47 あれこれ俺が振られた感じ?

 月曜日午前九時。

 ロープウェーの始発を待って大山おおやまを下山したシャモには、未だ追手おってが来ない。



 昔ながらの参道さんどうを冷やかす余裕の出来たシャモは、土産物屋みやげものやをきょろきょろと見て回る。


 そばや佃煮つくだになどの入った袋をよいせっと担ぐと、比婆ひばさんから貼られたアルミの封印ふういんがポロリと落ちて突風に巻かれた。

〔シ〕「あっ、やべえ」

 慌ててシャモが左腕を見ると――。


〔シ〕「梵字ぼんじシールが無くなってる」

 シャモをあやつるナノチップ疑惑があった梵字ぼんじシールがはがれた事に安堵あんどのため息をつくと、無意識でシャモはスマホを探る。

 スマホを家に置き忘れた事が頭からすっぽ抜けていたシャモは、大人しくバスに乗り込んだ。




新香町美濃屋しんこちょうみのや



 無言で玄関を開けたシャモは無言で台所脇を通ると、無言で自室に続く階段を登って行った。

〔シャモ母〕「何だよ漢太帰って来たのかい。一声掛けりゃ良いじゃないか幽霊ゆうれいじゃあるまいし」


 日高昆布ひだかこんぶを手にしたシャモの母が、いつもの調子でシャモに声をかける。

 丸一日家出状態のシャモに対して、あまりにあっさりとした対応である。



〔シャモ母〕「それにしても随分早いじゃねえか。本当に大山おおやまに行って来たんだろうね」

 シャモの母は胡乱うろんな目をシャモに向けた。


〔シ〕「は、何でそれを」

〔シャモ母〕「大山おおやまに行って来るって言っただろ」

 大山おおやま行きは隠したはずなのにと、シャモは母親を探るように見る。


〔シ〕「俺、何で大山おおやまに行ったんだっけ」

〔シャモ母〕「暑すぎて頭の中身が溶けちまったのか。試合の後に友達と一緒に大山おおやまのキャンプ場に行くって言ってただろ」

 シャモは違和感を感じつつも、ああ、あれねと言葉をにごして自室へ上がった。




 シャモの部屋はリフォームされた状態のままである。

 シャモは息をひそめてスマホを開き、SNSを確認した。


〔シ〕「藤巻ふじまきしほり、と――。ブロックされてる。何だよこれ俺が振られたみてえじゃん。えっ日曜日? スマホがおかしい」

 シャモはあわててパソコンを立ちあげる。


〔シ〕「パソコンも日曜日。あれ、試合は土曜だった。試合後に家に帰って徹夜てつやして、コンビニに行って平川さんに会って。その時点で日曜日だよな」

 シャモは指を折りつつぼそぼそとつぶやく。


〔シ〕「平川さんのバイクで国府津こうづに連れていかれて、小田原から広島まで新幹線に乗って。サンフルーツ優勝さんと広島駅新幹線口で待ち合わせたのが日曜日の午後一時」


〔シ〕「車で比婆ひばさんの所に連れていかれて。広島駅から新幹線に乗って小田原で降りて、伊勢原いせはら駅まで小田急で。この時点で日曜の夜だろ。それで鶴巻中亭つるまきあたりてい二〇二号室に泊まった。それから一夜明けてお参りに。これが月曜の朝」

 シャモはカラーペンを取り出して、メモ用紙に線を引っ張る。


〔シ〕「またリムジンに乗せられた後みたいに、時間感覚がおかしくなってるんじゃねえか。疲れすぎて変な夢を見てたのか。それとも単に曜日表示がおかしくなっただけ」

 考えることを止めたシャモは、電池が切れたように寝た。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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