80 間に合ってくれ
【『落研ファイブっ』 第二ピリオド終盤 午前十時二十七分】
〔多〕「よっしゃああああああ!」
時は第二ピリオド終了直前。
追加点を取ろうとかさに掛かって来た『うさぎ軍団』の
〔仏父〕『五郎君すごいおおおおおお!』
〔ピ研〕『すごいおおおお!』
すっかり『しこしこさん』として認知されている仏像の父のボルテージも最高潮である。
〔餌〕「うわっ。さっきまで豪雨だったのに今度は日照り?! こんなの体がおかしくなるよ」
第二ピリオドの終了と共に、九個分かと言うほどの太陽が雲を
〔服〕「豪雨の後にこのカンカン照りはきつい」
モアイのような顔で鉄人レベルにタフな服部でさえ、疲労の色は隠せない。
第三ピリオドに向けて檄を飛ばそうとした
〔多〕「雷警報が解除されてピッチ整理が終わるまで試合は一時中断。今のうちに手洗いや水分補給を済ませておけ。十分後に作戦会議だ」
〔シ〕「もっと前に試合を中断しろよな。もう晴れたじゃん」
青あざをすねにいくつもこしらえたシャモが、ずぶ濡れのタオルでネギ坊主頭を拭く。
〔下〕「やっぱり『うさぎ軍団』さんは知り合いをスカウトして、室内練習場で猛特訓してきたらしいっす。正直こっちもギリギリっす」
重い砂の中を何度も上下運動を繰り返した
〔仏〕「知り合いってサッカー関係の知り合いだろ」
〔下〕「サンフルーツ広島ユースとインハイ仲間だそうっす」
〔仏〕「本職じゃねえか。そいつら相手にここからどう追加点を取るんだよ」
仏像が珍しく弱音を吐いた。
〔飛〕「それが松田君が――」
飛島が困惑顔で、自分のスマホを仏像に見せた。
※※※
〔松〕(
深々と神妙な顔でお辞儀をする松尾がそんな事を考えているとはだれ一人思わず、会場は総立ちで松尾に盛大な拍手を送っている。
舞台袖に入った松尾は、失礼しますと言うなり胸を押さえてお手洗い方面へと駆け出した。
〔指〕「あの松田松尾君でさえ、さすがに相当なプレッシャーだったろうね」
〔ス〕「そりゃまだ高校一年生ですもの。少しは子供らしい面が見えてかえって安心しましたよ」
お手洗いに駆け込んでいるであろう松尾をほほえましく見送ると、二人は次なるコンテスタントを迎え入れた。
〔松〕(間に合え、間に合ってくれ)
二十七分ジャストでプロコフィエフのピアノ協奏曲第三番を弾き終え、礼をして舞台袖にはけて二十八分。会場を出て駅まで全力で十分、それから――。
松尾はタキシード姿で会場を飛び出すと、人気の少ない大通りを駅方向へと全力で走り出す。
タキシードの下に着こんだ赤いうどん粉病Tシャツが肌にまとわりつくのを感じつつ、いらつきながら信号待ちをしていると。
〔松〕「えっ、何で?!」
大きなクラクション音と共に、白魚のような手が松尾を白いスポーツカーに飲み込んだ。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます