第15話 異変の前兆

 ダンジョンの2階層に降りていく一行、初めてこの階層に足を踏み入れるカレンはやや緊張の面持ちで階段を一歩一歩踏みしめながら美鈴の後ろを歩いている。


 本日からメンバーが増えているので桜を先頭にして、その直後にトライデントを構える明日香ちゃん、さらに美鈴とカレンが続き、いつものように最後尾を聡史が警戒する隊列を組んでいる。


 新加入のカレンがいる関係で奇をてらわずに五人のパーティーとしてはオーソドックスな隊形を選択しているといえよう。前方に気配察知と近接戦闘力に優れた人材を配置して、中央に魔法使いと回復役、一番最後を歩くリーダーが全体を見渡しながら指示を出す無難な隊形で歩を進めていく。


 一応確認しておくが、このパーティーでリーダーを務めているのは聡史になっている。全員が彼の指示で動くようにパーティー間で確認がなされているのは言うまでもない。たとえ桜であっても聡史の指示にない勝手な行動はしない。たったひとりのスタンドプレーでパーティー全体が危機に陥る場合もあるゆえにリーダーの指示は絶対的な重みがある。その分リーダーには冷静さと経験に裏打ちされた状況判断が求められる。わずかな判断ミスが命取りになる場合も重々有り得るのがダンジョンといえよう。


 他に類を見ない聡史と桜という強力な二人が所属していても他のパーティーと同様若しくはより厳しい規律をメンバーに課しているのは、なにも安全のためだけではない。まだダンジョンに潜った経験が少ない明日香ちゃん、美鈴、カレンの三人に対する冒険者としての心構えを養う教育の意味も兼ねているののはもちろんのこと。


 何事も実地による経験に勝るものはない。一つ一つ身をもって体験しながらダンジョンで発生する様々な不規則な現象に対応していく能力を各自に獲得させようという聡史と桜の意図もある。だからこそこうして浅い階層に何度もやってきては、わざわざ美鈴や明日香ちゃんに経験を積ませている。



「桜ちゃん、前からくる魔物を桜ちゃんが取り逃しても私がバッチリ片づけますから安心して任せてくださいよ~」


「うーん、なんだか明日香ちゃんに頼るのは私のプライド的になんとも微妙なんですが… お兄様、明日香ちゃんの意見はいかがでしょうか?」


「そうだなぁ… 突発的な事態に対応する訓練の一環としてアリかな~。2体以上出てきたら1体は明日香ちゃんに任せてみようか」


 こんな会話をしているうちに桜の気配察知能力がゴブリンの気配を捉える。3人の会話にある通り1階層は単体のゴブリンしか出現しないが、2階層では2体まとまって登場するケースが稀に存在するのは周知の事実。



「どうやら横道から2体出てきますねわ。それでは明日香ちゃん、1体はお任せしますよ」


「はい、大丈夫ですよ~」


 なんだか力が抜けてしまうような明日香ちゃんの返事。とはいえこちらに向かってくるゴブリンが待っていてくれるはずもなく、その場で全体が一旦停止して接近してくる敵を待ち構える態勢に移行。桜はいつでも前進を開始できるように前方に意識を向けて、明日香ちゃんはやや前傾姿勢になってトライデントを構える。美鈴も念のためファイアーボールの準備を終えていつでも魔法を撃ち出せる態勢を終える。聡史は背後に注意を向けて右手にはすでに短剣を握っている。



「こんな短時間で、迎え撃つ準備が完了するんですか?」


 カレンは、初めて目の当たりにしたこのパーティーの本格的な戦闘態勢に目を丸くしている。ここまでくる間に通路に現れたゴブリンは全て桜が排除してきたので、全体がこうしてひとつにまとまって動き出すのは今日は初めて。


 カレンはクラスのパーティーに日替わりで参加しては、戦闘の邪魔にならないように一番後ろに控えて彼らの戦う様子を目撃してきた。こうして実際に聡史たちのやり方を目にしながら双方を比較すると、このパーティーとクラスの生徒たちのパーティとしての練度の違いがくっきりと浮き彫りになってくる。


 まず第1に一般の生徒たちは目視によってゴブリンを発見した時点から戦闘の準備に取り掛かる。この時点である程度相手に接近を許しているので、迎撃準備に要する時間的な余裕が相当削られるのはやむを得ない。時には横道から急に現れたゴブリンに対して剣を抜く暇もなく乱戦に陥るケースも何度か経験している。ヒドイ場合には、歩いているカレンの目の前に突然横からゴブリンが姿を現したこともあった。何とか後方に下がって事なきを得たが、冷や汗をかいた覚えがある。


 2番目にクラスの生徒たちの間には明確なリーダーシップが存在していない。一応パーティーのリーダーは決まっているのだが、急に現れたゴブリンに対して「俺がやる」「今度は俺の番だ」「私の魔法で倒すわ」といった具合にリーダーの指示を待たずにめいめいが動き出してしまう。


 戦闘開始までわずかな時間しかないので、必然的にその時にアドリブで誰かが対応しなければならないという切羽詰まった事情は理解できる。だが毎回このような調子では、通路を歩きながらカレンも神経質にならざるを得ない。瞬時に状況を把握して指示を出せるリーダーがわずか2か月では未だ育っていないのは事実として認めなくてはならない。


 魔物を相手にする戦い方というのは大体こんなものだろう… クラスの生徒と同行しているうちにカレンはこのように考えていた。彼女は回復担当で戦闘に関する訓練をほとんど受けていないことにも起因するが、魔物を相手にする戦いの知識そのものが不足していたのも紛れもない事実。


 そんなカレンはこのパーティー全体の意思疎通と暗黙の連携を目にして新たな発見をしている。リーダーを中心にしてその指揮系統の下で各自が的確な役割分担を徹底する。これが当然のように全員出来てこそ、本当のパーティーといえるのだと初めて気づかされたよう。


 もちろん実技実習の担当教官がこのようなパーティーの連携や戦術を授業中に教えてはいるが、咄嗟に全員が出来るかといえば答えは否というほかない。これは経験が足りないという問題ではなくて、Aクラスの生徒の索敵能力に原因があるのではないかとカレンなりに分析している。


 桜という優秀なレーダーを保有している聡史たちと他のパーティーでは、魔物を迎え撃つスタート地点からして格段の違いがあるのは紛れもない事実。


 Aクラスの生徒たちのパーティーとは名ばかりの戦い方ではおのずと限界が見えてくるのは明らかであろう。いずれは彼らも必要に迫られてパーティーとしての戦術の根本を問い直される日が来るはず。それまでに誰かが痛い目に遭わなければいいと、カレンは心の中で願うしかない。


 


 話が大幅に逸れてしまったが、桜の前に2体のゴブリンがその醜悪な姿を現してくる。



「邪魔ですわ」


 いつものように、桜のパンチ1発で片方のゴブリンが彼方へと吹き飛んでいく。



「明日香ちゃん、右の壁沿いに下がりますから反対側から前進してください」


「桜ちゃん、わかりました」


 桜はそのまま残ったゴブリンから視線を離さずに壁際をへばりつと、今度はトライデントを手にする明日香ちゃんが前に出る。神槍は毎度の如くに蒼く発光して自らの存在をアピールしている。



「えいっ!」


 槍術レベル2のスキルを獲得した明日香ちゃんが突き出すトライデントの三つ又になっている穂先は迫ってくるゴブリンの喉元を正確に捉える。



 ギギャアァァアァ!


 バチバチバチ


 突き刺さったトライデントの先端からトドメの電流が流れると、ゴブリンは体を硬直させてから直後に倒れていく。 



「明日香ちゃん、ナイスですわ」


「えへへ、それほどでもありませんよ~」


 桜と明日香ちゃんがハイタッチをしている。二人とも滑り出しはこんな感じでオーケー… といった表情。


 だがひとりカレンだけが、あっという間に倒されて徐々にダンジョンの床に吸収されていくゴブリンを見つめながら絶賛混乱の真っ先中。


 Aクラスの生徒がゴブリン1体を倒すには、ファイアーボールを2、3発撃ち出してから炎に怯んだ隙に剣で体に傷をつけて徐々に弱らせてから最後にトドメを刺すのがオーソドックスな戦い方とされている。大抵の場合めいめいが勝手に打ち掛って乱戦に陥るにしても、余裕があれば生徒たちもこのような安全な戦い方が可能。


 それなのに桜はともかくとして明日香ちゃんまでゴブリンを一突きとは… 訳が分からないカレンが混乱するのは無理もない。


 自分の頭で考えていても埒が明かないと判断したカレンは聡史に振り返る。



「聡史さん… ゴブリンって一撃で倒れるものなんですか?」


「当然だろう。ゴブリンに苦戦していたら下の階層なんて降りられないからな」


 カレンはようやく悟った。このパーティーはいい意味でおかしいのだと。聡史と桜が異世界からの帰還者というのは承知している。だがその二人だけではなくて明日香ちゃんまでが絶対におかしい。Aクラスの生徒でもおそらく勇者レベルでないとゴブリンを一撃など誰も成し遂げてはいないはず。それをあっさりとやってのけて桜と笑顔でハイタッチしている明日香ちゃんをまじまじと見つめている。


 絶対おかしい… なんだかカレンの中での従来の基準が大幅に狂わされている。


 おそらくは美鈴もあの魔法を見る限り、明日香ちゃんと同類なのだろうと容易に想像がつく。


(一度お母さんに相談してみよう)


 最も身近で頼りになる存在をカレンは思い浮かべる。彼女の母親も管理事務所からの緊急要請で何度かダンジョンに入っているはず。あの母親ならばこのパーティーの戦い方をわかりやすく解説してくれるだろう。


 ここまで考えるとカレンはある意味開き直って、見たままを受け入れようと決心する。




 こんな感じで2階層を楽々突破したパーティーは3階層に降りてくる。



「ここからは美鈴と明日香ちゃんの本当の戦いだ。俺と桜の指示をよく聞いて慌てずに戦うんだぞ」


「「はい」」


 こうして、桜が索敵しながら通路を進んでいく。



「3体向かってきますわ」


 桜が指さす方向からゴブリン上位種が湧き出てくる。ゴブリンメイジ、コブリンアーチャー、コブリンソルジャーが黒い靄の中から突如姿を現す。1、2階層ではこのような登場の仕方はなかったが、3階層に降りた途端に今まで経験しない形で魔物が急に湧き出してくる。



「美鈴、魔法は?」


「いつでもオーケーよ」


「真ん中の1体を狙え」


「はい、聡史君。ファイアーボール!」


 美鈴の魔法は、狙い通りに高速で中央に立っているゴブリンアーチャーに向かっていく。


 ズドーン!


 爆発の衝撃でアーチャーはバラバラになって飛び散り、あおりを食らった左右の2体も壁に打ち付けられて瀕死の状態。



「明日香ちゃん、トドメですわ!」


「任せてくださいよ~」


 相変わらず力が抜けそうな返事をしつつも、壁際に倒れてもがいている2体のゴブリン上位種に槍を手にする明日香ちゃんが駆け寄っていく。いまだ立ち上がれぬままの2体に頭上からトライデントを突き刺すと今回も簡単にケリがつく。桜も念のために明日香ちゃんのフォローで一緒に駆け寄ってその様子を見守るが、特に手を出す暇もなさそう。


 その時…



「美鈴、横から奇襲! 魔法は?」


「大丈夫よ! ファイアーボール」


 横道から向かってくるゴブリンを美鈴の魔法が一撃で撃破する。



「お兄様、背後です!」


 聡史が振り向くと、今度は後ろに黒い靄が湧き立って2体のゴブリン上位種が登場。



「俺がやる。美鈴は次の魔法を準備してくれ!」


「はい」


 音もなく駆け寄った聡史によって1体は短剣を突き刺され、もう1体は前蹴りで天井まで蹴り上げられる。頭を固い天井にめり込ませる勢いで蹴り上げられたゴブリンはドサリと落ちてきた時にはすでに絶命している。



「お兄様、なんだかいつもと様子が違いますわ」


「ああ、エンカウント率が狂っているな」


 兄妹は秩父ダンジョンで当たり前のように3階層に何度も降りてはきたが、ここまで極端にゴブリンが登場する例を見たことがない。聡史と桜の経験に照らし合わせて考えられるとしたら、結論はただひとつしか導き出されない。



大暴走スタンピードか?」


「お兄様、その可能性は大いにありますわ」


 異常な状況を把握した聡史と桜は深刻な表情で顔を見合わせる。






   ◇◇◇◇◇







 大山ダンジョンの3階層では魔法学院の2、3年生による複数のパーティーが前進も後退もままならずに立ち往生している。



「おい、いくらなんでも、異常じゃないか?」


「魔物のリポップ率が普段の5倍じゃ利かないな」


「どうするんだ? このまま引き下がるか?」


「出来ればそうしたいが、この場から動けないぞ」


 彼らがこの異常な状況に巻き込まれたのは約15分前から。そこまではいつも通りに通路を進んで、下の階層に至る階段を目指して歩いていた。つい今しがたまでは出現する魔物を7、8分おきに討伐すれば特に問題はなかったはす。


 ところがいつも通りに通路を進んでみれば急に次から次へと目の前で魔物が湧き出るこの状況に、巻き込まれた上級生もさすがに戸惑いを隠せない。ジリジリと2階層へ昇っていく階段を目指して後退しながら目の前の魔物をただひたすら屠っていくしかこの状況から抜け出す解決策は見当たらない苦境が窺える。


 上級生の彼らにしてみれば、ほぼ1日おきに通っている見慣れた順路。今ではどの角を曲がれば最短で次の階層へ下りられるか目を閉じていても頭に思い浮かぶ。


 だが今はそれが逆に仇となっている。3階層の通路を順調に進んだ分だけ上層に戻る階段から離れた位置まで来てしまっている。聡史たちが階段を降りた直後にこの異変に見舞われたのに比べると、無事に地上へ戻る難易度は格段に跳ね上がっていると言わざるを得ない。






    ◇◇◇◇◇





 階段にほど近い場所にいた聡史たちのパーティーは次々と涌いてくるゴブリンを相手にしながらも、ひとまずは無事に撤退して2階層まで戻っている。ここはまだ特に変わった状況が及んでいる気配は感じられない。



「桜、すまないが三人を連れて外に出てもらえるか。それから1階層にいる連中に警告してダンジョンの外に出してくれ。もちろん事務所にこの異常を報告するんだ」


「お兄様は、どうなさるのですか?」


「3階層の奥に上級生のパーティーがいるはずだ。可能な限り救出してくる」


「わかりましたわ。報告を終えたら私はもう一度戻ってまいります」


「無理をするなよ。まずは安全に撤退するのが第一だ」


「わかりましたわ。お兄様もどうか気を付けてください!」


「ああ、行ってくるぞ」


 桜から管理事務所発行のマップを受け取った聡史は身を翻して再び階段を下りていく。



「聡史君、気を付けて」


「お兄さん、待っていますから、絶対に戻ってきてください!」


 美鈴と明日香ちゃんの心配する声を背に受けて聡史の姿は階下へと消えていく。



「桜ちゃん、聡史さんは本当に大丈夫なんでしょうか?」


「カレンさん、そんなに心配しないでも大丈夫ですわ。お兄様でしたら上級生全員助けてくれるはずですの。さあ私たちも仕事がありますから、ここで立ち話してはいられません」


 カレンの不安を努めて明るい声で払拭する桜はもう一度だけ階段を振り返る。



(お兄様、桜も全力で駆け付けます。どうかご武運を) 


 心の中で兄の無事を祈ってから、桜は自らが託された使命を果たすべく来た道を戻っていく。






    ◇◇◇◇◇






 階段を下りた聡史の前には、いきなり黒い靄が賓客を歓迎でもするかのように出現する。



「邪魔だ」


 聡史が手にするは魔剣オルバース、そのひと振りであっさりと靄ごと吹き飛ばす。いちいち魔物の登場を待っているのではなくて登場する前に魔剣に宿る固有スキル〔分解〕で消し去っている。さすがは明日香ちゃんが手にするトライデントに匹敵する魔剣といえよう。


 そのまま通路を疾走していく聡史、眼前に立ち込める靄を次々に蹴散らしては無人の荒野を進むがごとくに前進していく。


 500メートルの距離をスキル〔神足〕を発動して魔剣を振りかざしながら突き進むと、前方には次々に現れるゴブリン上位種を相手にして懸命に戦う学院生の姿がほの明るい通路に浮かび上がる。


 

「助けに来たぞ!」


 敵と誤認されないように大声を張り上げてから聡史は上級生パーティーを取り囲んでいるゴブリンの排除を開始。


 右手に持つ剣を1体に振り下ろしながら左手で別のゴブリンの頭を鷲掴みにしていて壁に叩き付けるという空恐ろしい方法で難なくパーティーに取り付いていたゴブリンをあっという間に殲滅している。



「助けに来てくれたのか。ありがたいぜ!」


「危ないところを感謝する」


 口々に礼を述べる先輩たちだが、今は礼儀など構っている場合ではない。聡史は今走ってきたばかりの通路の方向に向き直ると左手に魔力を集める。



「ウインドカッター」


 ゴゴゴゴゴォォォォォォ!


 聡史の左手から放たれた魔法はウインドカッターなどという可愛らしい初級魔法ではない。ちょうど竜巻を真横にしてそのまま直進させたかのような、途方もなく膨大な荒れ狂う暴風の刃が一瞬のうちに通路を駆け抜ける。



「掃除はしたから今のうちに可能な限り階段方向に向かってもらいたい」


「君はどうするんだ?」


 目の前に発生した超級魔法にドン引きしながらも、上級生は聡史がこれからどうするのかを尋ねる。



「俺は奥に進んで他のパーティーの撤退を支援する。グズグズしている時間はないから手早く行動してくれ」


「わかった。すぐに階段に向かう。全員、急ぐぞ!」


 こうして最初のパーティーは聡史が魔法で稼いだわずかな時間を無駄にしないように走って階段方向へ向かっていく。その後ろ姿をを見届けると、聡史は再び奥に向かう方向に通路を走り出す。


 次のパーティーの姿は進行方向200メートル先にあった。接近して様子がはっきりと聡史の目に映ると、彼らは2重3重にゴブリンに取り囲まれて明らかに先ほどのパーティーよりも苦戦している状況が伝わってくる。



「魔剣スキル〔切断〕」


 聡史は魔剣の新たなスキルを発動する。〔切断〕は剣の刃が届く範囲にある物体を一つ残らず断ち斬っていくスキル。実はさらに上級の〔滅斬〕というスキルもある。これはさらに広範囲に斬り裂くスキルなのだが、上級生まで真っ二つにしてしまうのでこの場では使用ができない。



 ズシャ


 たったひと振りで上級生に群がっていたゴブリンは10体以上まとめて葬られている。聡史の手でこちら側にいるゴブリンは残らず始末されて、上級生たちは反対側に群れ集う敵に集中することが可能となる。



「助けに来てくれたのか?」


「そうだ。そこにいるゴブリンは放置してすぐに階段方面に退避してくれ。まだ向こう側はここよりもマシだから、一歩でも階段に近い場所に向かうんだ」


「お前はどうするんだ?」


 懸命に剣を振るってはゴブリンの頭を叩き割っている上級生が声を張り上げる。



「このまま奥に進む。急げ、一刻も猶予は出来ないぞ!」


「すまない」


 こうして2組目のパーティーも階段方向へと誘導する。どうやら奥に進むにつれてエンカウント率が上昇しているようで、ここから先は相当危険な状況が予想される。



 聡史は上級生が残していったゴブリンの群れを一息で片付けると、再び奥へと向かって歩を進める。


 次のパーティも同じようにゴブリンの群れに取り囲まれて苦戦している。聡史は同様に群れを片付けると、これまでとは全く違う指示を出す。



「怪我人は中央に保護して隊列を組み直してくれ。俺が先頭を努めるから、このまま奥に向かって進むぞ」


「わかった。ついていく」


 この場から上級生たちを二階層に戻る階段方面へと向かわせるのは危険と判断した聡史は、自分の後ろをついてくるように命じる。聡史の意図を理解した上級生は素直に従ってくれている。この先に進んでいるパーティーも自分たちと同様の危機が降りかかっているのは誰の目にも明らか。


 その後もゴブリンに取り囲まれているパーティーを数組救い出すと、ようやく4階層に降りていく階段を発見する。すでに隊列は三十人近くに膨れ上がっており、相当数の怪我人もいる。



「階段は安全地帯のはずだが、一応様子を見てくる」


 聡史が確認すると、やはり階層を繋ぐ階段には魔物が発生する気配はない。さらに聡史は階段を駆け下りて4階層を確認するが、こちらも異常に魔物が湧き出す気配は感じられない。普段と変わらぬ姿の4階層のように映る。


 再び聡史は階段を駆け上がっていく。



「階段は安全だ。それから4階層も大きな変化はないようだ」


「本当か。それは助かる!」


 上級生たちの偽らざる本心であろう。彼らは果てしなく湧き上がるゴブリンたちとの戦いで相当消耗しているよう。まだ肩で息をしている者もいるし、何よりも怪我の手当てが必要な人間が複数いる。


 消耗している者は階段へ、まだ余力がある者は4階層へと配置すると、聡史は怪我人にポーションを手渡す。



「味は最悪だが、効果は保証する。我慢して飲んでくれ」


 並んで腰を落として体を休めている怪我人にポーションを飲ませていく。まるで打ち合わせをしたかのように全員が顔をしかめているが、次第に怪我が治っていく様子にどんな奇跡なんだという表情で目を丸くする。



「どうやら異変の原因は3階層にあるようだな。調べてくるから、俺が戻るまではこの場を動かないでもらいたい」


 そう言い残すと、聡史は3階層の別の通路へと向かってその姿を消すのであった。 



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


               【お知らせ】


活動報告の代わりにこちらで告知させていただきます。久しぶりに異世界物を描きたくなりまして現在鋭意執筆中です。


すでに第3話まで投稿を終えておりますので、よろしかったらこちらの小説もご覧いただけると作者としては飛び上がって大喜びいたします。どうぞよろしくお願いいたします。



作品タイトル 


〔勇者パーティーを追放された伝説的な英雄の末裔が古龍の加護と科学知識を手に入れて晴れて魔法学院に入学。王様が国を半分与えようと言ってくるけど、そんなのいいから俺に毛根を逞しくする薬を研究する時間をくれ〕


作品名を検索されるか、作者のページからすぐに飛べます。



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