村での生活
【3】8歳の誕生日
「フェリガン、誕生日おめでとう!!」
母のオリエ、父のロンデルと共に祝う誕生日。
「ありがとう。お母さん、お父さん」
最初の頃は記憶があることでどうなることかと思ったが、案外記憶があって助かることはあっても困ることは特に無かった。以前、記憶が残っていることで、現状とのギャップに苦しむ者がいたと聞いたことがあったため不安だったが、自分は特にそういうのが気にならなかったようだ。
まぁ、俺の性格からしたら全然問題ないか。
昔から能天気というか、前向きというか、そんなことを言われ続けていた。そのため、こんな状況でも楽しめているのだろう。
「いやー、フェリガンももう8歳か。大きくなったなぁ」
「あなたそれ毎年言ってるわよ」
「そりゃあ、子供が大きくなるのはあっという間だからな。つい最近まではこーんなに小さかったのに、今はこんーなに大きくなって」
近所の子供達と遊んだり、母や父の手伝いをしたりして過ごす子供の日常にも慣れて、思いのほか楽しく過ごせていた。新しい環境というのは、案外すぐになれるものだ。
「それに、フェリガンは魔法や剣に興味があるし、将来は騎士様か魔術師様になるかもしれないな」
「もう、フェリガンはまだ子供よ? あんまりプレッシャーになるようなことは言わないでよね」
「プレッシャーをかけるつもりなんて全くないさ。ただ俺は、フェリガンに好きなように生きて欲しいんだよ」
そう言って父は頭を撫でてくる。父の撫で方はどこか荒っぽいというか、大人の男性なだけあって力強い。ただ、それが決して嫌なわけではなかった。
まさか頭を撫でられる側に回るなんてな……、前世ではよく撫でていたけど、弟子達もこんな気持ちだったのかもなぁ。
そんなことを思っていると、
「お、そうだそうだ。これを忘れるところだった」
思い出したかのように父は椅子から立ち上がり、棚の裏をゴソゴソ漁ったかと思ったら、何かを取り出して机の上に置いた。
「さぁ、プレゼントだ。フェリガン開けてみな」
「うん!!」
紙でできた
「わぁ!! ありがとう、お父さん!!」
「前から欲しいって言ってたからな。まぁ、流石に鉄剣は危ないから木剣だけど、喜んでもらえたようで良かった」
剣の修行をそろそろ開始したいと思っていたため、前から剣が欲しいと言っていたのだが、危ないという理由でお母さんに反対されていた。ただ、何度もお願いしていた甲斐もあって、ついにお母さんが折れてくれたようだ。
これでようやく剣の修行ができる!! 魔力量もだいぶ増えてきたし、このまま訓練を続けていればきっと前よりも強くなれるぞ!!
赤ん坊の頃から訓練をしていたとはいえ、魔力量としては決して多いとは言えなかった。この量は、前世の同じ年齢の俺と比べるとかなり少ない。……ただ、俺には前世の知識と時間がある。本格的な訓練を始めた前世の年齢を考えると、十分に前世を上回ることは可能だ。
「これで、もっと強くなるから期待しててね!!」
「お、そりゃあ楽しみだな!!」
「もう……。フェリガン、あんまり無理はしないこと、いいわね?」
「それはもちろん分かってるよ」
前世の記憶があった故に最初の頃は2人に対して少し遠慮の気持ちもあったが、今となっては2人はかけがえのない俺の家族だった。父も母もいなかった前世を考えると、かなり恵まれているこの環境に感謝しつつ、幸せな気持ちで誕生日を終えた。
翌日、さっそく木剣を持って訓練をすることにした。子供の体というのは不思議なもので、スポンジのように色々なことをどんどん身に着けていく。そのため、少しでも早く訓練をしておきたかった。
「……ふん!! ……ふん!!」
一見、ただ木剣を振っているだけのように見える訓練であるが、その実態は少し違う。剣に
あー……、しんどい。しんどいけど……、このしんどさが、強さに繋がる!!
どの位の時間剣を振ったであろうか、滝のような汗が全身を濡らして、剣を持つ腕もプルプルと震えて持っているのがやっとだった。ただ、限界だと思っても、もう1回、後1回剣を振れば強くなる。そう思うと、何度でも剣を振ることができた。久しく感じていなかったこの感覚に懐かしさを覚える。
限界を感じてから数振り後、握っていた木剣が手からポロっと落ちる。
「も、もう無理だ……」
全身に力が入らず立っているのも辛いため、ドサッとその場で寝っ転がる。肩で息をしながら、ボーっと空を眺めていると、濡れた頬に風が当たって気持ちが良い。このまま眠ってしまえば気持ちよく眠れそうだ。
「ふぅ……、疲れた……」
いつの時代も変わらない流れる雲を眺めていると、昔のことを思い出す。前世でも、こんな風に外で寝っ転がって空を眺めることがあった。
「……今頃、皆何やってるんだろうなぁ」
色々調べてみて分かったのだが、どうやら過去の俺が死んでから1年もしないうちに今の俺が生まれたようであった。つまり、弟子達が生きているのであれば、俺と同じように8年分の成長をしていることになる。
「8年かぁ……。どんな成長をしているんだろうなぁ……」
最後に見た弟子達の顔を思い浮かべる。幼い子供ばかりであった弟子達がどんな成長をしているのか、どんな人生を歩んでいるのか気にならない訳ではない。ただ、会いに行くのは少し違う気がしていた。師匠であるクレザスはもう死んでおり、今はフェリガンとして生きている。
今の俺が会いに行っても、余計なお世話だよなぁ。皆それぞれの道を歩んでいるだろうし……。
前世の自分が弟子達に送った最後の言葉、自分の道を進め。俺自身も自分の道を進んでいる最中である。弟子達のことは気になるが、そっとしておくのが良いだろうと考える。
……皆も元気でやっていることだろう。まぁ、もし外の世界を旅することになったら、遠くから成長を確認すればいいか。
弟子達のことを考えているうちに体力も回復したため、立ち上がって剣の練習を再開することにした。
遊びと鍛錬の日々を過ごしていたのだが、そんな日常を一変させる出来事が起きた。
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