊の話を知っているようで、またその話かとでも言いたげにこめかみを掻いた。
「フェリガン。今日の授業が終わったら、村長から話があるみたいなんだけど……、大丈夫か?」
「えぇ、この後は特に用事もないので大丈夫ですが……」
「そっか、なら授業が終わったら集会場に行ってくれや。伝えといたからな」
そう言って男性はその場から離れていく。授業のこととかで村長に呼ばれたことはあったが、それもここ最近は特に呼ばれるようなことは無かった。そのため、急に呼び出すなんて何かあったのだろうかと疑問を抱えつつ、授業が終えると急いで集会場に向かった。
集会場の扉を開けて中に入ると、村の重役が集まっておりどこか重々しい空気を感じる。
「おぉ、よく来たフェリガン。さぁ、座りなさい」
村長に言われるがまま空いている席に座る。
「それでは、フェリガンも来たことだし会議を始めるとするかの」
そうして始まった村の会議。どうして、俺が呼ばれたんだろうと思いつつも座って話を聞いていると、すぐに何故俺が呼ばれたのかが分かった。
その呼ばれた理由とは、自分の能力を過信して、村の外で遊ぶ子供達が多くなってしまっているという問題があったからだった。というのも、魔法やスキルを習いだしたことによって、どうしても今までとはモノの見方が変わってしまい、これまでは恐怖の対象であった魔物も、今となってはその恐怖も薄れて、自分1人でも倒せるのではといった考えに変わっているのだという。
なるほどなぁ……。大人達は魔物による恐怖を経験した回数が多いけど、子供達はそういった恐怖を体験したことすらない子がほとんどだろうしな……。
村の子供達の実力を考えると、弱い魔物であれば1人でも倒せるほどの実力はついていると思う。ただ、倒せるかどうかは関係ない、問題なのは魔物に対する恐怖が無くなってきていることなのだ。
「それでどう思う? フェリガンよ」
魔物の恐怖を体験したことが無いからこそ、そういった子供達が出てくるのだと考えた俺は、前世でも効果的であった方法を提案してみることにした。
「そうですねぇ……。自分の記憶にある経験を話すのがいいかもしれません」
「記憶を話すとな? それは、いったいどういうことだ?」
「えーとですね……。まぁ、実際に聞いていただいたほうがいいと思います。これは――――」
そうして、自分が実際に見たもしくは人から聞いた魔物の被害を受けた人や村の話をした。その内容から始めは真剣に聞いていた村の重役たちも、最後の方には顔をげっそりとしてもう聞きたくないといった様子だった。前世で外の世界を旅していた分、村の大人達が知っている話よりも
「――――という話をしようと思うのですが……」
自分達よりも明らかに強い魔物に挑もうとして手が付けられなかった弟子達も、この話を聞いた後はあまり無謀なことをしなくなり、この話を聞く前よりも明らかに大人しくなってくれた。時には恐怖というものは足枷になることもあるが、危険を回避するといった意味では人を助けるモノにもなる。
「そ、そうか……。確かにその話を聞けば、子供達も大人しくなるとは思うが……」
「ですが、いささか刺激が強すぎるのでは……?」
「いや、これぐらいのことを伝えておいた方が良いかもしれん。今の子供達は魔物の恐怖に鈍感すぎる」
「そうは言っても、この話はあまりにも凄惨すぎる。子供達にも悪影響だと思うぞ!!」
こうして、村の重役達によるこの話を子供達にするべきか、しないべきかの話し合いは平行線をたどり、とうとう日が暮れるまで決着はつかなかった。そのため、話を全てそのまま話すのではなく、少しオブラートに包んで子供達に話すといったところで決着がついた。
後日、村の子供達だけではなく大人達も集めて魔物の被害についての話をした。少しマイルドにしているとはいえ、幼い子の中には話を聞いている最中に泣き出してしまう子がいるほどであったが、効果は絶大だったようで、魔物を倒しに村の外に出ようとする子供達はめっきり減ったのだという。
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