第5話:観察しよう
特に何事もなく短い二日の休みが終わった。
現在、月曜日の4時間目。教科は国語だ。
身もふたもないことを言うと、軽く30年も生きていればこの程度の問題であるならば授業に出ずとも経験と要領だけで答えられる。
伊達に無駄に20年近く過ごしてきたわけではない。
個人的に図書館などに出向いていて、色々と本や新聞みたいな情報のタネを読み込む日々が続いていた。
だがこれも文明の利器を得る前の話。
スマホなんて便利なものを出されたら出歩くことすらなくなった。
寝る前にくだらないショート動画を漁る。
あの感覚で俺は図書館で本を読んでいたと言えばわかりやすいだろうか。
「暇の境地」ともいえるだろう。
しかし実に便利な世の中になったものだ。
20年前では考えられない。
なぜ、俺は悪魔となってからこうも勤勉になったのか。
というと、俺が真面目くんだったという一言に尽きる。
悪魔と契約し、半分悪魔となった俺が第一に思ったもの。
それは喜怒哀楽ではない根源的な「不安」だった。
悪魔とは何者なのか、一体これから自分はどうなってしまうのか。
なんて、解のない問いを考える度「不安」が募った。
もっと極端に言うと怖かったのだ。
「ビビリな悪魔」なんているかよ!?
と俺自身も思うが、その部分でもまだまだ俺はどこまでもお子様で「半人半魔」のどっちつかずの存在だった。
そこで、何か悪魔についてわかることはないのかと文献を探したのが最初だ。
それから何かわからないことがあればわからないままにせず調べるという習慣が身についたのだった。
全国のお母さん必見の理想の勉強法を俺は学校をやめてからはじめたのだ。
話が変わるが、前の金曜日にいた薄気味悪い長髪ロングの女について。
あの女には不明な点がある。
無論、不気味な彼女は亡霊の類で間違いない。
多分、自称巫女の言っていたお化け騒動の原因なのだとあの時は納得していたがよくよく考えるとおかしなことがある。
彼女は異常に存在が希薄すぎる。
実は見える霊側にも俺の霊感メーター(わかりやすいのでこう呼んでる)のようなものがある。
この場合、測るのは霊の存在感であり、仮に霊感が少ない人でもその霊の存在感が大きければ見えたりする。
逆に霊感がどんなに強くても存在感がない霊は見ることはできない。
まぁ、俺はそんなん関係なく全部見えるけどね。
だって悪魔ですから。
数値化する能力はないが、なんとなく長年の勘で分かってしまうといった感じだ。
それに対応させると金曜のあの霊は霊感50ほど持っている人でも見ることは
できないだろう。
つまり、この学校内で彼女を”認識できる”奴はほとんどいないのだ。
仮にいたとしてもほんの一握り程度しかいないだろう。
そんな少人数でこれほど噂と問題になりえるとは考えにくい。
これは俺がいつか調べる必要がある。
俺は「勤勉」だからな。
一旦思考を授業に向ける。
今回の授業の内容は教科書を見た感じ、前に読んだことのある文献だった。
数年前に図書館で読んだ有名図書だ。
ならば、より授業に集中する必要はない。
では、俺は通常運行といこうか。
そう、もちろん人間観察である。
といってもどうしても焦点がただ一人に絞られてしまう。
そりゃそうだろう。
あの夜の金曜日のことがあってスルーできるほど俺は切り替えが早くはない。
"
この話のヒロイン……候補だ、まだね。
授業中はずっと黒板を見てノートにガリガリと殴り書きをしている。
そんな感じの荒い勉強法と字の書き方をしている。
机の様子はうまく見えない。
ずっと首が上を向いたままノートを書いてるのだから多分、汚くて後で読み返せないという学生アルアルを披露する羽目になるだろう。
ずいぶんと変わった勉強の仕方をするのだなと最初は思っていた。
そう、最初は。
何気なく、この自称巫女の机に目を移す。
どうりで教科書を見ないで黒板ばかりをなめるように見ているわけだ。
教科書がない。
あるのはクシャクシャのノートと一本のシャープペンと消しゴムだけだ。
まさか…………
と思ったが、これ以上は詮索ではなく妄想になってしまう。
そう自分を諭し、考えるのをやめた。
教科書を忘れた、本当に効果的な勉強法など、
だが、それのどれもに該当しないのならば……
今までずっと、体に映る霊感にだけ興味があった。
そのせいでその周辺の様子など全くと言っていいほど気にしていなかった。
俺は視野がせまかったのだと痛感する。
そして授業が終わり休み時間となった。
多分、この時間で俺の"
場合によっては……
観察は休み時間に続く。
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