51 『普通の』恋
いつもの特急に乗るメンバーと駅で別れると、深刻な顔をしたシャモは松尾を連れて海沿いの神社へと向かった。
〔松〕「シャモさん、用事って一体何ですか。皆の前では話せない事でも」
〔シ〕「えっとな。どう話したら良いんだか。あ、そうだ。松田君ってGW合宿の時に実家に帰ってたじゃん。実家に帰ってどこかに出かけたりした」
〔松〕「
要領を得ない問いを投げかけられた松尾は、首を傾げつつ答えた。
〔シ〕「へえ。遊園地か何か。
〔松〕「いえ、霊園です」
それきり会話が途切れたまま、二人は海沿いの神社の
〔シ〕「えっと、あの。藤巻しほりって分かる」
〔松〕「
〔シ〕「あの死にかけ牛筋ばあさんじゃなくて、俺が『SNSブロック』された藤巻しほり」
シャモは深刻そうな顔でじっと松尾を見つめる。
〔松〕「そりゃ分かりますよ。『お百度参り』さんでしょ。あんなにべったり付きまとわれて困っていたくせに、いざブロックされたらぎゃーぎゃーと。美人大富豪ご令嬢に好かれていたのにもったいない事を」
〔シ〕「ねえ、それ本当に本当なの。俺の記憶と違うんだよ。ついでに言えば、今日は本当は火曜日なの」
お茶をぐびりと飲んで答えた松尾に、シャモが思わず食いついた。
〔シ〕「俺は試合後に皆と一緒に
松尾は要領をえないシャモの話しぶりに
〔シ〕「試合後にしほりちゃんに別れ話をして、それでしほりちゃんがいきなり抱き着いてきたから振り払って。それを熊五郎さん達に見られて、そこで『白蛇の塚守り』ってキーワードを聞かされて。それで味の芝浜で会議をして家に帰って。徹夜で調べてコンビニに行ってバイクで
〔松〕「ちょっと待って話が見えない」
※※※
シャモは神社のベンチに座って、しほりと別れた本当の
〔松〕「そんなバカな。今日は月曜日。シャモさんが超がつく
面倒臭そうに松尾はためいきをつく。
〔シ〕「でもだったらどうして俺は広島に」
〔松〕「本当に広島に行った証拠はありますか。飛行機や新幹線のチケットとか、その
〔シ〕「ねえよ。
〔松〕「現金で交通費を払ったなら、その分の残金は減ってるはずですよね」
〔シ〕「それが、減ってねえ」
ほらやっぱり、と松尾はベンチから立ち上がった。
〔松〕「人間は嘘をつく生き物です。えっと、シャモさんがって訳じゃなくて。人間の脳は、嘘をつく習性があるのです」
〔シ〕「どう言う事」
シャモはじっと松尾を見上げた。
〔松〕「熱烈に好かれていたしほりさんから突然SNSブロックをされたシャモさんの脳は、事態を受け入れられなかった。そんな時に脳は自分が納得できるストーリーになるように素材を加工して脚色するのです」
そりゃあんなに強引に迫られておいて、いきなりブロックなんて酷いですよねえと松尾はため息をつく。
〔シ〕「ちがうんだって。俺が振ったの。それで」
〔松〕「『広島で出会ったヒバゴンに従って
バカな、とシャモは叫ぶも。
〔松〕「そう思うしかありません。だって『今は』現に月曜日なのですから。何にせよ、今のシャモさんに必要なのは今日が月曜日である事を受け入れる事。それから、しほりさんにブロックされた現状を認める事」
松尾に賛意を表すように、境内の
〔松〕「それで、シャモさんは藤巻しほりさんとやり直したいのですか。あれだけ彼女から逃げ回っていたくせに」
少しとげのある松尾の質問に、シャモはしばらく言葉を選んでいた。
〔シ〕「それが分からねえ。いきなり訳の分からねえ状況にぶちこまれてパニックになって、分からねえままどんどん事が運んでいくのがどうしても受け入れられなくて。俺が欲しかったのはただ『普通の』恋だったんだよ」
『普通の』恋ねえ、と松尾は深いため息をついて金色に染まる横浜港を見た。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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