第4話:お互いを知ろう

 御前みぜんの一族。


 先にこの組織について軽く話しておかなければなるまい。

 詳しくはもう彼女、御前みぜん 小恋ここがしゃべっていた。

 除霊に関してはもっとも定評のある、この町の巫女、僧侶の一族である。


 おーっと、ここで有識で博識な読者は「ん? 確か巫女って処z……」なんて思うだろうが、そこは時代の変化だということで目をつむっていてほしい。実際に古い慣習らしいし時効が効くだろ。


神前こうさき…………と言ったわよね。さっきから目を瞑ってとか、一体何をブツブツ考えてるの?」


 物語を進めるのにけっこう重要なキャラクターの解説なんだから、あんまり横槍を挟まないでいただきたい。

 キャラクターとか解説とかいろいろとメタ発言だったが気にしない。


 というかこいつ今、心読み取ったよ!?

 何気に怖ぇえよ!!


「あぁ、目を瞑ってって、第一話の設定とかが甘くて、後で作者が泣きながら編集していることでしょ」


 お前もメタ発言をするなよ。

 いやー本当にこれは申し訳ないと思ってるよ。

 初めてこうゆう携帯小説なんてものを書くからイマイチ、設定を決めるなんて感覚がつかめなかったんですよ、ええ。


「あ、それとも、第一話の最後の行で『悪魔のような青春』と言うところをミスで『悪魔のような悪魔の青春』とダブルで『悪魔』がはいっちゃっ……」


「もういいわ!!」


 もうやめて!とっくにライフはゼロよ!


 作者のな!!


 閑話休題


 さっきもチラリと御前みぜんが俺の名を言っていたが、もうあらかたお互いの自己紹介はとっくに終わらせておいた。もちろん、俺は『半人半魔』の化け物だとは言わず。

 あくまで悪魔諸々に興味思考がある一般男子高校生だと紹介してある。

 それはそれで問題がありそうだが仕方がない。

 なんと言ったって、俺よりも相手のほうが問題があるのだから。

 それもいろいろと。


 さてと、その問題児"御前みぜん 小恋ここ"。

 自分の頭ひとつ分ぐらい小さい背丈で小動物のようにも見えなくはない。

 しかし彼女は除霊のスペシャリストの下で育ったエリート。

 自身もその一人だと自負している。


 だが、霊感は皆無、0である。

 ……大事なことだからもう一度言う。

 霊感はっっっさいない。


 当の本人はずいぶんと高らかに除霊ができると大声で言っていた(それも効果音付きで)が、霊が見えないのであれば除霊どころか霊に襲われることもないのだ。

 彼女の親族たち、つまりは巫女、僧侶のベテランたちは彼女がただの修行不足だということでこの霊感不足を納得した……らしい。


 正直、巫女なんて言われた時には冗談かとずっと思っていた。

 しかし、どうやら話してくれた御前の一族の細かい話からして、そこのところは本当らしい。

 …………で、その一族の末裔が彼女、"御前みぜん 小恋ここ"なのだ。


 そして俺は知ってしまった。

 俺だから知ってしまったのだ。

 残念ながら、この一族はこの代で除霊師の血の終わりを迎えることを。

 親から霊感を1でも継がなかったこの代でどう足掻いても廃業してしまうことを。


 ちなみに、俺は一介ではあるがれっきとした悪魔なのだ。

 巫女や僧侶なんて除霊の専門家のような人々とは関係を持つ気は毛頭ない。

 無駄に藪をつつく真似はするだけ意味がない。

 しかし関わったところで別に俺が殺されるというわけではないのも事実。

 理由は明確。格が違うとでも言おうか。

 少年時代に契約した悪魔は巷にいる生半可な低俗な連中とは違ったのだ。

 本当にを引き当てたともいえる。

 あえてキザな言い方をするなら「一介の人や悪魔無勢に俺は殺せない」のだ。

 それくらい俺の立場は悪魔の中でも上位種なのである。

 それに見たところ、この『自称巫女』を警戒する必要もない。


 理由は……言わなくてもいいだろう。


 ゼロだもの、ゼロゼロ。


「で、こんな夜中にお前は学校で何をしようとしていたんだ」


 いきなり体育館に突入してきた自称巫女に話を聞いてみる。

 ちなみに俺は見つかった通り、厨二病を開放していた。


「いやぁー、最近この学校でどうもお化けがでたー、とかそんな話をよく聞くの。なら、巫女の私が黙って動かないわけにはいかないじゃない? ほら! この巫女であるわたしが!!」

「二回も言わんくていい」

「だから、夜の学校に忍び込んでそのおばけの全貌を暴こうかなって。あ! も、もちろん! 見つけたからにはきちんと祓うつもりだよ!」


「安心しろ。お前には絶っ対にお化けは見えないから」


 ……とは言えなかった。


 これは別に俺に残った微かな良心がそうさせたわけでは決してない。

 単に「こっちのほうが面白そう」だからである。

 この自称巫女の無謀な孤軍奮闘を遠目で眺めておこうと思っただけである。


「で、成果はあったのか?」


 わざとらしく小馬鹿にしたように聞いてみた。

 さすがに失礼か。


「それが一切合切。霊が見たかったけれども、残念」


 あ、そうだ霊感以前にこいつはもともとが鈍感なのだった。

 ドを超えて「ドドド鈍感」である。

 それと、重要なことを言っていた。


 「霊が見たかった」と。


 つまりは自分に霊感がないことは、多少なりとも気にはしているらしい。


「俺は、どっちかというと霊感はあるほうだからこうやって降霊術を……」

「え! 霊感あるんですか!?」


 急にグイグイ来るなコイツ。

 いきなり敬語だし。


「ま、まぁね……」

「えー! いいなーほんt……あ、ゥゴッホン!

 へ、へぇーwwwべ、別に巫女であるぅー??www私にはもちろん! もともとあるけどねぇー!」


 詭弁きべんを垂らすな、キベンを。

 お前の霊感は俺の知る限りぶっちぎりの最低スコアだろうが。


 俺は霊感どころか俺自身が『悪霊のたぐい』だから霊感があるのは当たり前。

 だが、そんな理由を説明できるわけはないから黙っておく。


 話を切り上げ、先に床の魔法陣の残骸ざんがいであるチョークの片づけを始めた。

 本当は儀式が正しく終わればきれいに何事もなかったように陣が消える。

 実に便利な仕様だったのだが、この自称巫女の要らない邪魔によって、このように今は腰をかがめてチョークの粉を集めている。


 自称巫女はそれを見て手伝ってくれた。

 ありがたいことに。

 元凶はおめぇだけどな。


「俺ら、無断で学校にいるんだから見つからんうちにそろそろ帰らないとな。特に学校でやることなんてないだろ。お前も帰れよ」


 床の掃除も関係して、すべての片づけを終わらせた。時刻はすでに22:00をまわっている。


「あ、お前って言わないで! 私にもちゃんと名前があるんだからさ!」


 んな、子供じゃあるまいし一々いちいち怒るなよ。

 そんなしみったれたことで怒鳴っていたらしわが増えるぞ。


 とりあえず、今日は妙に疲れた。

 早く家路につきたいため、俺は適当に返答を濁す。


「呼び方は……いいだろ別に。まぁそう言うなら考えとく」

「じゃーね。また来週ー」


 そういって小走りで御前みぜんは体育館から出て行った。

 小動物らしくちょこまかとしている。


 今日は金曜日。

 明日から二日の休みを挟んで、またいつもの日常が始まる。

 そしてあの自称巫女とはもう話すことはないだろう。

 だが、この日のこの一件は肝に銘じておこう。


 学校での儀式は危ないということ。

 俺はごまかすのが下手なこと。

 "御前みぜん 小恋ここ"、あいつの名前を。


 そして、俺たちの会話を体育館の隅でずっとうつろに見ていた薄気味悪い長髪の女がいたことを。


 ……女についてはあの巫女には言わないでおこう。

 またうるさく詰められるだろうからな。

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