【4】オークとの戦闘
この村で過ごしてから早くも10年が経っていた。日々の鍛錬を疎かにすることなく、自分を鍛え続けていながらも、村の住人はおろか家族にもその力を秘密にしている。特に隠しておく理由は無かったのだが、このことを伝えるタイミングを中々見つけられずに、ズルズルと先延ばしにしてしまっていた。
そんなある日のこと。
「おーい、フェリガン!! 早くいこうぜ!!」
「すぐ行くから待ってて!!」
今日は村の子供達と遊ぶ約束をしていたため、慌てて準備を整える。服を着替えて、木剣を手に取り、大急ぎで家を出た。
「ごめん、お待たせ!!」
「まったく、遅いぞ。もう皆待ってるから早くいこうぜ!!」
走って集合場所に向かうと既に村の子供達が集まっており、呆れた顔で俺達のことを見ている。謝りながらも、子供達の中へと入っていった。
「やっとかよ……。よーし、それじゃあ……」
村のガキ大将であるグンデルが話し出そうとした次の瞬間。
「おい!! お前達今すぐ逃げろ!!」
血相を変えた村の大人達が俺達の所に息を切らしながら駆け寄ってきた。
「ど、どうしたんだよおっちゃん」
「いいから……、はぁ、はぁ……。お前らここからすぐに離れろ!! 魔物が村を襲いにきたんだ!!」
「ま、魔物が!?」
魔物。前世ではいくらでも見てきたが、生まれ変わってからというもの1度も見たことは無かった。前世であれば大抵の魔物は倒せたが、弱くなってしまった今では倒せるかどうかは怪しい。
どんな魔物だ……? 今の俺に倒せる相手なのか……?
子供達が逃げようとしている中、冷静にどうするべきかを考える。大人の様子を見るからに、村の住人は魔物への対抗手段は持っていなさそうだ。早めに対処すれば被害は抑えられるかもしれないが、下手すると自分が死んでしまうかもしれない。
パニックに陥りながら逃げ惑う大人や子供達を見ながらそんなことを考えていると、
「フェリガン何やってんだ!! 早く逃げるぞ!!」
ボーっとしていると思ったのだろうか、グンデルが俺の腕を掴んで逃げるように誘導してくる。
グンデルは俺の腕を掴みながらも他の子供達に逃げるように指示を出している。冷静さを感じる様子ではあったが、その瞳と表情から恐怖が感じられる。ただ、自分一人で逃げるのではなく、周りを気にかけているあたりこの子は優しく、自分ができることを精一杯やろうとしている賢い子なのだろう。
……やるしかないか。今、村を守れるのは俺だけだもんな。
8歳ながらも自分に出来ることを行っているグンデルの姿を見ていると、色々考えていた自分が情けなく感じる。グンデルの手をそっと外すと、村人達が逃げている方向とは逆の方向に向けて走り出した。
「お、おい!! フェリガン!! そっちは逆だぞ!!」
「俺は大丈夫だから、グンデルは皆を非難させて!!」
「はぁ!? って、フェリガン!! フェリガァァァァン!!」
グンデルの制止を無視して、魔物達がいるであろう場所を目指す。
「急げ急げ!!」
「おい!! 早くしろ!!」
皆自分のことに必死なのだろう、逃げる方向とは逆に移動している子供がいるにも関わらず気が付いていないようだ。ただ、変に呼び止められたり、制止するように体を掴まれたりしないため、この状況はかえって好都合だった。
村人達とすれ違わなくなってからしばらく走っていると、少し離れたところに人よりも大きな影が見えた。
「いた。えーと、1、2、3……」
村を襲っていていた魔物は10体のオークだった。
オークか……、まぁ、何とかなるか。
今の自分の実力を測るにはちょうどいい相手かもかもしれない。それに、久しぶりの戦闘で胸が高まっている自分がいた。
「ふぅ……、落ち着け、落ち着け。まずは、冷静に……」
木剣に
「よし、それじゃあ、行きますか!!」
自分に
「グ? グモモグモォォ!!」
こちらに気が付いたオーク達は村の建物を壊すのを止めて、狙いを俺に定めたようで戦闘態勢を取った。
「まずは……」
1体に狙いを定める。木を削っただけのお粗末な棍棒を振り下ろしてくる。オークの巨体から繰り出されるその攻撃は直撃すれば無事では済まないだろうが、緩慢な動きから繰り出される攻撃を躱すのは難しくない。恐れることなく、オークの動きをよく観察すればいいのだ。
攻撃を横に避けて躱しつつ、思いっきり真上に飛んでオークの脳天目掛けて木剣を振り下ろした。
「1体!!」
バキッという音と共にオークの頭がへこんだかと思うと、その場でフラフラと横に揺れながら、そのまま倒れた。木剣自体に切れ味はほとんどない。ただ、
「次は……」
視界の端に映った棍棒を寸でのところで避けた。オークが棍棒を振り下ろした地面には人間の頭ほどの穴ができている。まともに食らえば、人間の体ではひとたまりもないだろう。
「危ない危ない……。前とは違うんだ、集中しなくちゃ」
左手で頬をペチペチと叩いて気持ちを切り替える。
身体の動きの確認は大体できた。次は魔法だな。
オークの攻撃を躱しつつ、魔力を込めて魔法を放つ準備をする。戦闘で魔法を使うのは、前世で幾度となくやってきたことではあったが、この体になってからは初めてのことであった。そのため、少しのミスも無いように集中する。
「
魔法でできたいくつもの刃がオークを襲う。上半身と下半身が真っ二つになるというほどの威力はないものの、オーク程度の皮膚の硬さであれば傷を負わせることは出来る。なにより、魔力の消費量が少ないのが
傷を負って動きが鈍くなったオークを木剣や魔法を使って倒す。
「よしよし、魔法も問題なさそうだな……。それじゃあ、後は倒すだけだ」
武器を使った攻撃、魔法を使った攻撃、敵の攻撃を躱す時の動き、今の自分にどれほどのことができるのかをある程度は確認することができた。そのため、後は目の前のオーク8体を倒すだけだった。
魔力が尽きない様に、スタミナが切れない様に、そして何より傷を負わない様にオーク8体を倒し終える。
「お、終わったぁ……。疲れたぁ……」
久しぶりの戦闘ということもあって、精神的にも肉体的にも疲労を感じる。地面に転がっているオークの死体に腰をかけてホッと一息ついた。緊張と興奮で高まっている心臓を落ち着けようと何度か深呼吸をする。
「ふー……。あー、衰えたというか、何というか……。前と同じように戦えないのは中々慣れないなぁ……」
弱くなった自分に悲しみを覚える。ただ、収穫もあった。
「まぁでも、まだまだ強くなれるな、俺……」
10歳でこれほど動けるのであれば、もっと強くなれるという喜びが合わさった何とも言えない感情が混在している。ギュッと握った拳を見つめていると、遠くの方から声が聞こえた。
「おーい!! 大丈夫……か……」
手を振りながらこちらに駆け寄ってきた男性は徐々に近づいてくる速度を遅めて、俺から少し離れたところで足を止めた。
あの人どうしたんだ? あんなに大口を開けて……。
その村人の様子を不思議に思いつつも、無事を伝えるために返事をすることにした。
「はい!! 大丈夫です……よ……」
ついつい前の感覚で普通に返事をしてしまったが、自分が置かれている現状に村人が驚いているのだと気が付いた。
あー、どうやって説明しよう……。
周りで倒れているオークの死体を眺めつつ、頭をフル回転で働かせるのであった。
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