『落研ファイブっ―何で俺らがサッカーを？！』

69 しこしこさんとオタ活夫婦

　ざるうどんしこしこ＠日吉大経済卒こと仏像の父の手になる怪文書をのぞき込んだ母親に、シャモは激しく頭を横に振る。

〔シ〕「俺が開いたページじゃねえよ。それに母ちゃんにしたって、父ちゃんに『キリ番リクエスト』をしたのが腐れ縁の始まりでしょ」

　『キリ番』なる単語を知らない世代のシャモは、両親のなれそめのせいで『キリ番』や『隠しページ』に『MIDI』などの無駄知識が豊富である。

〔シャモ父〕「懐かしいなあ。一万ビューのキリ番を踏んだのが母ちゃんでさ。『策権（さくけん）ほのぼの兄弟日常（notBL)』ってリクエストだったんだよな」

〔シ〕「ちょっと言ってることが良く分からない。とにかく、父ちゃんは書き手で母ちゃんが絵師（えし）。三国志の二次創作中堅サークルにのし上がった二人はめでたく華燭（かしょく）の典（てん）を挙げ、一粒種（ひとつぶだね）の漢太君をこしらえたと」

　父からまいう棒を受け取ったシャモは、ハイテンションピーマン研究会モードのままに書き上げられた『ざるうどんしこしこ（以下略）』の電波文に目を通した。

〔シャモ父〕「この前政木（まさき）君のお父さんと呼ぶべきか、しこしこさんと呼ぶべきか。とにかく彼と話をしていたら、その怪文書（かいぶんしょ）に星を三つつけてくれって言われてさ」

〔シ〕「まだつけないの」

〔シャモ父〕「物書きのはしくれとしては、全文読んでからでないと評価はしない主義」

　シャモの父はまいう棒とずんだ棒の残りを冷凍庫にしまうと、シャモの代わりにパソコンの前に座った。

〔シャモ母〕「それにしても、この作品あたしも読んだが――」

〔シャモ父〕「実話だよな。母さん」

　二人は深刻そうにうなずいた。

〔シ〕「じゃ、仏像の父ちゃんの『ロングバケーション』って言うのは」

〔シャモ母〕「リストラされたんだろ」

〔シャモ父〕「名前で検索したらすごい経歴だったけど、しこしこさんが外資系投資会社のCIO（最高投資責任者）だった頃に大へまをやらかしたらしい」

〔シャモ母〕「その相手方がよりにもよって」

【敵対的TOBのmbo戦略に大誤算。風雲児H&Tキャピタルマネジメントに膝を屈した名門企業】

　仏像の父が『やらかした』案件の検索結果をシャモ母が見せると、シャモは頭を抱えてパソコンの前にうずくまった。

〔シャモ母〕「そもそもあんたが『みのちゃんねる』で時事メタル漫談（まんだん）をやるって言い出したんだろ。それをめっきり情報感度（じょうほうかんど）が低くなってまあ」

〔シャモ父〕「『新香町美濃屋（しんこちょうみのや）』の宣伝なんだから、今のスタイルの方がこっちは助かるが」

〔シ〕「そう言えば餌（えさ）の様子もおかしかったんだよ。いつもなら行くはずの寄席（よせ）を、用事があるからって連続で蹴ったし。ロレックスをつけるわ、マジックテープの財布だったのがやたら高級そうな長財布になってるわ。パパ活目撃情報もしまいには飛び出す始末で」

〔シャモ母〕「仕事で日本に滞在していたお父さん――H&Tキャピタルマネジメントの伴林太郎（はんりんたろう）共同代表――と密会してたって訳だね」

〔シャモ父〕「マフィアに襲われてお母さんと離婚したんだっけ」

　シャモは小さくうなずいた。

〔シ〕「それでなくても落研に二学期から入る予定の一年生も早速問題起こしてるし、落研を引き継ぐ餌と仏像にそんな遺恨（いこん）が出来るなんて。俺安心して引退できないじゃん」

　シャモはサイト登録すると、父親の代わりにざるうどんしこしこの怪文書に星三つを付けた。

　これで【無職輪廻（むしょくりんね）――外資系スーパーエリートリーマンだった俺は強制無職（きょうせいむしょく）リセットされ、スキルゼロからダンジョン配信で成り上がり悪役令嬢（あくやくれいじょう）と婚約してざまあしようと思ったら――】は毎日更新十日目にして星三桁の大台である。

〔シャモ母〕「いずれ互いが知る事にはなるだろうが。あんたは黙っとき。飛んで火にいる何とやらになりたくないならな」

　シャモは無言でうなずくと、力なく立ち上がった。

※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。