第14話 逆襲の明日香ちゃん

 期末試験が終わると、他の高校と同様に魔法学院でも学科の授業は殆ど行われなくなる。となると反復しなければならない基礎実習と専門実技は相変わらず1日おきに組まれているものの、学科の授業で埋まっていた時間帯にポッカリ穴があく。


 普通の高校生ならば友達と一緒にゲームセンターに繰り出したりカラオケボックスで盛り上がって時には意中の異性と少しでも近付きになりたいと、遊び優先の計画を立てるであろう。


 だがここ魔法学院では少々事情が異なっている。


 実力本位でクラス分けすら成績順に並べられる当学院では、殆どの生徒がライバルよりも一歩でも二歩でも前に出ようと必死。努力を怠った生徒、もしくは努力をしていても実を結ばない生徒は、否応なく下のクラスに落とされる。


 また、たとえ底辺と見做されているEクラスの生徒であっても、ひとつでも上に這い上がろうと目の色を変えている。期末試験が終わったからといって羽を伸ばしていては、その間にライバルに追い越されてしまう。むしろ試験によって自らの立ち位置が改めて確認できた分だけ、次の新たな目標に向かって日々精進していこうと気持ちを新たにしているはず。


 た、たぶん…


 でもあのメンツが果たして…


 ゲフンゲフン! 一応そういうことにしておこう。


 このようなシビアな環境の中で、Eクラスではホームルームの前に学科テストの最後の答案が生徒に返却される。


 

「お兄様、試験の結果はいかがでしたか?」


「桜、全科目50点以上をクリアしたぞ」


 隣の席から話しかけてきた妹に向かってグッととサムアップして聡史が返事をする。机上に置いてある数学の答案には67点と記載されている。



「よかったですわ。これで大手を振ってダンジョンに入れますわね。私もひとまず最低限の点数は確保いたしましたし」


 桜の答案は78点。この娘、意外とやりおる! 2か月間の授業を全く受けていないブランクがあっても知力100は伊達ではない。時折頭の使いどころをウッカリ間違えるだけなのだろう。



「桜ちゃん、お兄さん、結果はどうでしたか~?」


 そこへ、ニコニコ顔の明日香ちゃんがやってくる。この様子だとどうやら彼女も無事にクリアしたよう。



「おや、明日香ちゃん、私もお兄様も全科目50点以上という目標を達成いたしましたわ」


「よかったですよ~。私も無事に合格ラインギリギリセーフです。全科目50点~55点の範囲にきっちりと納めました」


「合理的か。もっと点数を取ってもいいだろう」


 久方ぶりの聡史のツッコミが冴え渡る。クラス中に聞こえる大声に他の生徒全員が「またやってるよ」という呆れた表情で三人を見ている。



「お兄さん、お言葉を返すようですが、私は無駄な努力はしたくないんですよ~。ただでさえ桜ちゃんにシゴかれて色々大変なですから、学科の授業くらいは息を抜きたいんです」


「明日香ちゃん、学科は体を休める時間ではないと何度言えばわかってくれるんですか?」


「これが私の生きる道ですよ~。誰にも邪魔させません」


「自分で邪魔をしているんだろうがぁぁ!」

 

 誰が何と言おうとも明日香ちゃんは己の進む道を譲ろうとはしない。「そんなに胸を張って誇らしそうな表情をしていないで、もうちょっと頑張ろうよ…」という生暖かい眼差しをクラスの一部生徒から向けられても一向に気にしていない様子。もしかしたら桜の鋼の神経を上回る図太さなのかもしれない。


 そんなこんなで聡史たち三人が取り敢えずは安堵の表情を浮かべる横では、頼朝たち自主練一派が真っ暗な表情をしている。殊に頼朝は23点と書かれた数学の答案を握り締めて茫然自失の有様。



「迂闊だった… 実技能力が向上したのが嬉しくて試験期間中も自主練をしていたのが思わぬ落とし穴だったか…」


「当たり前だろう。俺と桜でさえ試験の5日前から自主練を強制自粛させられていたのに、お前たちは何をやっているんだ?」


 もちろん聡史たちに強制自粛をさせたのは他ならぬ美鈴。彼女が強権を発動しなければ聡史たちも彼らと同じ立場であったかもしれない。


 大雑把に言ってこれが底辺Eクラスの実態。男子で魔法が使用できるのは聡史だけ。全員が単純肉体労働者… 別名〔肉の盾〕とも呼ばれている何とも不遇な存在。


 もうちょっと頭を使えば楽になる場面でも気合と体力頼みで強硬突破しようとするおバカが揃いも揃っている。全員が等しくFランクの頭脳の持ち主なので、学問に頭を使おうとはこれっぽっちも考えない脳筋集団。まだ桜のほうがある意味合理的な会話が可能かもしれない。


 もちろんごく少数、それなりに勉強も頑張っている生徒もいるにはいるのだが、クラス全体の流れはこんな感じが多数派を占めている。


 さすがに女子はここまでヒドくはないと彼女たちの名誉のためにも一応弁解しておく。実際には他のクラスに比べて惨憺たる有様なのだが、あまりこの場でぶっちゃけると読者が色々と幻滅を抱く可能性がある。


 せっかくダンジョン管理事務所から渡された懇切丁寧にルートが書き込まれている地図を誰一人読み取れないとか…


 ダンジョン地図ならまだしも、街中でのスマホのルート案内すらわからずに、つい道行く人に目的地までの行き方を聞いてしまうとか…


 せっかく誰かに道順を聞いても、曲がる方向を間違えてさらにドツボに嵌るとか…


 半数が分数の計算が結構怪しいとか……


 

 要するにごく少数を除くほぼ全員がこの底辺クラスに集まるべくして集まっている。テストで半分以上をマークした明日香ちゃんが実はかなり尊敬されてしまうという、クラス全体が実に悲しいレベル。


 実技は訓練次第で差を埋めることができても、生まれ持った頭は取り替えない限りはどうにもならないような気がしてくる。もちろん一念発起して勉学に真剣に取り組めば、おそらく結果は違うのだろう… しかしどちらかというと男女とも本能優先で生きているので、真剣に将来を見据えようという生徒は数人しか見当たらない。


 東先生はよくぞこんなクラスを受け持っている。年齢とともにやや寂しくなりがちの頭皮がますます元気を失っていくのではないだろうか?



 


   ◇◇◇◇◇





 ところ変わって、こちらはハイソサエティーなAクラス。どこかの底辺クラスとは違って学科試験のクラス平均得点が80点オーバーという、実技だけではなくて頭脳まで優秀な生徒の集まり。


 その分だけ、Eクラスのような友情や義理人情に厚い生徒は存在せず、利己主義の塊と呼べるようなある意味選民意識に凝り固まったエリート集団というか… なまじっかステータスに記載されている初期能力が高かったばかりに、自分は選ばれた人間だと勘違いしている生徒が男女とも大半を占めている。


 その中にあって、美鈴やカレンは数少ない例外といえるであろう。彼女たちは自らの能力にけっして慢心せずにさらなる向上を目指している。それだけではなくて、誰からの意見やアドバイスでも受け入ようとする謙虚さも持ち合わせる。このような人間性を持ち合せていないと将来的に大成しないと思われるが、その辺はまだ若輩の集まりだけあって気付いている者が少数なのは致し方なし。


 ところでAクラスにおいても、実技試験で美鈴が公開した魔法は注目の的。日本では誰も実現していない超級魔法を完全な形で披露したのだから、当然クラス内で美鈴の評価は爆上がりしている。


 そうなるとこれまで誰からも顧みられていなかった美鈴を何とかして自分たちのパーティーに取り込もうという動きが活発化してくる。これまでは生徒会活動のためフルにダンジョンに入っていられないという理由でどこからも声を掛けられなかった美鈴であるが、誰しもがあの能力を見たら自分たちの仲間に欲しくなってしまうのは当然の流れ。


 ホームルームが始まるのを席で待っている美鈴の元に遠藤明が自信満々な表情でやってくる。彼は入試席次第5位で、今回の実技試験でもそこそこの威力のファイアーボールを披露していた。また彼が所属するのは、勇者である浜川茂樹たちに次ぐクラス内では有力なパーティー。



「西川さん、よかったら僕たちのパーティーに正式メンバーとして加わらないかい? 君が加入してくれたら僕たちはいよいよ2階層にチャレンジしようと考えているんだ」


 遠藤がこれだけ自信たっぷりな表情をしているのは、美鈴がAクラスのどのパーティーにも所属していない点と2階層にチャレンジするという殺し文句によるものだろう。まだこのクラスで… というか1年生で2階層で活動していると広く知られているのは浜川茂樹が所属するパーティーのみ。だからこそ遠藤はこの魅力的な提案に美鈴が飛びつくという全く根拠のない自信を持っている。



「勧誘してもらえるのは嬉しいんですが、私が所属するパーティーはすでに決まっています。管理事務所でもメンバー登録してありますので、今から変更する考えはありません」


 一応の礼儀を弁えてはいるが、美鈴の口調はこれ以上ないほどキッパリと遠藤の申し出を撥ね付けている。聡史から離れるなど、今の美鈴にとって論外のさらに外に相当する神をも恐れぬ行為に等しい。



「西川さんが登録したというのは、もしかしてあのEクラスの生徒が中心のパーティーのことかな? もしそうだったら、今から僕たちのところに加わることを勧めるよ。所詮はEクラスなんだから、西川さんの能力が宝の持ち腐れだ。その点僕たちと一緒なら、君の力を存分に発揮してもらえるからね」


 遠藤の言い草に美鈴の内心では「わかってない。こいつ全然わかってない!」という哀れすら催す感情が立ち込めてくる。だが美鈴はこうも考える。「あまりにも高い山の頂など、凡人には如何ほど高いのか理解が及ばないのだ」と、なんだかちょっと哲学的に。


 実際に聡史と桜の戦闘を間近で垣間見た美鈴でさえも、あの二人がどこまで強いのかなど判断がつかない。遠藤の言い分に凡人の悲哀を感じたのは「あの二人に比べたら自分自身も限りなく凡人」と、美鈴が自覚しているせいに違いない。だからこそ美鈴は生来の人の好さで、遠藤の主張をまるっきり否定するわけにもいかなかった。もし聡史たちと出会っていなかったら、自分もそのような思考に陥っていた可能性があったと気が付いている故に…



「遠藤君の言いたいことはよくわかっています。ですが私は所属パーティーを変更する気持ちはありません。今後このような勧誘をお受けしても私の気持ちは変わりませんので、どうかご了承ください」


「わ、わかったよ。あとから後悔しても知らないからな」


 結局美鈴の丁寧な断りのセリフは「遠藤君のこと嫌いじゃないけど、ゴメンナサイ(棒)」と同義語。受け取り方によっては最も傷付く断られ方といえよう。美鈴が遠藤の心情を慮ったばかりに結果的に彼を深く傷つけている。美鈴には悪気はない。むしろ可能な限り遠藤にやさしい口調で断ったつもりでいる。


 美鈴に相手にされなかった遠藤は「一体なぜだ?!」という、いまだに理解不能といわんばかりの表情で自分の席へと戻るしかない。プライドが相当ズタズタにされている様子が誰の目にも明らかであるのに、遠藤自身はその内心を周囲に悟られてないと勘違いしている模様。クラス全体の得も言われぬ生暖かい視線を一身に受けながら、彼は席に着いてホームルームを待つのだった。

 


 午前中の基礎訓練と専門実技実習が終わり、昼食兼昼休みの時間となる。1年生のどの生徒もなるべく早めに昼食をとって、午後は少しでも早くダンジョンへ向かおうと準備をする。


 Aクラスでは、ロッカーに仕舞っておいたスポーツバッグからヘルメットとプロテクターを取り出して体に装着しようとするカレンがいる。他の生徒も大体彼女と同様に装備や武器の点検を開始している。



「神崎さん、今日は僕たちのパーティーに所属してもらうから、いつものようによろしく頼むよ」


 そこに現れたのは、どんな巡り合わせだかまたもや遠藤明。カレンダーに記載された順番では本日は彼のパーティーにカレンが所属する日なので、リーダーとして確認に訪れたよう。



「ああ遠藤君、ゴメンナサイ。今日から他のクラスの人たちとパーティーを組むから、このクラスの人たちとはもう一緒に行動できなくなりました」


「そ、そんな… 回復担当の神崎さんがいなかったらもしもの時にどうすればいいんだ?」


「今まで順番で私がいないことのほうが多かったはずですから最初からいないつもりでどうか頑張ってください」


「神崎さん、ちょっと待ってくれ!」


「急ぎますので悪しからず」


 こうして遠藤は、教室を出ていくカレンの後姿を茫然と見送るしかなかった。全身が燃え尽きた真っ白な灰になって口から白い何かが出掛かっている。あまりにも哀れ過ぎてその姿はクラスの同情を… 全然集めてはいない。


 女子たちは遠慮なしに遠藤に指をさして声をあげて笑っているし、男子は「俺たちの順番じゃなくてよかった」と胸を撫で下ろしている。


 この出来事がきっかけで翌日からAクラス内で遠藤のあだ名が広まっていく。


 〔1日に2回フラれた男〕


 当然この噂は尾ヒレがついて、他のクラスにも広がっていくのであった。


 




   ◇◇◇◇◇






 昼食を手早く済ました… いや、実際には桜の大食漢ぶりと明日香ちゃんのデザート選びに時間がかかって他の生徒たちに比べて大幅に後れを取った聡史たち五人は、午後1時を15分以上回ってからダンジョン管理事務所へと顔を出す。


 すでに1年生の大半の生徒はカウンターで手続きを終えてダンジョンに入り込んでおり、まだ列に並んでいるのは数えるほどのパーティーを数えるのみ。



「まったく、明日香ちゃんがデザート選びで散々迷っていたせいで私たちが出遅れてしまったではありませんか」


「桜ちゃん、よく人のせいにできますね。食べ終わったのは桜ちゃんのほうが遅かったじゃないですか」


「20秒の差など、気にしてはいけませんわ」


「それでも、桜ちゃんのほうが遅かったのは事実ですよ~」


 どちらにしても五十歩百歩! たかが20秒の差などこの場で議論してもどうなる話でもない。だがついつい明日香ちゃんをイジりたくなってしまう桜は、こうしてチョッカイを出してしまう。明日香ちゃんもそれがわかっているから、逆に桜をイジり返している。この二人は赤い糸で結ばれているのではないかと疑ってしまうほど本当に仲がいい。子ネコ同士でじゃれ合いをしているような微笑ましいこのやり取りに聡史と美鈴は暖かい視線を送っている。



「遅れたついでだから、中に入る前に打ち合わせをしておこう」


「聡史君、何の打ち合わせかしら?」


「美鈴ともあろうものが大丈夫か? 今日からカレンが一緒なんだから、各自の能力特性や役割分担をしっかり確認しておかないと、いざという場面で困るだろう」


 聡史は「こんなの当然だろう…」という表情で美鈴に説明するが、逆にこんなわかりきっている内容をわざわざ説明された美鈴のほうが当惑している。



「聡史君と桜ちゃんがいて役割分担なんか必要があるのかしら?」


「私としては、全部桜ちゃんに任せて楽がしたいですよ~」


 明日香ちゃんもここぞとばかりに、堂々と手抜き宣言をする始末。


 このパーティーって本当に大丈夫? と、カレンの胸中には何度目かのさざ波が湧き立つ。初めてこのメンバーとパーティーを組むだけに、聡史と桜のやり方を理解していない分だけカレンは多少不安を抱えている。



「ほら、見てみろ。カレンが不安そうな顔をしているぞ」


「そうですわね。ここはお兄様が言う通りにしましょう ステータスの確認などもしておきたいですし」


 普段は真っ先にダンジョン内部へと突撃する桜までが兄に賛成票を投じたので話の流れは大きく傾く。一行はカウンターで手続きを終えると、待合スペースの奥に設置されているミーティングルームへ。この部屋は事前打ち合わせが必要なパーティーのために無料で貸し出しされており、冒険者にとっては中々重宝する設備となっている。


 ミーティングルームの内部はテーブルと十人ほどが座れるイスが置かれているだけのシンプルで飾り気がない部屋。白い壁に囲まれたさほど広くないスペースはカウンター周辺と同質の白いリノリュームのタイルが敷かれて、青と白で統一されたテーブルとイスのコントラストと相まって無機質な印象を与える。



「それじゃあ、互いの戦闘力を確認しておくために順番にステータスを開こうか。まずは、俺と桜からだ。ステータスオープン」


「はい、お兄様。ステータスオープン」




 【楢崎 聡史】 15歳 男 


 職業     魔法剣士


 レベル     32


 体力     412


 魔力     356


 敏捷性    321


 精神力    127

 

 知力      50


 所持スキル  身体強化レベル5 剣術レベル7 無詠唱魔法技能レベル3 神速レベル3 神足レベル3 気配察知レベル3 暗視レベル3 全属性初級魔法レベル5





 【楢崎 桜】  15歳 女


 職業        拳聖


 レベル       34


 体力       485 


 魔力       156


 敏捷性      683


 精神力      198

 

 知力        43


 所持スキル  身体強化レベル7 拳闘術レベル8 神速レベル5 神足レベル5 気配察知レベル7 広域索敵レベル2 暗視レベル3 視覚強化レベル3 聴覚強化レベル3 嗅覚強化レベル3 精神耐性レベルMAX 




 聡史と桜が開示したステータスを見てカレンが一瞬、おや? という表情に変わるが、すぐに元に戻っている。彼女は異世界で散々暴れまくった母親の大よその状況を耳にしているだけに、帰還者であるはずの二人の数値をどうも物足りなく感じているよう。だがそこは努めて平静を装ってポーカーフェイスに徹する。


 対して、美鈴と明日香ちゃんは…



「何回見ても、信じられない数字が並んでいるわよねぇ~。桜ちゃんの本当のステータスを初めて見たけど、聡史君すら上回っているのね」


「本当ですよ~。桜ちゃんはこの前9がいっぱい並んだステータスで笑いを取ろうとしましたけど、これが本物なんですね」


 この二人は相変わらずの勘違いぶり。まあそれも仕方がないかもしれない。聡史兄妹が異世界からの帰還者などという驚くべき事実は家族と限られたダンジョン対策室のメンバーしか知り得ないのだから。ちなみに聡史から注意を受けていたため、桜も画面を初期化した異世界に渡る前のステータスを披露している。



「俺たちのはこんなもんだな。次は美鈴と明日香ちゃんの番だ」


「「はい、ステータスオープン」」




 【西川 美鈴】 16歳 女 


 職業     ……


 レベル    16


 体力     97


 魔力    504


 敏捷性    64


 精神力   180

 

 知力     91


 所持スキル  火属性魔法 闇属性魔法 無属性魔法 魔力ブーストレベル2 魔力回復レベル2 術式解析レベル6 言語理解レベル1





【二宮 明日香】  16歳 女 


 職業      魔法少女・・・・・・ だったらいいな


 レベル       15


 体力        64


 魔力        67


 敏捷性       35


 精神力       37

 

 知力        37


 所持スキル   魔法少女への願望 精神耐性レベル5 槍術レベル2




「美鈴さんは、ずいぶん数値が上昇しましたよ~」


「明日香ちゃんだって、すごく成長しているじゃないの。スキルも獲得しているし。精神耐性が特に高いわね」


「あー(遠い目)」


 明日香ちゃんの脳裏には来る日も来る日も繰り返される桜との筆舌に尽くしがたい訓練光景が浮かび上がっている。あれだけの目に遭っているんだから、スキルのひとつもオマケしてもらわないとやってられないだろう。もし明日香ちゃんが中年サラリーマンだったら、尋常ならざる業務の多忙さに嫌気がさして浴びるほどヤケ酒を飲んでいるかもしれない。それほどブラックな訓練状況が垣間見られる。


 まあそれよりも明日香ちゃんのステータスを見ているカレンがどうやら何か言いたそう。



「あの、明日香ちゃんの職業は…」


「カレンさん、どうかそこは聞かないであげてください」


 カレンの質問を桜が遮る。本人すら返答に困る質問をこの場でブッ込むのは酷な話だという、桜の親友としての思いやりであろう。カレンもなんとなくその辺の事情を察した模様。



「それじゃあ、最後にカレンだな」


「はい、ステータスオープン」



【神崎 カレン】  16歳 女 


 職業        ……


 レベル        7


 体力        35


 魔力       102


 敏捷性       20


 精神力       82

 

 知力        73


 所持スキル   回復魔法ランク3 状態異常回復ランク1 解毒ランク1 精神力上昇ランク1 物理防御上昇ランク1 魔法防御上昇ランク1 魔力回復ランク1




「お兄様、これは…」


「うーん… どこからどう見ても回復系、それも単純なヒーラーではなくて僧侶系のスキルが並んでいるな。職業はまだ不明だけど、いずれレベルが上昇したらそっち系統の職業が表示されるんじゃないかな」


 聡史と桜は納得顔でカレンのステータスを眺めている。一方の美鈴と明日香ちゃんは…



「美鈴さん、ステータスって、人によって全然違うんですね」


「そうね、こんなステータスがあるなんて全然知らなかったわ」


 二人とも、カレンの極めて特殊なステータスに驚きを隠せない。これまで目にしたステータスは戦闘職か魔法職ばかりで、このような特殊な回復職のパーソナルデータは初めてのよう。


 実は生徒会にデータベースとして送られていたカレンの情報は何者かが手を加えた偽物であった。これに関してはカレンの特殊性を秘匿しておきたい学院上層部が偽情報を流していたと考えられる。一番怪しいのは当然カレンの身内の人間であろう。あの常に厳めしい顔つきの学院長は自分の娘に対しては意外と過保護なのかもしれない。


 一通り各自のステータスの公開を終えると、カレンが口を開く。



「皆さんのレベルが高くて驚きました。私が足を引っ張りそうでちょっと不安です」


「桜ちゃん、カレンさんが不安がっていますから、やっぱり今日は桜ちゃんが全部片づけてください」


 相変わらず人任せにしたがる明日香ちゃん、だが聡史にあえなく却下される。



「今日は、3階層で美鈴と明日香ちゃんに戦ってもらうぞ。桜と俺は補助役だからみんなで協力して頑張ってもらいたい。カレンはこのパーティーのやり方に早く慣れてくれ」


「えーと、聡史さん… 今、3階層と聞こえた気がしますが?」


「そうだぞ。何か問題はあるか?」


「どうにも問題だらけのような気がしますが仕方がありません。私、頑張ります」


 魔法学院の一般生徒の常識から抜け切れないカレンにとっては前途多難なスタートかもしれない。だが兎にも角にもこのパーティーに所属すると決めてしまった以上、いまさら泣き言などいえない。



 こうして、その他の細々した話は適当に済ませて一行はゲートをくぐってダンジョンへと足を踏み込む。



「打ち合わせ通り、索敵は桜に任せる」


「お兄様、最短距離で進みますわ」


 すでに他の生徒パーティーは1階層の各方面に散っており、入り口付近に人の姿は見当たらない。桜は歩く足を速めて通路をグングン進んでいく。時折姿を現すゴブリンを次々に蹴散らしながら、約20分で2階層へと降りていく階段へ到着する。



「はあ、歩くだけでキツかったです」


 ここまでの行程でカレンひとりだけが息を切らしている。美鈴と明日香ちゃんは桜のペースにだいぶ慣れてきたのでこの程度はどこ吹く風の様子。だがカレンは知らない。このパーティーの本領はこの階段を下りてからスタートする。



「カレン、遠慮しないで水分を取っておくんだ」


 聡史がアイテムボックスから取り出したペットボトルを差し出すと、カレンは右手で受け取る。



「ありがとうございます」


「回復役が一番先にバテていたらシャレにならないからな」


 よく冷えている水で喉を潤すと、カレンは生き返ったような心地を感じる。その横では明日香ちゃんが…



「お兄さん、私も冷たい水が飲みたいですよ~」


 だが桜が横から口を挟んでくる。その手には見覚えがある物体が握られており…



「明日香ちゃんには、これをお勧めしますよ」


「ヒィィィィィィ、絶対に飲みませんからぁぁぁぁぁ!」


 桜が手にしているのは毎度お馴染みポーションが入っている小瓶。思いっきり明日香ちゃんに拒否されたので、渋々桜がビンを仕舞い込む。その様子を見てようやく明日香ちゃんが落ち着きを取り戻している。一体どれほどのトラウマを植え付けたのだろうかと、聡史と美鈴はいわくありげな表情。



「はあ、寿命が縮みましたよ~。うーん、安心したらなんだか腹が立ってきました。こうなったら晩ご飯の時に、桜ちゃんのお皿にピーマンを放り込んであげましょう」


「ヒィィィィィィ! 明日香ちゃん、それだけはどうか止めてくださいぃぃぃ!」


 一見怖いものなしの桜ではあるが、ピーマンだけは大の苦手。あの苦さがどうにも口に合わないらしい。ピーマンが一切れでも皿に乗っているだけで食欲を失ってしまう程不倶戴天の敵とも呼べる食材。付き合いの長い明日香ちゃんは桜の弱点もしっかりと把握しており、ついに我慢できずにこの場で切り札を切ってくる。 


 そして思わぬ逆襲にあって、珍しく今度は桜が涙目になる番であった。

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