李凛と灯花
「凛、機嫌良さそうだねー」と見た目からして、いかにもおっとりとしていそうな少女は、鼻歌を歌う李凛の顔を覗き込む。
「あ、ばれた?」
「うん、流石だと思うよ。そこまで分かりやすいと。それで? 何かあった?」
李凛はくわえていた残りのアイスを全部口に入れると、ガードレールの上にぴょんっと飛び乗った。
「見つけたんだ。私は絶対にあいつを『鉄血の乙女』に勧誘するぞ」
「へえ、珍しい。凛が気にいる人なんているんだね。意外だし、驚きだし、まるで真っ赤な嘘のように聞こえるよ」
「ふふふふ。これでまた一歩近づいた」
「そんな稀有な人どこで見つけたの?」
「依頼先。最初はなんとも思わなかったけどさ、あの度胸がいい。気に入った」
「ふーん。色々あったみたいだねー」
「お前、話聞くのめんどくさくなってんだろ」
「あ、ばれた?」
「明らかに興味なさそうじゃんか。聞いて来たくせに。流石だね、そこまで分かりやすいと」
飽き性だし、基本何にも興味を示さない。話のペース、歩く速度、何から何までゆっくりしている。魔法少女になったのも、李凛に半ば強引に誘われたからだ。
現に今も、自分から質問をしたくせに、早速興味を無くしている。きっと既に別の事を考えてかもしれないし、もしかしたら何も考えてないかもしれない。李凛の話だって聞いているのか、聞いていないのか微妙なところである。
そんな李凛と灯花は物心つく前からの付き合いだ。なので二人は姉妹みたいなものだし、実際、その血も繋がっている。
李凛は大昔に大陸から渡って来た有名な魔法少女の宗家の娘で、灯花はその分家の娘だった。
二人は魔法少女だが、莉々達のように養成施設には通っていないし、ましてやどこかに所属していたわけでもない。御家柄、気づいた時には魔獣と戦ってたし、それを強要されていた。
李凛は大陸から渡って来た有名な魔法少女の宗家の娘だった。そして灯花はその分家の娘。
二人は幼い頃から互いに切磋琢磨し、たくましく成長を遂げた。ゆくゆくは立派な後継になるはずだった。
なのだが、やはり起こってしまうのがお家騒動。両家の仲はお世辞にも上手くはいっておらず、長い冷戦が続いていたが、李凛達の親の世代は特にその仲が険悪だった。そして遂には激しく、醜い争いの上、両家は共倒れとなってしまう。
血で血を洗う抗争、衰退していく両家、失われていく地位と名声。
幼い二人の心に深い傷を残すには十分すぎるほどの出来事だった。
「兎にも角にも、灯花が興味があろうと無かろうと、私はあいつを勧誘する!」
「うんうん。それがいいよ」
灯花はニコニコと笑って、即座に同意する。まるで李凛の言う事を条件反射で賛同する事が当たり前のように。
「そしてゆくゆくは凋落した一族の復活だ。私と灯花なら同じ過ちは繰り返さない。あとは実績を残すだけだ」
「歴史は繰り返す、とも言うけどねー」
李凛は無言で灯花の両頬を引っ張った。「痛いー」と言ってはいるが抵抗はしない灯花。李凛に抵抗したところで無駄だと分かりきっているのだろう。
「私達に限っては、そんな事ないでしょ」
「ごめんごめん。頑張ろうね、李凛」
「うん、頑張ろう。……ん?」
「んんー?」
今夜は雲一つ無い新月の夜だった。星が燦然と輝き、辺りを照らしている。
こんな夜中に二人が外を歩いていたのは「星が綺麗だから」と李凛が灯花を散歩に誘ったからだった。
それなのに一瞬だけ、二人の周りが陰で覆われる。何か大きな物が上空をよぎったかのように。二人は不思議に思い、同時に空を見上げる。
「アレって」
「あー、あの人って」
「シェイムリルファ?」二人は顔を見合わせて同時に声を上げる。
「はじめて見た。本当にいるんだねー」
「そりゃあ、いるでしょ」
「すごいね。空を跳ねてるよ」
「そういえばアイツ、シェイムリルファに憧れてそうだったな」
「ん? さっきの話の稀有な人?」
「なんでも今日初めて魔法少女になったらしいんだけどさ、シェイムリルファにそっくりだったんだよ」
「へー。それは興味深いね。世の中にはそっくりさんが三人はいるって言うしね」
「顔じゃねえよ」
「声?」
「顔と声が似てるからって憧れてるってならねえだろ。変身後の姿がだよ」
「へえー」
「どうせ帰ってもやる事ないよな?」
「追いかけるの? いってらっしゃい、気をつけてね」
「シェイムリルファに会ったなんて、話の取っ掛かりにするには十分すぎるだろ」
「うんうん。きっとそうだね、間違いないよ。気をつけてね」
「よし、行こう」
「はーい。いってらっしゃーい」
「灯花も行くんだよ! さっきから一人で行かせようとしやがって」
「やっぱりー?」
二人はシェイムリルファを追う。彼女達が騒動に巻き込まれるのは体質なのか、はたまた運命なのか、もしくは自ら首を突っ込む性質なのか、きっとそれは彼女達も分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます