66 畳の上の格闘技

 登校日。それは夏休み中に避けては通れぬうっとうしいイベントである。

 だるい暑いと言い交わす生徒達を横目に、服部とえさは新入部員募集ポスターを手に多良橋たらはしの元へ出向いた。


〔多〕「本当に貼るのか。人が集まりすぎてもさばけないぞ」

〔服〕「そこまで集まらないと思うし、練習と試合見学から入部に至るまでにかなり人数は減ると思います」


〔多〕「で、はんも演芸部門を募集するの。誰が面倒を見る」

〔餌〕「しばらくは三元さんげんさんがにぎわい座で。もちろん二学期からは僕も見ますから」

 知らんぞ本当にと言いつつも、多良橋たらはしは新入部員大募集のチラシを掲示板に貼ることを許可した。




〔多〕「新入部員候補は陸上部の里見さとみに野球部の今井、それからバスケ部の井上。この三人で良いのか」

〔服〕「今の所。顧問の先生には練習参加の許可をいただいています」

〔多〕「抜かりないな。さすが服部君。で、はんの方はあてはあるのか」

〔餌〕「部員のいるクラスや知り合いの伝手つてで、新入部員追加募集の件を知らせてもらっています」

 多良橋たらはしはふむふむと腕組みをすると、出席簿を持って二年七組へと向かった。



※※※



 そしてHR後――。 

 飛島が松尾の元に、生白い顔をした大人しそうな怪我人二人を引き連れて現れた。

 

〔飛〕「落語研究会の新入部員追加募集について、話が聞きたいらしいんだけど」

〔松〕「えささんが窓口だから。今から時間があれば、練習場で。いやその様子じゃ無理ですよね、どうしよう」

 練習場に向かおうとしていた松尾は、えさにSNSを入れた。




〔坂〕「松田君、飛島君、君たち。教室に鍵を掛けるから出なさい。君たちその怪我けがはどうしたの」

 松葉づえをつくメガネ姿の男子生徒に、右手を三角巾さんかくきんで釣った生徒を見て坂崎はぎょっと目を見張る。


〔A〕「部活で。まさかあんな野蛮やばんな部活だとは思わず」

〔B〕「別の部活に変わりたいと思っていたら、落研が追加募集すると聞き」

〔坂〕「どこの部活。いじめでもあるんじゃないだろうね」

〔A〕「いじめではなく、看板かんばんに偽り大ありです」

 坂崎がカギを締めると、えさの甲高い声が響いた。


〔餌〕「競技かるた部の子でしょ。部長から話は聞いたよ」

 ああ、あれは畳の上の格闘技だよと坂崎は大きくうなずいた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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