第3話 栗

 栗の美味しい季節です。


 数年前に何度か長野県の小布施を訪れたことがありました。

 葛飾北斎ゆかりの地であり、栗の産地でもあります。


 一番初めは一人旅でした。

 長野駅から長野電鉄に乗り、車窓から見えるたわわに実ったりんご畑に感動し、千曲川を渡り、小布施駅に着きました。


 当時はまだGo○gle マップを使いこなせず、町の観光案内でもらった地図を片手に周遊バスで岩松院に向かいました。

 北斎の鳳凰図を見るためです。

 

 色鮮やかな鳳凰図にしばし見入ってしまい、喉を伸ばしていたせいか、咳き込んでしまったので止むなく退室しました。


 その後、周遊バスに乗って町中へ戻り、町から少し離れた蕎麦屋で昼食。

 十割そばでしたが、つるつるで歯ごたえも柔らかく、更科も田舎蕎麦も香りが強くて、蕎麦は二八くらいが丁度いいと思っていた固定概念を打ち砕かれました。


 腹も膨れたので、運動がてら歩いて町中へ戻りました。

 有名な小布施堂や桜井甘精堂の近くには観光バスが停まり、観光客でごった返していました。


 町中は至る所で栗を使ったお菓子があり、甘い匂いが風に乗って鼻をくすぐり、ちょっと前まで満腹だったのに、小腹が空くような気になってしまったのでした。

 不思議なものです(※ただ食い意地が張っているだけです)。


 事前にリサーチした店で買うものは購入したのですが、ついよそ見をして、美味しそうな栗のジャムを買ってしまいました。


 栗の木を敷き詰めた栗の小道や北斎館、酒蔵などを見て回っていたら、秋の日は釣瓶落としとばかりに傾いて、吹く風もひんやり体温を奪ってゆきました。

 晴れた昼の暖かさは汗をかくくらいだったのに、日がちょっと傾いただけで寒さが袖や襟から入り込み、ふるりと震えました。

 雪国の秋をなめていました。


 再び長野電鉄に乗って長野駅まで戻り、パンを買って夕食はホテルで食べることにしました。


 フランスパンに栗のジャムをつけただけのものでしたが、疲れた体と頭に染み渡りました。

 少し硬めのペーストには栗が練り込まれていて、細かく砕いた栗も入っていました。ちょうどいい甘さで食感の変化もあり、トーストしてバターをつけ足したらもっと美味しいだろうなと思いつつ、半分くらい瓶を空けてしまいました。


 デザートの栗のプリンも風味が豊かで、もっと買ってくればよかったと後悔しました。


 栗かのこ、栗蒸し羊羹、栗どら焼き、マロンパイ、落雁、栗の渋皮煮、自宅用とお土産用とたくさん買いました。


 なぜそんなに買うのかって?


 栗の調理は手間がかかるから、自分では率先して作ろうとは思わないからです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る