29-2『普通の』彼女が欲しい

〔松〕「いっただきまーす」

〔三〕「豚足うめえ」

 食事制限の憂さ晴らしとばかりに油ものにがっつく三元さんげんと、ビビりの一同に見せつけるように黒豆に栗きんとんをB定食のチャーハンスプーンで根こそぎ食らいつくす松尾。

 お百度参りがシャモに持たせた愛情たっぷり(鉛のような)三段重は、信楽焼しがらきやきのタヌキの実写版と花粉眼鏡改め野獣眼鏡やじゅうめがねの腹に次から次へと収まっていく。



〔シ〕「助かった。これで食材を無駄に捨てることなく処分できる」

〔山〕「しかしここの所、松田君の野獣化がいちじるしいな」

〔仏〕「取りつかれたように食べてやがる」

 松尾と時々夕食を共にする仏像が、ちょっと変だぞと松尾をしげしげと見る。


〔松〕「最近エネルギー消費が激しくて。成長期ですから」

〔飛〕「それは僕たちも一緒。同級生でしょ」

 母親特製の弁当を食べ終えた飛島も、呆れたように松尾を見た。


〔仏〕「結局シャモは学校が終わったらまた藤巻ふじまき家に行くのか。一応大まかなスケジュールを教えろよ。何かあってからじゃ遅いじゃん」

〔シ〕「何かあってからって縁起悪いな。一応部活の日と休日練習日は藤巻家あっちには行かなくて良い。その他の日は藤巻家に宿泊。何一つ覚えてねえがな」

〔井〕「ちっくしょーっ。大富豪美人御令嬢の家で婿様待遇むこさまたいぐうの半同棲だと。何喰ったら【みのちゃんねる】みたいな人生が送れるんだよお」

 バスケ部の井上がラーメンどんぶりに頭をぶつける勢いで机に突っ伏した。


〔下〕「しっかりするっす。訳アリ御令嬢っす。『お百度参り』っす。普通の彼氏彼女じゃないんっす」

〔シ〕「それなんだよそれ。俺がずっと求めてきたのは『普通』の彼女とお友達から恋愛関係になって『普通』のデートをする事なの。高三の夏までに『普通の』彼女が欲しかったの。コレジャナイの」

〔山/井〕「〽普通の彼女が欲しいー、欲しいー、欲しいー♪ 普通の彼女が欲しいー、ラララ―ラーララーラー」

 シャモの魂の叫びにサッカーのチャントをもじった歌で返す山下と井上に、シャモは返す言葉もなくうなだれた。


〔仏〕「で、シャモは置いといて。えさは今日もエロカナと同伴帰宅どうはんきたくな訳」

〔山〕「そう言えば、江戸加奈えどかなさんとパンダ君ってどんな関係なの」

 山下が、皆が気になりつつ口に出せない疑問をえさに向かってたずねた。


〔三〕「エロカナは餌の事を『変態道への一本道を突き進む同士』って言ってたな」

〔井〕「それって〇〇フレンドって事」

〔餌〕「ちょっと待って、僕にも選択の自由はある。あの人は小学校時代の吹奏楽クラブの先輩なの。エロカナだけは絶対に嫌っ。仁王(阿形あぎょう)だよ!」

 真昼の学食にそぐわない直線的な発言に、さすがのえさも思わず噴いた。


 

〔餌〕「今日もエロカナ母の意向により同伴帰宅どうはんきたくするしか無いんだけど、正直これが続くのは辛い。いっそ天河てんが君に護衛任せるか。エロカナがタイプみたいだし」

 エロカナ軍団とファミレスに行く途中で長門ながとから仕入れた情報をもとに、餌は天河てんがを加奈に押し付ける算段を練る。


〔仏〕「でも天河てんがって横須賀よこすか住み。新子安しんこやすとは思いっきり逆方向だろ」

〔餌〕「そうなんだけど。長門ながと君情報によると、エロカナって天河てんが君のドストライクなんだって。エロカナみたいな『実の詰まった』女が好きだよなって天河てんが君をからかってたし」

 低身長で豊満かつ適度な筋力を持つ加奈は、黙ってさえいれば確かに青年漫画のグラビアを飾れる逸材いつざいではある。


〔山〕「実の詰まったって。カニの脚じゃあるまいし」

 恐れ知らずの松尾は、『ヨモツヘグイ』の危険も顧みずカニ爪フライをひょいぱくと食べる。

 その様を横目で見ながら、山下が苦笑いをした。




〔松〕「餌さん、本当に天河てんがさんにエロカナさんを譲って良いんですか。エロカナさんって絶対えささんの事が好きなんですよ。好きな子に限っていじめてしまうあの感じ。甘噛あまがみしてくるシーサーみたいです」

 カニ爪フライを食べ終えてぶりの照り焼きに箸を伸ばした松尾が、余計な一言をうっかりと漏らした。


〔仏〕「甘噛みしてくるシーサーってそれ獅子舞っ」

〔三〕「たしかに獅子舞そっくり。ダメだ腹がいてえ。パンダと獅子舞。何という華流カップル」

〔餌〕「ありえない! だって僕とエロカナだよ。絶対嫌だって言ってるじゃん。あーもう絶対あのド変態は天河てんが君に押し付けるっ。僕とエロカナはそんなんじゃないし!」

 皆でげらげら笑っていると、えさが顔を真っ赤にして学食を出て行った。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。


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