第6話:もっと観察しよう

 前回のあらすじ。


 金曜日に出会った自称巫女の"御前みぜん 小恋ここ"。

 彼女はもしかしたらクラスで浮いているかもしれない。

 そこで俺は彼女の周辺の人間関係について調べてみようと動き出す。


「私がどうしたって? 神前君。まーたブツブツ考えて」


 こいつはあらすじにも横やりを挟むのか。

 ていうか人の心をまた読むなよ!


「金曜ぶりだね。で、なんか用?」


 "御前みぜん 小恋ここ"は何事もなかったかのように俺に話しかけてきた。

 ってアレ? 俺、こいつのこと呼んだか?


「俺、お前のこと呼んだっけ?」

「いや、さっきの授業中ずーーーーっと 私のことばっかり見てたから、何か

私に言いたいことがあるのかなぁと」


 うわーー!! こいつにバレてたーー!!

 どうせ鈍感だからと調子に乗って授業中じろじろと見ていた。

 正真正銘、嘘偽りのない事実であり反論の隙も無い。


「厨二病」から次は「覗き魔」の二つ名をいただくことになるとか嘘だろ?


「え、まさか私のことを狙……!」

「それはない」


 即答してやった。

 この話にラブは要らないのだ。


「聞きたいことはないよ。ただ金曜のことで一つ言いたいことがあっただけだよ」

「言いたいこと?…………やっぱり狙……!」

「それはない」


 俺よりも妄想してないか、こいつ?


「巫女って言ってたけど、巫女としてどんな活動をしてるんだ。

 例えば、友達に憑依霊がついてるかついてないかの診断とか。

 それか、前みたいな除霊とかさ」

「いややっぱ聞いてんじゃん!

 うーん、実は一回もないんだよね」


 俺は驚かない。そうだろうと知っていたから。


「ここ最近、霊が出てこないんだよね……

 だから私が出る幕がないというか……

 実力は多少なりともあると思うんだけど……

 実績がないから誰からも私がこうやって巫女をやっているって信じないの」


 なるほど、霊が見えないのを「いない」と解釈しているのか。

 それも仕方がないだろう。

 身内が死んだといわれても初めは嘘だと思う。

 だが、身内の死体を見れば真実だと確信するものだ。

 見えないのであれば信じようともしないし、信じなければ存在すらさせない。

 そういう都合のいい解釈を人間はするものだ。

 当然の条理ともいえよう。


「だから、霊がいるって話を聞いたから私が出てきて、ババーンと除霊したいの。

 そしたら私のことを巫女だってみんなに理解してもらえるかなーと」

「霊はいないよ、実は」


 ここで俺が切り出す。


「ちょっと噂で聞いたんだけだから、事実かはわからないけどな。

 この数日で話題になっているお化け騒動は先輩方が冗談半分で作ったものらしいんだよね。

 だから霊がいたって話なんてもとからなかったんだ」

「え、なんで?」


 嘘である。少なくとも霊はいる。

 金曜のあの亡霊は対象外だとしても俺はこの学校内でかなりの量の話題にならずとも大小さまざまな霊を見てきている。

 その中のひとつが存在感が強く偶然にも見つかった。

 と言っておけばうそまことかの判断もできまい。


 俺がこの嘘をついたわけは当然この自称巫女の身を案じたものではない。

 俺の今後の活動の障害を除いただけだ。

 ただでさえ前回、こいつに儀式を邪魔されているんだ。

 また勝手に動かれ、邪魔をされたらたまったものじゃない。


 といってもまた学校で儀式をしたい、というわけではない。

 俺がやりたいのはあの体育館で見た亡霊の調査だ。

 その調査には多分、俺の力を目いっぱい使うことになるだろう。

 そのたびにこいつに「悪魔かぁーっ!!」と叫ばれても面倒だ。


「うん、わかった。お化けがいないのなら私の出る幕はなさそうだね。

 教えてくれてありがとね。」

「?……あぁ、それはどうも…………」


 自称巫女は教室から出て行った。

 なんだあの反応は……なにか変だ。

 その意味はすぐに分かることになる。


「何話してたの? あんた」


 急に知らない女子に話しかけられ戸惑った。

 こいつは確か同じクラスの…………


 誰だっけ? まぁいいや。


「いや、別に変わったことは…………」

「霊がどうこうって話でしょ?」


 聞いていたのか。


「聞いていたのか?」

「いえ、どうせそうだろうなーと思ってね」

「?」


「あいつ、いっつも『霊がいた』とか『霊を倒す』とか変なことばっか話すのよ。

 だから忠告しておこうかなと思ってね。


 「御前みぜんはホラ吹き」だってね。


 私がちょっかいかけてたおかげでおとなしくなってたんだけどね。

 最近になって、まーた騒ぎ出したのね。

 ごめんなさいね。また私がいろいろしておくからさ。

 またなんか言われても無視してて。

 と言っても霊とかフツーは信じないよね」


「………………………おう、分かった」


 これで自称巫女へのジャッジが決まった。


 自称巫女は「どこまでも救えないヤツ」で「ただの嘘つきのダメ女」だ。


 だからこそ俺はあいつと話す必要がある。


 話さなければならないことがある。


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