44 本音のお願い
〈日曜日午後三時 広島県北部某所〉
深い
〔
玄関先であいさつをしようとしたシャモを見るなり、
〔比婆〕「あんた大層ええご縁を結んでもろうたな。流れのままに
〔シ〕「えええええっ。俺何も知らないままに」
〔比婆〕「聞くまでもない。全ては
くわばらくわばらと早口で言いながらぴしゃりと戸を閉めて鍵を掛けた
〔比婆〕「
〔サ〕「
〔比婆〕「
シャモは何か思い当たる節があったようであわてて車に乗り込んだ。
〔比婆〕「これを腕に貼れ」
※※※
〔サ〕「本当に家に連絡は取らんで良いんか」
〔シ〕「取ったら台無しだ」
シャモは左腕に貼られたアルミ箔をちらりと見ながら、サンフルーツ優勝のスマホを操る。
〔シ〕「よっしゃ空き部屋ゲット。
〔サ〕「そんなにヤバい女なんかね。何でまたそんな事に」
〔シ〕「こっちが聞きたいよ。俺、昔から超がつく
〔サ〕「ヒバゴンがあんなに叫ぶのも珍しいけえのう。よほどな大物がついとったんかのう」
〔シ〕「白蛇の塚守りだって、事情通の爺さんは言ってたんだけど」
〔サ〕「何じゃそら。よう分らんが、とにかく無事での」
サンフルーツ優勝に買ってもらったキャップに伊達眼鏡で変装をしたシャモは、新幹線の自由席で長身をかがめて気配を消した。
コンビニでお泊りキットにバリカンを購入したシャモは、タクシーを捕まえる。
いつもなら気軽に車を頼める二階ぞめき(
真夜中の大山の
スマホもない中、シャモは頼りなさげな電灯と月の光を頼りに、民家と間違えるような
二〇二号室と書かれたパネルを押すと、今どき見かけない長い棒の付いたキーが転がり落ちてくる。
〔シ〕「何か、デジャヴ」
シャモは一言つぶやくと、ぎしぎしときしむ暗い廊下を歩いて二〇二号室の鍵を開けた。
※※※
七月初旬の月曜日。大山の朝。
昨夜の不気味さが嘘のように、
〔シ〕「よし、行くか」
頭をバリカンで丸めたシャモは、荷物を背負って
時刻は午前六時を回った所。
平日にもかかわらず、
〔シ〕「春合宿で来た時はロープウェーだったんだよな」
ロープウェーの
まだ高校三年生の彼をあざ笑うように、明らかに年配の女性登山客たちが次々と追い越していく。
〔シ〕「これでも結構運動している方なのに、情けねえなあ」
シャモは
ちょっと足を踏み外すと谷底に一直線の登山道を、みつると同い年ぐらいの女性たちが鈴を鳴らしながらひょいひょいと登る。
反対側に目を向けると、少しでもバランスを崩すとケーブルカーの線路上に転落するほど切り立った
〔シ〕「
高所恐怖症の気があるシャモはそこから一歩も動けなくなってしまった。
ちなみに男坂の下りは、崖を転がり落ちる勢いで降りていくひたすら石階段の男気コースである。
〔男〕「お兄さん、大丈夫ナリか」
登山客に道を譲る
見上げると口調に全くそぐわない、大人の色気あふれる四十がらみの
〔男〕「あれ、前もお兄さんとこんな会話をしたような」
見たことも無い男に、シャモは首を横に振る。
〔男〕「運命かなって、ちょっとときめいちゃった♡」
〔シ〕「そう言うセリフは若い女の子にどうぞ。俺、ソッチじゃないんで」
ここで見知らぬ男に『食われる』か、
シャモに与えられた選択肢は二つ。
〔男〕「あ、ごめんね。そう言うつもりじゃないよ。息子と来るつもりだったんだけど、勝手に行ってくれって断られちゃって。お手製のフレンチトーストも『ぷいっ』てするし。反抗期なんだよねえ」
男のペースに巻き込まれるように再び登山を始めたシャモは、いつしか
〔男〕「うおおおおおおっ。気持ちいいなあア。下社でこれなんだから山頂に行ったらどうなっちゃうんだろ。五郎君にもこの景色を見せてあげたかったなあ」
〔シ〕「僕はここで。お気をつけていってらっしゃい」
〔男〕「若者よ、五郎君の代わりに一緒に山登りをしてくれて感謝なのだお! ありがとだお!」
山頂に上るのだと言う男を登山口で見送ると、シャモは絵馬をいそいそと購入した。
【『普通の』彼女と『普通』のお友達から『普通』の恋人になりたい。できれば高三の夏までに彼女が欲しい。水着デートもしたいです 横浜市
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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