25‐6 三崎のマグロ 

〔餌〕「おーい、シャモさーん」

 二試合出場を果たしたえさがエロカナ軍団にり込むと、シャモはエロカナ軍団から少し離れた場所で三崎みさきのマグロそのものになっていた。


〔三〕「土座衛門どざえもんかよ」

 久しぶりに心行くまでスナック菓子や女子との語らいを堪能たんのうした三元さんげんは、瞳孔どうこうが開いたようにフリーズしたシャモを見下ろしている。


〔下〕「ひいっ!」

 異変を察知してシャモの所に駆け寄った下野しもつけが、引きつった悲鳴を上げるなり仏像と山下の所へと駆け寄って来た。


〔山〕「どうした。朝から化け物を見たような顔しやがって」

〔下〕「いる、いるんですよ化け物がそこにっ! あいつ生霊いきりょうどころの騒ぎじゃねえっす。ぱねえっす。おはらいが必要っすよ」


〔仏〕「だからシャモを人柱ひとばしらに差し出して俺らは絶対関わらねえ方が良いって言ったろ。下野しもつけ君は生霊のヤバさを知ってたじゃん」

 二人の会話に、山下は怪訝けげんそうな顔をした。


〔下〕「生霊いきりょうがシャモさんに取りついたんっすよ。さっきから何かシャモさんの隣でぶつぶつ言ってて。手が変なんっすよ何あの手」

〔山〕「はあっ?! どこにも霊なんていないじゃん」

〔下〕「いるじゃないっすか! あの黒髪の大きなリボンつけた女」

〔山〕「あれ人間じゃん」


〔下〕「違うっすよーっ。だってあいつ明らかにシャモさんの生気吸って血色が良くなってますもん。あの手が変なんっすよ。何あのカニばさみみたいな動き」

 仏像が止めろと言うのも聞かず、山下は興味本位で冷凍シャモの所に駆け寄った。



※※※



〔桂〕「第三試合に飛島君を出場させる訳には行きませんか」

 飛島の両親を伴ったサッカー部顧問の桂が、多良橋たらはしに声を掛けてきた。


〔飛〕「ええっ。僕は今日は放送部枠ですよっ。着替えも持ってきていませんし」

〔青〕「必要なは第一試合でかなり撮れたし。ご両親の前で練習の成果を見せたら良いじゃないか」


〔飛母〕「着替えは途中で買いましょう。大丈夫よ」

〔飛父〕「先生、無理を申し上げているのは重々承知ですが」

〔飛〕「いきなり無理ですーっ、次のチームが段違いで強いんですよ」

〔飛母〕「あら、あのおじいさま達そんなに強いの」

 多良橋たらはしが、前年の大会で神奈川地区準決勝に進出したチームなのだと説明した。


〔飛母〕「まあっ。そうでしたか」

 感心したようにゆっくりとうなずくと、飛島の母はにっこりと多良橋たらはしにほほ笑んだ。

〔多〕「飛島君、第一ピリオドだけでも出てみよう。怪我の無いように気を付けて」

 ありがとうございますと頭を下げた両親とは対照的に、飛島は困り果てた顔をした。




〔餌〕「飛島君が僕の代わりに第一ピリオドに出るのーっ。寄りにもよってあの怪物ジジイ軍団相手の試合だよーっ」

 シャモの蘇生そせいあきらめてピッチ脇に戻って来たえさが、多良橋たらはしの指示にええっと大声を上げた。


〔多〕「実戦経験を積ませないと」

 口をとがらせた餌はシャモの元へと駆け去った。


〔多〕「桂先生、山下君フィクソで借りていい」

〔桂〕「どうぞどうぞ。山下君もいい機会でしょ。サッカー部が活動再開できるまでのトレーニングだと思ってやってごらんなさい」

 その言葉に山下がうなずくと、多良橋たらはしは意外なポジションを各人に振った。




〔多〕「第一ピリオド ピヴォ(FW)政木 右アラ(MF)飛島 左アラ(MF)天河 フィクソ(DF)山下 ゴレイロ(GK)長門」

〔天〕「あれ下野しもつけ君は。俺が左アラ(MF)ってどういう事ですか」

 その言葉に多良橋たらはしは冷凍シャモの方角を指さした。



〔女A〕「ぎゃーっ、ひー君かーわーいーいーっ」

〔女B〕「ひー君いい匂いすんねー。どこの柔軟剤じゅうなんざいかなあ」

〔女C〕「ぽてとあーんしたげるーっ。はいあーんっ」

〔下〕「んぐぐ、うんぐーっ」

 エロカナ軍団にほしいままにされ魂が抜けた下野を、一同は哀れみの表情で見た。


〔仏〕「あれそう言えば服部は」

〔長〕「ちょっと長めのお手洗い」

〔天〕「脂汗をかいていたから、多分第一ピリオドは間に合わないよ」


※※※



〔服〕「紙よ、紙よ、汝は我を見放したるか」

 本人の知らぬところで赤裸々に体調を暴露された服部は、ペーパーホルダーに触れた瞬間、三崎のマグロのように凍り付いた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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