52-1 本日のお相手は幼女?!

 夏至げしを少し過ぎた海岸は、朝七時過ぎにはすっかり日が高い。

 初の練習試合を行ったあの海岸に、『落研ファイブっ』が集結した。



〔シ〕「今日はエロカナ軍団を呼ばないのな」

〔餌〕「あの女どもの相手をするこっちの身にもなってくださいよ」

 横で柔軟をする餌にたずねるも、えさは断固拒否の構えである。


〔三〕「何だかんだでしほりちゃんに未練たらたらなんだろ。SNSをブロックされたんだからあきらめろって」

〔餌〕「その件ですが、あの後、『お百度参り』こと藤巻ふじまきしほりが海外留学のためにいきなり退学したんですって。だからエロカナ達も連絡のつけようが無いって」


〔仏〕「何その全力逃亡。シャモ、お前記憶がないうちに何をやらかしたんだ」

〔シ〕「こっちが聞きてえよ」

 俺が結局覚えているのは簿記ぼきと英会話に中国語会話初級の知識だけかよと、シャモはやけくそ気味に自嘲じちょうした。



〔シ〕「それにしても松田君は相変わらず大荷物だね。今日はどこに行くの」

〔松〕「午後から新百合ヶ丘しんゆりがおかです。えっと、柿生かきおの近くです。柿生川かきおかわ小OB会の」

〔下〕「柿生川小OB会はあの後もビーチサッカーやってるんすかね」

 虐殺ぎゃくさつスコアで叩きのめした挙句棄権きけんに至らしめた張本人である下野しもつけが、松尾の大荷物をしげしげと見つつたずねた。



※※※



〔桂〕「お早うございますー! 相変わらず早いですねえ」

 長袖Tシャツにカーゴパンツ姿のかつらの後ろに、わらわらと幼稚園児から小学生ぐらいの子供たちが数人の大人と共につき従っている。


〔赤〕「はーしーらーなーい! ちーちゃんそれポイしなさいっ」

 赤うさぎエプロン姿の若い男性が、空き缶を拾ってしゃぶっていた幼女に駆け寄った。


〔ピ〕「痛い痛い痛い!」

〔緑〕「こらーっ。先生の髪を引っ張っちゃダメでしょ。ごめんなさいは」


〔仏〕「オイちょっと待て。いくら俺たちが初心者とは言え、今日の相手はこの幼児共なのかよ。練習ってよりていのいい子守じゃねえか」

 ピンクうさぎエプロンの髪を引っ張り続けるガタイの良い幼女に、目につくものをとりあえず全部める幼児の姿――。


〔天〕「うおーいっ。どすこーい!」

〔子〕「きゃっきゃきゃ」

〔シ〕「まさか天河てんが君って子供耐性高い」

〔長〕「セントーン!」

〔子〕「もう一回! もう一回!」

 こども園の園庭と化したピッチそばで駆けずり回る子供たちに囲まれながら、仏像はすがるように多良橋たらはしを見た。


〔多〕「今日の対戦相手の」

〔仏〕「子供じゃねえか」

 その声に、子供三人にのしかかられていた、うさぎエプロン姿の長身の男性が振り向いた。

 


〔桂〕「今日の対戦相手、『うさぎ軍団』の皆さんだよ」

〔キ〕「おばようございばずうっ。本日ば貴重なお時間を割いで頂きばじで、誠にありがどうございばずっ!」

〔餌〕「湘南弁しょうなんべんですか。ほぼすべての文字に濁点だくてんが振られているような」

〔長〕「そんなしゃべり方をする湘南民しょうなんみんは僕の知る限りはいないよ」

 長門ながとが冷静に突っ込む。


〔桂〕「子供たちの体作りの一環として、ビーチサッカーを取り入れるそうだ」

〔服〕「サッカー歴のある先生はおられるのですか」

〔キ〕「二人おりばず。みんな、ごっっぢごおおおい」

 呼びかけに応じてうさぎエプロン姿の男性が四人、子供たちを引きつれて集まって来た。


〔キ〕「赤うさぎと青うさぎがサッガー経験者でず。赤うさぎばインバイベスドエイド。青うさぎはサンブルーツ広島ユーズ出身で」

〔下〕「ものすごい経歴。お二人ともどうしてうさぎコスプレを」

〔赤〕「学童クラブの制服なんです」

〔青〕「学童クラブの指導員を所定時間こなすと、大学の単位がもらえるんです」


〔仏〕「ほかのお三方もスポーツ経験者で」

〔キ〕「僕ばデニズ、緑うさぎば柔道黒帯、黄うさぎばボクジングでインダーバイに出場じまじだ」

〔桂〕「職業柄優しそうに見せてるけど、身体能力に運動センスはかなりのものだよ」

 へえと感心したように五人を見る一同の中で、松尾の目は紅一点のピンクうさぎに向いていた。

〔シ〕「えっ、彼女タイプ」

〔松〕「いいえ、どこかで見たような」

 松尾はそれきり彼女から目線を外して、話の輪に加わった。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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