83 サングラスの男

〔三元父〕「お、やってるやってる」

〔み〕「こんな暑い中で。ジジババどころか子供もおっ死んじまう」

 注文通りの回復食が入った弁当と水を台車に乗せた三元さんげんの父は、日傘ひがさをさしながらよたよたと歩くみつるを何度も振り返る。


〔三元父〕「母さん、運んだらすぐ家に帰ろう」

〔み〕「そうは言っても時坊の友達の晴れ舞台じゃないか。ちっとは見てやるのが筋ってもんだろ」

 みつるを振り返りながら歩くものだから、キンキンに冷やしたタオルおしぼりを乗せた袋が台車から落ちてしまった。


〔?〕「ちょっとそこのお方。おしぼりを落とされましたよ」

〔三元父〕「ありゃ、済みません。わざわざありがとうございます」

 味の芝浜しばはまと大書された台車を見た男は、ビーチサッカーの試合はどこで行われているのでしょうかとたずねた。


〔み〕「お兄さんもビーチサッカーの試合を見に来たのかえ」

〔?〕「知人にちょっと顔を出さないかと誘われまして」

 男は濃いサングラスを掛けたまま、言葉少なに答える。




〔三元母〕「こっちこっち。試合が遅れて今第二試合の終わりかけなのよ」

 競技関係者席に近づくと、三元の母がみつるを呼んだ。

〔?〕「それでは私はここで」


〔み〕「あんな所に隠れなくたって」

〔三元父〕「これだけ暑いんじゃ、ああして日陰ひかげにいた方が利口かもしれないよ」

 建物の日陰にそっと陣取った男をちらりと見ると、二人は三元さんげんの母の隣に座った。



※※※



〔松〕「うおおおおおおおっ。さすが下野しもつけ君っ」

 第二試合再開後。

 第三ピリオドの終了間際、交代で連携れんけいの整わない相手フィクソとゴレイロの間をすり抜けるように下野しもつけがダイビングヘッドを決めた。

〔多〕「これで逆転! 乗れ乗れ、一気に行けええええっ」


〔仏像父〕「すごいおーっ」

〔ピ〕「いけるおおおおおお」

〔松〕「おおおおおっ」

 ちゃっかり『しこしこさん』のペースに乗っかっている松尾を、藤崎しほりがくすくす笑いながら見ている。


〔シャモ父〕「お宅の息子さん、どうして代表落ちしたんでしょうね。すごいわ」

〔下野父〕「あの頃はちょうど体が変わる頃で。ビーチサッカーをやって正解でした。馬力が付いた」

 サッカー狂の父親同士、すっかりサッカー談議に熱が入って一時間以上が立つ。



〔多〕「ロスタイム含め後一分。Go up!上がれっ

〔う〕「うぼぼおぼごごおおおっ! もう二点どっでぎっぢり三回戦いごおや」

 多良橋たらはしが大声で叫ぶと同時に、ロングシュートを決めた『うさぎ軍団』から歓喜の雄たけびが上がる。


〔多〕「ロスタイムはほとんど無いな」

 振出しに戻った試合に多良橋たらはしが延長戦を覚悟をした瞬間、高い笛が吹かれた。


 シャモと長門の代わりにピヴォ(FW)に入った応援部の樫村が、神妙な顔で砂山を作りボールをセットすると――。

〔?〕「よっしゃーーーーっ!」

 試合終了の笛寸前にえさがきっちりと一点をもぎ取ると、隠れるように試合を見ていた男が全身で喜びを爆発させた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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