80 困惑
こちらは『落研ファイブっ』VS『うさぎ軍団』の試合会場。
相手ピヴォ(FW)につり出されたゴレイロ(GK)長門が、左足首の激痛に崩れ落ちる。
〔う〕「よっじゃああ。あど二点ば取るどおお」
ゴールをもぎ取ったうさぎ軍団の雄たけびが、長門の耳に空しく響く。
時は第二ピリオド後半十分を経過した、午前十時二十五分過ぎである。
〔樫〕「多良橋先生、どうしますか」
まったく機能しないピヴォ(FW)のシャモと交代しかかっていた応援部長の
〔多〕「二点、いや三点頼む。
第二ピリオド終了直前で一点を失った『落研ファイブっ』監督の多良橋は、樫村の背中を力強く押す。そして長門の代わりに『奥座敷オールドベアーズ』でゴレイロ(GK)経験のある応援部員を送り出した。
※※※
〔多〕「
一点を追う『落研ファイブっ』。
第二ピリオドの残り時間はロスタイムを入れて残り二分。
〔う〕「あど二点ば取るどおおおお!」
対する『うさぎ軍団』も攻撃こそ至高の防御とばかりに、雨に濡れた砂をものともせずに『落研ファイブっ』に襲い掛かる。
応援部長であり『奥座敷オールドベアーズ』の控えでもある
〔多〕「よっしゃ!」
多良橋が叫んだ瞬間、樫村のポストプレーから下野が放った重いシュートは相手ゴレイロ(GK)の太ももに当たって跳ね返る。
〔仏父〕『五郎君すごいおおおおおお!』
仏像が顔ごと砂に突っ込むようにヘディングすると、ゴールを告げる笛が鳴った。
〔仏〕「後一点!」
同点弾を決めた仏像は高々と右手を上げる。
奇しくも、コンクール会場にて演奏を終えた松尾が右手を振り上げたタイミングである。
そして、『落研ファイブっ』『うさぎ軍団』は互いに追加点を許さぬまま、第二ピリオド終了の笛を聞いた。
〔餌〕「うわっ。さっきまで豪雨だったのに今度は日照り?! こんなの体がおかしくなるよ」
〔服〕「豪雨の後にこのカンカン照りはきつい」
笛が鳴ると共に、九個分かと言うほどの太陽が雲を蹴散らし濡れたピッチを瞬く間に乾かしていく。
モアイのように鉄人レベルにタフな服部でさえ、疲労の色は隠せない。
〔多〕「泣いても笑っても後一ピリオド、十二分ですべてが決まる! ってちょっと待って」
第三ピリオドに向けて
〔多〕「雷警報が解除されてピッチ整理が終わるまで試合は一時中断。今のうちに手洗いや水分補給を済ませておけ。十分後に作戦会議だ」
〔シ〕「もっと前に試合を中断しろよな。もう晴れたじゃん」
青あざをすねにいくつもこしらえたシャモが、ずぶ濡れのタオルでネギ坊主頭を拭く。
〔下〕「やっぱり『うさぎ軍団』さんは知り合いをスカウトして、室内練習場で猛特訓してきたらしいっす。正直こっちもギリギリっす」
〔仏〕「やつらの知り合いとなれば、サッカー関係だろ」
〔下〕「サンフルーツ広島ユースとインハイ仲間だそうっす」
重い砂の中を何度も上下運動を繰り返した下野は、途中まで温存されていたにも関わらずかなりな疲労を訴えている。
〔仏〕「本職じゃねえか。そいつら相手にここからどう追加点を取るんだよ」
〔飛〕「それが松田君が――」
珍しく弱音を吐いた仏像に、飛島が困惑顔でスマホを見せた。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
(2024/8/23 前半部を79話に移行。構成修正中 8/31 「間に合ってくれ」から改題)
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