56-3 あんたのケツ圧何ボルト

〔餌〕「Yo Yo。あんたのケツ圧何ボルト」

 フリーキックをもらった平和十三ピンフジュウソウ学園のピヴォ(FW)がボールをプレースした瞬間、えさラップが炸裂さくれつする。

〔餌〕「俺のケツ圧百万ボルト。Understand?」

 妨害行為ぼうがいこういとして笛を吹かれるも。


〔餌〕「Yo Yo 主審さん あんたのケツ圧何ボルト」

 えさは全く不要なイエローカードを受けてしまった。





〔餌〕「Hey U ゴレイロ(GK)さん。あんたのド玉を打ち抜くZe」

 ふざけているように見えてきっちりPKをアウェーの笛からもぎ取ったえさ

 チェケラッチョポーズを決めながらボールに軽く足を乗せ、ライナー性のボールをゴレイロ(GK)の脇腹すれすれに打ち抜く。




 しぶい顔で餌の得点を祝福した仏像に、餌はあろうことかラップを再開した。

〔餌〕「Yo Yo 子猫ちゃん。俺のパンダキックにひれ伏せYo」

〔仏〕「うぜえ。子猫扱いすんな」


〔仏〕「矮星わいせい。俺と餌を交代させて。あいついくら何でもふざけすぎ」

〔多〕「良いの。失点でもしたらずっと子猫扱いされちゃうよ」

〔仏〕「失点しねえで得点すりゃ済む話だろ」

 仏像の目が完全にスノボ時代のそれに変わっていた。




 一ゴール一アシストを決めた餌をねぎらうように下げると、多良橋たらはしは仏像を右アラ(MF)に投入した。


〔餌〕「全く機能していないシャモさんを下げてノートを取らせて、代わりに飛島君投入でいいじゃないですかっ。何で仏像と交代なのーっ」

〔服〕「政木まさき君を子猫ちゃん扱いするからだよ」

 あの人恐ろしくプライド高いよねと言いつつ、服部がえさに水を差しだした。


〔多〕「まあそう怒るなって。粟島あわしま監督にうちの秘密兵器を長時間さらしとくのもクレバーじゃないと思ってな。Understand分かった?」

 多良橋たらはしがややえさラップ気味に手を広げると、えさが仕方ないですねと言いつつベンチに腰を下ろした。




〔長〕「それにしても、政木まさき君は完全にスイッチが入ったね」

〔服〕「今までの試合は彼にとって全部『流し』だったって訳か」

 三トップ気味に波状攻撃はじょうこうげきを繰り広げる│平和十三ぴんふじゅうそうのコースを消し、拾えば重い砂をものともせずミドルシュートをバンバン放つ。


 ミドルシュートのこぼれ球を拾えないシャモに代わって、多良橋たらはし長門ながとをピヴォ(FW)で投入した。

〔多〕「残り一分。一発決めてこい」

〔長〕「打ちまくります!」

 背中を押された長門ながとは、ひときわ大きく叫んでピッチに入った。




〔シ〕「もうこりごり。本番は戦術分析官でヨロ。松田君来れないんでしょ」

〔多〕「松田君が来れないんじゃ、絶対どこかで出ざるを得ないよ」

〔シ〕「じゃ、一回戦敗退で」

〔下〕「絶対ダメっす。まっつんに成り代わってお仕置きっす」

 下野しもつけから強い抵抗を受けたシャモは、マジ俺ら落研なんだけどと天を仰ぐ。




〔多〕「Go for itいけーっ!」

 仏像のロングフィードを長門がポストし、走りこんだ仏像がきっちりと一点をもぎ取った。


〔多〕「ロスタイム何分」

〔飛〕「三十秒です」

〔多〕「もう一点! 押し込めっ」

 平和十三学園ぴんふじゅうそうがくえんゴール前に倒れこみながら、長門ながとは足でボールをカニばさみにする。

〔シ〕「あんな肉弾戦にくだんせん、完全文化系の俺にできると思う」

 シャモが呆れながら長門ながとの泥臭いプレーを見守っていると、長い笛が鳴った。



※※※



〔粟〕「悔しいなあ。ああ全く悔しいなあ。うちの精鋭せいえいを五人も貸したとはいえ、四点も取られるなんて。多良橋たらはし先生、明朝の試合はうちの子たちを回収しても良いですよね」 


 予想外の大敗を食らった粟島あわしまは、多良橋たらはしと交わした取り決めを撤回てっかいしようとした。


〔多〕「うちの服部君が太ももをやっちゃってますからね。とりあえず服部君の代わりに、右アラとフィクソができる子を二人は欲しい所です」

〔粟〕「仕方ないですね。では二人だけですよ」

 粟島あわしまの指導が服部の負傷の遠因だと匂わせた多良橋たらはしに、粟島はヌートリアのような顔をゆがめた。


〔粟〕「決着は明日早朝の試合で。必ず勝ちますよ」

〔多〕「譲りませんよ」

 二人は固い握手を交わした。



※※※



〔多〕「十五分後に回復食兼夕食だから食堂に行く事。それから個室にもシャワー室はあるそうだが使用禁止だと。夕食時に粟島監督から大浴場の使用案内と消灯等についての話があるそうだ」


〔仏〕「大浴場でノーサイド。皆で裸の付き合いだなんぞほざいたら、俺は帰宅するからな」

 歩きながら告げた多良橋たらはしに、仏像があからさまに警戒の声を上げた。


〔餌〕「まったく子猫ちゃんはビビりだからもう。粟島あわしま監督はそんなケツの穴の小さい男じゃないって」

〔仏〕「何で俺を子猫ちゃん扱いするんだよ。ふざけんな」

〔餌〕「だって粟島あわしま監督に警戒して『シャー』しまくってるじゃん」

〔仏〕「お前らが警戒感なさすぎなの」

 大人の話にうとい飛島もろくな話では無いことだけは分かるようで、黙ってうつむいた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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