【5】村人達に説明する
「こ、これ、お前がやったんか……?」
「えーと……、まぁ……、はい。そうですね……」
流れる沈黙。俺は何から話せばいいのか分からず、相手の出方をうかがってみるものの何も言ってこない。この状況をどう説明しようかと頭を悩ませていると、遠くの方から何人かがこちらに近づいてくるような声が聞こえてきた。
「おーい!! オークはどっか行ったんかー?」
そう言いながらこちらに近づいてくる村人達であったが、目の前にいる村人と同じように、近づくにつれて徐々に足を止める。
そんな感じでこちらの様子を見に来た村人達が集まってきてしまい、もはや隠しておくのは厳しいと考え、自分のことをすべて話すことにした。
「あはは……、全部話しますね」
簡単にだがオークは自分が倒したこと、前世に覚えていた魔法の知識が残っており、魔法を習ったことが無いのに使えることなどを村人達に話した。話している間にも村の大人も子供もぞくぞくと集まってきて、かなりの大事になってしまったようだ。説明をしている最中も村人達は信じられないといった様子の目をこちらに向けてくる。
まぁ、仕方ないけど簡単には信じられないよなぁ……。
いざ自分が体験してみると意外と受け入れられるものだが、これが他人となるとまた別の話だろう。実際、自分に前世の記憶を持って転生するまで、自分も前世というものには懐疑的だった。
「えっと、説明はこれで終わりなんですけど、何か質問とかありますかね……?」
そんな中で何とか一通り説明を終えたためそう尋ねてみると、村人達はお互いの顔を見合わせて何か小声で話している。そして、1人の村人がゆっくりと手を上げた。
「ほ、本当にお前がオーク達を倒したのか? にわかには信じられないんだが……」
この村人の言うことはもっともである。ただの村人の子供がオークを10体倒したと言っても信じられないであろう。
「はい、俺が倒しました。と言っても信じられないと思うので、実際に証拠というか、どうして倒せたのかを見せますね」
そう言って、簡単な魔法である
「これは、
「そ、それが、魔法ってやつなのか?」
「はい。魔法が使える者であれば、それほど難しくない魔法ですね」
「ほぉ……、魔法っているのは、不思議なもんじゃなぁ……。熱くないんかい?」
「あー、それはですね。自分で作り出した魔法によって傷つくことは無いんですよ。まぁ、詳しい説明は魔力の性質の話になって、少し難しい話になるんですが――――」
魔力の性質は人によって異なり、その性質によって魔法の”質”が決まってくる。例えば、
そんな説明をしていると、
「なぁなぁ!! フェリガン!!」
遠くの方から人混みをかき分けてグンデルが駆け寄ってきた。
「俺も、俺にも魔法って使えるのか!?」
「魔法? グンデルがか?」
「あぁ!! 俺も魔法を使えるようになりたいんだ!!」
「うーん、そうだなぁ……。使えるかどうかは分からないけど、試してみる価値はあると思うよ」
魔法が使えるかどうかはその人を見ただけでは判断できない。たとえ魔力を持っており、何かしら属性の適性があったとしても、それを魔法に変換できなければいけないため実際に色々試してみない事には使えるかどうかは分からない。また、魔力を魔法に変換するのは生まれ持った才能が大きく関わってくるため、いくら魔法を使いたいと望んでも一生使えない者は使えないままなのだ。
魔法が使えないと分かって泣きじゃくったから、一晩中慰めたときもあったなぁ……。
ふと弟子達との思い出を懐かしんでいると、ガッと肩を掴まれた。
「じゃあさ、俺にも魔法を教えてくれよ!!」
グンデルのその言葉を皮切りに次々と村人達から魔法を教えて欲しいと声が上がる。
「ちょ、ちょ、ちょっと!! 押さないで!!」
興奮している村人達に押し倒されそうになっていると、
「静かにせい!!」
その声と共に先程までの興奮が嘘だったかのように村人達は一瞬にして静かになる。そして、人混みの中から村長がこちらに歩いてきた。
「……フェリガンよ」
「は、はい」
こうして村長と対面で話すといった経験が生まれてから1度も無かったため、少し緊張している自分がいた。
「お主は人に魔法を教えることができるのだな?」
「え、えぇ。一応教えることはできますが……」
「ふむ……。では、わしからも頼む。週に何回か子供達だけでもよいから、村の者達に魔法を教えてやってはくれぬか?」
そう言って村長は頭を下げた。あまりもの突然の出来事に俺ももちろんのこと、村人達も驚きざわついている。その様子に驚いてしまいしばらく動けずにいたが、はっとして慌てて村長の元に駆け寄った。
「そ、村長!! 頭を上げてください!!」
村長の肩に手を置いて頭を上げるように促しながら、疑問を投げかけることにした。
「どうして、そこまでして魔法を教えて欲しいのですか?」
確かに村人であろうとも魔法を使えることに越したことは無いだろうが、ここまでして魔法を教えてもらいたい理由が気になった。
「……わしはな、村の者達全員を家族のように大切に思っておる。だからの、皆には少しでも幸せになってほしい。もし、魔法が使えるようになれば、村で生活するにせよ、村の外で生活するにせよきっと役に立つと思うんのだ」
なるほど、そういうことか。
魔法を使える者は決して多くはないため、どこに行っても重宝される。村を出て街で生活することになったとしても仕事に困ることは無いだろう。そういった点から、村長は村人達に魔法を教えて欲しいと俺に頼んでいるのだと分かった。
「そういう訳で、なんとかお願いできないだろうか……?」
そう言って俺の目を真っすぐ見つめてくる村長の顔を見ていると、昔の自分を思い出した。少しでも弟子達の役に立つのであればと自分の知識を教えたこと、喜んでくれるならと絵本やおもちゃを街まで買いに行ったこと、そのどれもが今の村長と重なる。
「……分かりました。俺が魔法を教えます」
そう言うと村人達から歓声が上がる。
「ただし!! 教えるために必要な道具や設備を村の方で用意してほしいんです。それができるのであれば、魔法を……、魔法とスキルについて教えます」
「おぉ、そうか!! フェリガンよ感謝する!! 必要な物は任せておいてくれ、こちらですべて用意しよう」
「ありがとうございます。村の予算などもあると思いますので、それについては後で話し合うことにしましょう」
「うむ。だが、その前に……」
その日の夜、オークの肉を存分に使った宴が始まった。そして、宴の最中も村の予算内で買えそうな物、どうしても必要な物や無くてもいいがあった方がいい物などについて村の重役と話し合う。ついつい熱が入ってしまい、家に帰れたのは辺りがすっかり暗くなった頃であった。
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