第50話 チーム戦1学年トーナメント決勝
翌日の2回戦でもブルーホライズンの快進撃は続く。圧倒的な力の差を見せつけて勝利を掴んで準決勝にコマを進めている。
さて彼女たちの現在の能力であるが、わかりやすくステータスをここに挙げてみることにする。
【竹内 真美】 16歳 女
職業 剣士
レベル 20
体力 110
魔力 120
敏捷性 104
精神力 145
知力 44
所持スキル 剣術ランク3 パーティー指揮ランク2 二刀流剣術ランク2 身体強化ランク1
【蛯名 ほのか】 16歳 女
職業 剣士
レベル 20
体力 107
魔力 82
敏捷性 123
精神力 101
知力 44
所持スキル 剣術ランク3 敏捷性上昇ランク2 盾術ランク2 身体強化ランク1
【片野 渚】 16歳 女
職業 槍士
レベル 20
体力 117
魔力 79
敏捷性 88
精神力 85
知力 39
所持スキル 槍術ランク3 気配察知ランク3 風属性魔法ランク1 身体強化ランク1
【山尾 美晴】 16歳 女
職業 戦士
レベル 20
体力 142
魔力 34
敏捷性 69
精神力 72
知力 29
所持スキル 戦斧術ランク3 盾術ランク3 気合強化ランク3 身体強化ランク1
【荒川 絵美】 16歳 女
職業 槍士
レベル 20
体力 91
魔力 60
敏捷性 79
精神力 85
知力 40
所持スキル 槍術ランク3 敏捷性上昇ランク2 身体強化ランク1
【山浦千里】 16歳 女
職業 魔法使い
レベル 22
体力 99
魔力 198
敏捷性 70
精神力 98
知力 52
所持スキル 剣術ランク1 火属性魔法ランク2 氷属性魔法ランク1
対戦する各校のチームメンバーがおよそレベル12~15で、体力の数値にすると60~70程度であるのと比較すれば、個々の強さは一目瞭然。しかも聡史に鍛えられた確固たる連携によるプラスアルファまで考えると、オープントーナメントに出場してもそこそこ活躍ができる可能性すら秘めている。
そのうえランク上昇のボーナスともいうべきか、各自に新たなスキルが生まれているので、ますます個人の能力上昇に拍車をかけている。
ここまで安定して力を発揮できるようになったのは、やはり魔法使いの千里の加入が大きい。もともと千里の職業は剣士であったが、このところ魔法に専念しているためかいつの間にか魔法使いに上書きされている。どうやら職業というのはかなり柔軟性があるようで、しばらく別の職業の訓練をしていれば新たに上書きされるよう。
聡史が元々魔法剣士だったのが、あのような大層な職業に変わったのもこのような効果かもしれない。ただし美鈴、明日香ちゃん、カレンの3人は、いまだに職業の記載がないのはいったいどのような意味があるのか不明となっている。
◇◇◇◇◇
さて、1学年チーム戦トーナメントの出場者に関して、一時は美鈴の生徒会副会長としての進退が懸かる事態まで発展した例の一件だが、ブルーホライズンの快進撃を目の当たりにして騒ぎを起こしたグループの誰もがその口を閉じざるを得ない。
最初からある程度ブルーホライズンの快進撃を予想していた上級生たちは、小さくなって応援席に座っている1年生グループをニヤニヤしながら見ている。「ほら、言わんこっちゃない」という呟きと失笑が上級生の間から漏れている。
このスタンドに流れるムードを察した桜は、聡史に向かって自己流の解決策を提案開始。
「お兄様、どうもあの一角がお通夜のようなムードです。よかったらこの私が直々に沈み込んだムードを明るくして差しあげましょうか?」
「嫌な予感しかしないが、一応どんな方法を用いるのか聞かせてもらおうか」
「お兄様、沈んだ空気を払拭するには体を動かすしかございませんわ! この私があの連中を訓練で死ぬほど追い詰めて差し上げます。あのような煩わしい連中は、何も考えないように頭の中身をきれいさっぱり作り変えればよろしいのです」
「予想通りの回答をありがとう。いいから大人しくしていろよ。余計な被害者が増えるだけだからな」
「お兄様、これでも私は妥協しているのですからね。本来ならばとっくに校舎裏に…」
「シャァァラップ! いいから相手が自分から進んでお前の訓練を希望するまでは動くんじゃない!」
「どうにも不完全燃焼ですわ。仕方がありませんから、連中に関してはもうしばらく手出しをしないようにします」
まだ不満が残る表情をしている桜だが、しぶしぶ自分の意見を引っ込めている。これ以上騒ぎが大きくなるのを食い止めた聡史は、ほっと胸を撫で下ろしているよう。
◇◇◇◇◇
八校戦は2週目の水曜日を迎えて、いよいよチーム戦の準決勝と決勝戦を迎える。午前中に各学年の準決勝を行い、午後には決勝戦が組まれている。
第1魔法学院では、ブルーホライズンと近藤勇人が率いる〔蒼き稲妻〕の2チームが準決勝にコマを進めている。
朝9時に開始される第1試合には、第1魔法学院の代表であるブルーホライズンが出場。ここまで圧倒的に対戦相手を下してきたブルーホライズンは、この時点で優勝最有力候補に数えられている。
そして彼女たちは、大方の予想通りに準決勝を勝ち上がる。同時に第5試合でも蒼き稲妻が勝ち上がって、第1魔法学院の応援席は一部を除いて大いに盛り上がりを見せているのであった。
◇◇◇◇◇
午後になっていよいよ決勝戦が開始される。
この試合のブルーホライズンは、これまでとガラリと試合の入り方を変えている。
盾を手にする美晴が開始戦前に立って、その直後に渚が待機する態勢だけでも今までとは違うのだが、そこにもってきて、ほのかが二人とはやや離れた場所で左手には普段よりも大型の盾を持ってダッシュする構えを見せている。これまでは自陣深くから千里の魔法を合図に戦闘に入っていたのとはフォーメーションを入れ替えているよう。
これは盾を装備するほのかが絵美に代わって入ったことで、彼女も飛んでくる魔法に対処が可能であるゆえの変更となっている。だが、この並び方を見て対戦相手の第5魔法学院は大いに戸惑いを見せている。
1回戦で勇者を破った第5魔法学院のチームは、カレンの魔法によって負傷から回復したリーダーの分析能力によってここまで勝ち残っていた。もちろん彼はブルーホライズンの戦いぶりを入念に分析して対策を立てている。
だがその対策の根本がブルーホライズンのフォーメーションを見た瞬間に崩れ去る。まさか決勝になってフォーメーションに手を加えるとは、奇策に属する冒険と言われても仕方がない。だがブルーホライズンの面々の表情には確固たる自信が漲っている。
じつはこの戦闘隊形こそが、ブルーホライズンにとってはゴブリンの集団を相手取る際の本来の姿ともいえる。飛んでくる魔法や弓矢を前衛の美晴とほのかの盾で防ぎながら相手に打ち掛かっていくやり方こそが、彼女たちにとって一番戦い慣れた戦闘スタイル。
「試合開始ぃぃ!」
審判の合図によって準決勝が幕を開ける。同時に美晴とほのかが前方を警戒しながら前進を開始。
第5魔法学院の面々も最初の戸惑いから立ち直って、これを何とか迎え撃とうと動き出す。魔法使いとリーダーが前進し始めた美晴とほのかに向かってファイアーボールを放つが、彼女たちが手にする盾によって簡単に防がれていく。味方の魔法が防がれた状況を見た第五魔法学院の前衛もブルーホライズンの前衛を押し留めるためにここは動かざるを得ないと覚悟を決める。
彼らはそれぞれがブルーホライズンに打ち掛かっていく。ブルーホライズンの三人は、わざと中央を開ける形で左右に展開しながら、打ち掛かってくる第5魔法学院の前衛を相手にしている。
前衛の味方が接近戦に持ち込んでいる状況を見た第5魔法学院の魔法使いは、同士討ちを避ける意味で魔法の発動を一旦休止。だがこれこそが、真美が立てた作戦であった。
「千里! 一気に決めて!」
「ファイアーボール!」
千里が広げた左右の手からは、同時に2発のファイアーボールが飛び出していく。
「えっ!」
この様子に慌てたのは第5魔法学院のリーダー。真っ直ぐに自陣に向かって2発のファイアーボールが飛んでくるが、速度が速すぎて対処できない。他に手立てもなく、彼はその場に蹲るしかなかった。
ドカドカーン!
2発のファイアーボールは、リーダーが蹲っている場所から5メートル離れた地点に正確に着弾して爆風を巻き起こす。ようやく怪我から回復したばかりの第5魔法学院のリーダーは、爆風に煽られて陣地の台上から地面に叩き落される。この大会において最も不幸な目に遭ったのは、おそらく彼ではないだろうか。
「そこまでぇぇ! 勝者、赤!」
リーダーが陣地の台から落ちたのを見届けた審判が試合の終了を告げる。これにて、チーム戦の決勝戦が決する。Eクラスの女子たちで結成されたブルーホライズンが、八校戦という晴れ舞台でついに栄光の座を掴んだ瞬間であった。
「やったー! ついに優勝だぁぁぁ!」
「わ、私たち優勝しちゃったのね」
「何事も一番になるのは気分がいいなぁ」
口々に感想を述べながら彼女たちは抱き合って喜びを分かち合っている。これが底辺から栄光を掴んだ者の本来の姿といえるのではないだろうか。優勝したのがいかにも不本意などという不届きな感想を口にする明日香ちゃんが、古今東西どこにも見当たらない変わり者なのだろう。
「さあ、一番先に伝えたい人の所に行きましょう!」
挨拶が終わると、真美の掛け声でブルーホライズンのメンバーが駆け足で聡史のいるスタンドに向かう。
「「「「「師匠! 本当にありがとうございました~!」」」」」
「よくここまで頑張ったな。だがここがゴールではないから、明日からもビシビシいくぞ」
ブルーホライズンがここまで成長した姿を見た聡史も、この場は目を細めて彼女たちを褒めている。だが褒めるだけではなくて、気を引き締めることも忘れないのは、いかにも聡史らしい。
「「「「「「はい、よろしくお願いします!」」」」」
五人揃った気持ちいい返事も、1週間訓練免除につられて買収に応じるどこかの誰とは大違い。明日香ちゃんは、彼女たちの爪の垢でも飲んでもらいたい。
この後の3学年チーム戦も勇人の活躍で勝利して、第1魔法学院の応援席は大いに盛り上がる。
残る種目はデビル&エンジェルが出場するチーム戦オープントーナメントのみ、八校戦もいよいよ大詰めを迎えるのであった。
◇◇◇◇◇
今年の八校戦はチーム戦学年トーナメントを終えた時点で学校対抗の総合優勝争いは完全に第1魔法学院と第4魔法学院の争いに絞られている。
勇者の反則によって100点の減点を食らった第1魔法学院は失った点数を挽回すべく奮起しており、チーム戦学年トーナメントにおいてブルーホライズンと蒼き稲妻の2チームが優勝を飾って200点を加算。トータルのポイントを520点まで伸ばしている。
対する第4魔法学院は2学年トーナメントで優勝したほか、3学年トーナメントでは準優勝、2チームがベスト4に食い込んでおり、こちらも200点を加算してトータルで450点。
チーム戦オープントーナメントの優勝ポイントが200点で準優勝が120点となっているため、第4魔法学院は最後のトーナメントで優勝すれば、わずか10点の差で逆転を果たすことが可能となっている。最後のワンチャンスに賭ける意気込みで、第4魔法学院の応援席は過去に前例がないくらいの盛り上がりを見せている。
2週目の木曜日を迎えた八校戦は、午前中に参加する全チームがメインスタンドである第1訓練場に集まって、これからチーム紹介に続いてトーナメントの公開抽選が行われる。どのチームと対戦するかによって作戦が大きく異なるだけに、各チームとも緊張した面持ちで紹介を受けている。このチーム以外は…
「第1魔法学院チーム、デビル&エンジェル~!」
「ウオォォォォ!」
場内にアナウンスが行われて、メンバーたちは両手を挙げて応える。このチームが最大の優勝候補であるのは衆目の一致するところであるだけに、場内から送られる歓声はスタンドを揺るがすほどの勢い。
「フフフ、縁なき衆生たちも、どうやら私の力を認めたようですわね」
「桜、もうちょっと謙虚な気持ちで受け止められないのか?」
「お兄様、これでも謙虚な態度で臨んでおりますのよ。もっと力を見せていいのだったら、今頃スタンドの全員が私の前にひれ伏しておりますわ」
「もういいから、試合だけは調子に乗るなよ。恐ろしい被害を出したくないからな」
「わかっておりますわ」
兄妹をはじめとしたデビル&エンジェルは、緊張感とは程遠い様子でフィールドに立っているよう。いや、まだ桜くらいの態度なら許せる範囲かもしれない。明日香ちゃんに至っては「オープントーナメント開会セレモニーに出るのが面倒」だといいだして部屋でグースカ寝ているという有様。本当にいい加減にしてもらいたい。
そしてチーム紹介が終わると、いよいよトーナメント抽選が始まる。
「リーダーの俺がいくのか?」
「お待ちください、お兄様! このところのお兄様は私に連続でジャンケン勝負に敗れておりますわ。おそらくクジ運もクソ雑魚ナメクジに違いありません」
「誰がナメクジだぁぁぁ! 人のクジ運を、よくぞそこまで低評価にしてくれたな!」
「SNSに投稿したら低評価が山盛りになるのは明らかな事実ですからわ。ということで私が行ってまいります」
抗議する聡史に一瞥もくれることなく、桜は抽選番号が書かれたカードが置いてあるテーブルへと向かっていく。合計8枚のカードが裏向きにおいてある中から、桜は一番端にある1枚を選ぶ。
「第1魔法学院、1番!」
優勝候補筆頭チームが1番を引いたというアナウンスで、会場にはどよめきが広がる。トーナメントの第1試合からデビル&エンジェルが登場するというのはスタンドを埋める生徒たちを驚かせている。
「1番とは、幸先がいいですわね」
桜は満足した表情でパーティーメンバーが待つ場所へと戻っていく。
「桜ちゃん、いきなり1番を引いたのね」
「美鈴ちゃん、常にナンバーワンである私には相応しいですわ」
「相手はどこになるのかしら?」
「誰の挑戦でも受ける! あのイノキさんもそう言っておりましたわ。王者として堂々と構えていればいいのです」
呆れるばかりの自信に満ち溢れた桜を他のメンバーはもう諦め顔で見ている。桜の鋼鉄の神経にこれ以上付き合っていると、あらゆる意味で精神が持たないと知っているのであった。
ここでカレンが何かに気付いた表情になる。
「美鈴さん、それよりも大切なことがあります」
「カレン、何かしら?」
「明日香ちゃんを大急ぎで呼んでこないとメンバーが揃いません」
「あっ」
セレモニー終了と同時に桜が部屋にダッシュするのは言うまでもなかった。
そして第1魔法学院の最大のライバルである第4魔法学院は反対の山に入って決勝戦で顔を合わせることとなった。全てのお膳立てが整って、いよいよ最後のトーナメントの開幕を迎える。試合開始が待ち遠しい会場は、今か今かと期待する盛り上がりを見せている。
◇◇◇◇◇
午前10時半から、チーム戦オープントーナメント第1試合が開始される。聡史たちデビル&エンジェルの相手となったのは、第7魔法学院のチーム。
開始戦に並ぶ双方のチーム、舌戦の口火を切ったのは第7魔法学院の三人。
「お前たちが優勝候補と騒がれている第1魔法学院のチームか! だがこの試合に勝つのは我々だ」
「今大会は第4魔法学院の留学生が目立っているが、我らも香港からの留学生」
「俺たちのカンフーの前に散るがいい」
ここにも自信満々で試合に臨む人間がいる。彼ら香港からの留学生三人組はすでに昨年度から第7魔法学院に在籍しており、今大会の個人戦でもそこそこ上位に食い込んでいる。マギーたちの陰に隠れて目立たないとはいえ、相当な強敵といえるであろう。
「ほほう、カンフー使いとは初めての対戦ですわ。これは私が学んだカンフーとどちらが上か、この場で白黒つけましょう」
「桜、いつのまにカンフーの修行なんかしていたんだ?」
「お兄様、私はスナック菓子を食べながらドラゴンさんとジャッキーのDVDを鑑賞して見よう見まねでカンフーを覚えましたの。軽い気持ちで覚えたカンフーをまさかこんな場で初披露するとは思っていませんでした」
「できれば普通に戦ってもらえないだろうか?」
「いいえ、カンフーにはカンフーで対抗する! これが私のポリシーですから」
どうやら桜は聞く耳を持っていないよう。映画のDVDで覚えた技が果たして通用するのかどうか聡史の胸中には一抹の不安が残る。対して第7魔法学院の三人は…
「フハハハハハ! 見よう見まねで覚えられるほどカンフーは甘くない! この
「ガキの分際でバカも休み休み言え! この
「カンフーを甘く見ているようだな。この
「それ以上名乗るんじゃねぇぇぇぇぇ!」
危険なフレーズが飛び出そうな気配を察した聡史が大慌てで止めに入る。あわやピーという音を被せなければならない大変な危険な名であった。香港からの留学生、恐るべし… 本国での呼び方は違うのだが、日本語読みにした場合明らかに放送禁止に該当するであろう。
こうして冷や汗をかくような舌戦が終わると両チームはそれぞれの位置につく。
デビル&エンジェルは桜がひとりで開始戦の手前に立ってワントップを務め、その斜め後方には槍を構えた明日香ちゃんとメイスを手にするカレンが待ち構える。聡史は片手剣を手にしてリーダーを守る位置に立ち、この試合ではリーダーを務める美鈴が陣地の台上にいる配置。
対する第7魔法学院の三人のカンフー使いは、開始戦の手前に横並びで試合開始とともに突進する構え。後方には日本人の魔法使いとリーダーを配置して、極めて攻撃的なフォーメーションを採用している。個人戦オープントーナメントで優勝した桜を警戒して、三人掛かりで対処しようという作戦に出る構えのよう。
「試合開始ぃぃ!」
審判の合図とともに、第7魔法学院の三人が桜を取り囲む。対する桜は宣言通りにやや半身に構えて両足を前後に開き、前に出している左足の爪先に近い部分に重心を置いたカンフースタイルで相手をしようと身構えている。
「ふん、構だけは一人前だな。だがこれが本物のカンフーだぁぁ!」
桜と睨み合う雲黒崔が桜に襲い掛かる。雲黒崔の動きに合わせて、桜の手前に突き出し気味の両手が高速で回転を開始する。
「ハァ~! アチョウゥゥゥ!」
掛け声に合わせて高速で回転する桜の両手が北〇百裂拳のように雲黒崔の体を捉える。
ズガズガドコドコバキバキドスドスバカバカガキガキ!
手先だけの拳とはいえ、何十発も食らっている雲黒崔は堪ったものではない。連続で桜の拳を受けて、その顔が歪んでいく。
「ハァ~! アチョウ!」
「グワァァァァ!」
そして桜のとどめの一撃が水月を捉えると雲黒崔は吹き飛んでいく。白目を剥いて戦闘不能に陥っているのは明らか。
「なんと恐ろしいカンフーだ! これは俺も覚悟を決めて奥義を出さねば勝てないようだな」
この様子を見た陳国蔡は、自らの最終奥義を出す構えを取っている。だが桜はそんな動きには全く構わずに首を捻っている。
「おかしいですねぇ~! ジャッキーと同じくらいのスピードで拳を繰り出したつもりなのに一方的に叩きのめしてしまいました。これでは面白くありませんね」
桜はDVDと同じつもりとは言っているが、相手としたら「馬鹿を言うな!」と抗議したくなるような拳のスピード。DVDを10倍速で早送りにしたくらいの速度に映っただろう。
「しょうがないですねぇ~。せっかくのカンフー対決をもっと楽しみたいですから、スピードを緩めましょうか… ラジオ体操くらいのリズムでやってみましょう」
独り言を呟いていた桜は、気を取り直したように陳国蔡と向き合う。
「受けてみるがよい! 最終奥義、
虎が獲物に襲い掛かるがごとくに、雲黒崔の両手が桜を引き裂こうと迫りくる。これに対する桜は…
「それではラジオ体操第1、始めぇぇ! 1,2,3,4,5,6,7,8」
本人はラジオ体操と主張しているが、傍から見ると桜の戦闘中のリズムは誰の目にも追えない勢い。いわば超高速ラジオ体操のテンポで拳が繰り出されていく。
ドガドガバキバキズガズガボキボキ!
「ウガァァァァ!」
こうして雲黒崔もあっという間に吹き飛ばされていく。残るはただ一人。
「クソォォ! よくもやりやがったな! だがこの
「だから、それ以上は名乗るんじゃねぇぇぇぇ!」
またもや聡史の大声がフィールドに響く。そんなやり取りなど耳に入らない様子で、桜はしきりに何か呟いている。
「ラジオ体操のリズムでも早すぎましたか… もっとリズムを緩めるとなると… 盆踊りくらいにしてみましょうか」
どうやら高速ラジオ体操でも相手が簡単に吹き飛んでしまったことを反省しているよう。それにしても試合中に盆踊りはないであろう。桜だから何をやらかすか分かったものではないが…
「この
「いいから名乗るんじゃねぇぇ!」
「
萬穀栽は天の龍が口から炎を吐き出すがごとくの猛烈な拳の連打で桜に迫る。そして迎え撃つ桜は…
「月が~、出た出~た、月が~出た、ヨイヨイ♪」
バキバキ!
「三池炭鉱の~、上に出~た♪ ソレッ!」
ドカ!
「あんま~り煙突~が高すぎ~て、さ~ぞやお月さんも煙たかろ~♪ サノヨイヨイ!」
ドカバキズガ!
「ブハァァァ!」
合いの手が入るたびに、桜の拳が萬穀栽にヒットしていく。そして炭坑節をワンフレーズ歌い終わると、萬穀栽も桜の盆踊りカンフーによって吹き飛ばされていく。
「おかしいですねぇ~。盆踊りのリズムでも相手にならないんですか? でもカンフーと盆踊りのリズムを合わせると、なぜかしっくりきますね」
などとどうでもいい感想を述べているのであった。その時…
「ファイアーボール!」
カンフー使い三人がやられたのを見た第7魔法学院の魔法使いが、桜に向かって魔法を撃ち出してくる。飛んでくる魔法の気配に気づいた桜は…
「ふん!」
拳を一閃しただけで、ファイアーボールを消し飛ばしている。
「な、なんだと…」
あまりに非常識な方法で桜が魔法を迎撃した様子を見た第7魔法学院の魔法使いは、口をポッカリ広げたまま固まっている。その目は信じられないものを目の当たりにしたという様子で、これ以上ないほどに見開かれている。
「桜、場所を開けてくれ」
その指示で桜が横に移動すると、聡史の右手に魔力が集まる。
「ファイアーボール!」
邪魔な魔法使いを排除するために、聡史の手からごくごく威力を抑えたファイアーボールが飛んでいく。
ドーン!
狙い違わずに魔法使いが立っている地面の手前で爆発したファイアーボールは、彼を吹き飛ばして戦闘不能に追い込む。残るは第7魔法学院のリーダーのみ。
「明日香ちゃんとカレンで仕留めてくるんだ」
「「はい」」
聡史の指示で、槍とメイスを手にする二人が駆け出していく。カレンはその立派なお胸をプルンプルンさせているのに対して、明日香ちゃんは腹回りをプルンプルンさせて走る。だが色々な部分をプルンプルンさせてはいるものの、そこはレベル30オーバーの二人。想像以上のスピードで敵陣に乗り込むと、カレンのメイスで相手のリーダーを転倒させてから、明日香ちゃんが槍の穂先を首元に突きつける。
「まいった」
「勝者、青!」
こうしてほとんど桜の独り舞台であったデビル&エンジェルの初戦が終了する。
「やっぱりヤバすぎるチームだな」
「一人で三人を軽々倒すなんて、訳が分からないぞ」
「優勝は決まったかもしれないな」
そんなスタンドのため息混じりの感想を聞きながら、デビル&エンジェルは桜を先頭にして悠々と控室に退場していくのであった。
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怪しげな留学生たちを桜の盆踊りカンフーで破ったデビル&エンジェル。このまま順調に勝ち進んでいくのか…
この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!
「面白かった、続きが気になる、早く投稿して!」
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