【2】現状の確認
ふーむ。これが、転生ってやつなのか……。
転生については話に聞いたことがあった。ただ、実際に転生をした者の話を聞いたわけではなく、人伝いに聞いた本当か嘘か分からないようなモノばかりで、その内容もこれほどハッキリと記憶が残っているモノは聞いたことが無い。
聞いた話としては、おぼろげな記憶しか残っておらず、ハッキリと残っている記憶も断片的なモノという話であった。ただ、今の自分の状況は死ぬ間際の記憶はおろか、弟子達の顔、日々の日常、街の風景などもハッキリと覚えている。
不思議なことがあるもんだなぁ。
転生した当初はどうなることかと思ったが、人間案外すぐに環境に適応できるようで数日もすれば現状を受け入れていた。
「フェリガン、たくさん飲むのよ」
優しそうな顔とブラウンの髪を持つこの女性は自分の母親だ。前世の記憶が残っているとはいえ、何か親子の繋がりのようなものを感じる。
しかし、その、何というか……、今更授乳されるというのは何処か恥ずかしいやら、嬉しいやら……。
乳を飲みながらそんなことを考えていると、頬っぺたをツンツンと突かれる。
「そうだぞ。たくさん飲んで、大きくなるんだ」
この男性は父だ。この世界では珍しい銀髪が目を引き、活発そうな雰囲気だ。
どうしたもんかなぁ、どうにかして今の状況を確認してみたいけど……。
前世の記憶が残っているとはいえ、自分は赤ん坊になっている。今が何年なのか、自分が死んでからどの位の年月が経ったのか確認してみたいが、今の自分にやれることは少ない。お腹が空いたら泣いて、排泄物を掃除してほしかったら泣いて、眠たくなったら寝る、それぐらいしか今の自分には出来ない。
……まぁ、いいか。新しい人生が始まったことだし、この人生を楽しんでみるか。
記憶が残っている状態での新たな人生。楽しまなくては損だなと考えつつ乳を飲み終わると、急激な眠気に襲われて気絶するかのように眠りについた。
赤ん坊になって数週間、最初の頃はこの状況を楽しんでいたが、やはり赤ん坊の体というのはやれることがほとんど無くて暇で暇で仕方なかった。そのため、せっかくの新しい人生では、前世よりも強くなることを目標にすることにした。
といっても、やれることは限られているんだけど。
赤ん坊の体では剣を振るうことも魔法を放つことも満足にできない。それに、この体に宿る魔力量は微々たるもので、このまま成長しても大した魔法を放つことはできないだろう。そのため、まずは魔力量の底上げに勤しむことにする。
いやー、魔力循環をするのなんて久しぶりだなぁ。まさか俺がこんな初歩中の初歩の訓練を改めてすることになるなんてな。
魔力を放出して自身の保有する魔力を空にする。そして、その状態からさらに魔力を放出することで、魔力量の底上げを図るこの訓練は見た目以上に辛いものがある。というのも、魔力が無い状態から魔力を放出しようとする行為は、空気を吐き切った状態からさらに空気を吐こうとするようなものだ。
それに、このような魔力量を底上げする訓練は小さい時に行えば行うほど効果が高くなる。そのため、意識と前世の記憶がハッキリとしている今の状況は好都合だった。
まぁ、俺にしてみればなんてことはない訓れ……ん?
前世に何度も行ってきた訓練だが、何か違和感を感じる。どういう訳か、いつも行っているときよりも体がだるくて苦しい。このまま続けると命の危険を感じたためひとまず中断する。
どうして……。
以前であれば、問題なく行えた訓練。やり方も間違えていないため、どうしてこのような状態になるのかを考えたところで、あることに気が付いた。
あ、そういうことか。俺ってば今赤ちゃんになってるんだった。
赤ん坊の体は弱くて脆い。たとえ初歩の訓練だとしても、赤ん坊になった今の俺では訓練に長時間耐えられない。前世と同じように訓練をすれば、死ぬことは間違いないだろう。
ていうことは……。はぁ、ちょっとずつやるしかないのか……。
ちょっとずつといえども、数をこなせば少しは魔力量が上がる。訓練を続けていれば、数年後には魔法が使えるほどの魔力量になっているだろう。
まぁ、頑張りますか。
時間だけはある日々を過ごして、気が付けば俺は8歳になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます